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第二章 悪夢の果てに

昇格試験

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 諒太は人族らしき彼女に連れられ、地下にある試験場へと来ていた。深夜であるというのに、試験が受けられるなんてドワーフは割と夜型なのかもしれない。
「なんだ、一暴れできると思ったら人族かよ? せっかく良い感じで呑んでいたのに。クソ野郎、覚悟しろよ? 酔った俺は手加減できないからな……」
 試験官らしき男が凄んで言った。まるで怖さはなかったけれど、諒太は無言のまま頷きを返している。

「ゴンドンもこう言っています。やめるのなら今のうちですよ?」
 試験の担当者はゴンドンというらしい。屈強なドワーフに相応しい大斧を肩に置いている。また二人は試験の結果が明らかであるといった風に話す。

【ゴンドン】
【大斧使い・Lv80】

 初心者が移動できないエリアだけあって、やはり強い。ただし、それはレベルだけの話だ。ステータス値は諒太が40程度であった頃よりも遥かに弱い。
「俺は急いでいるんです。さっさと始めましょう。ルールはあるのですか? 使用武器に制限があるとか……」
「世間知らずな小僧だな? ワシはAランク冒険者だぞ? 聖剣を使おうが魔王の杖を使おうが構わん。倒れるまでにかすりでもすればお前は合格だ……」
 ゴンドンによると諒太は彼に触れるだけで合格らしい。だとしたら武器は必要ない。何しろ彼の敏捷値は16しかないのだ。70を超える諒太がスピード勝負で劣るとは考えられなかった。

「じゃあ素手で。一応、手加減しますけど、死んだとしても不問としてくださいね?」
「ガハハ! そのままお前に返そう! 死んだとして酒場に化けてでるなよ? 酒が不味くなってかなわんからな!」
 少し煽りすぎたかもしれない。さりとて流石に諒太も腹が立っていた。戦うよりも前に弱者と決めつけるなんてと。

「ならば始めましょう。両者いいですね? それでは試験開始!」
 瞬殺できたのだが、諒太はゴンドンの攻撃を見てみようと考えている。不正を疑われない程度にしないと難癖をつけられてしまうからだ。

「うおおおお!」
 大声を上げながらゴンドンが突っ込んで来る。だが、異様に遅い。Aランク冒険者だと話していたけれど、諒太の試験教官としては完全に不適格であった。
 ヒラリと躱し、諒太はゴンドンの肩を軽くポンと叩く。触れるだけで合格だと聞いたのだ。従って試験はこれで終了となるはずだ。

「偶然避けるとはツイてやがるな! だが次はないぞ!」
 しかし、試験は続行となる。聞いた話と違ったけれど、管理者ぽい女性も止める様子はない。
「ローリングアックス!」
 言ってゴンドンがスキルを使用。どうやら彼は本気で諒太を倒そうとしているらしい。
 そのスキルは大斧専用の戦技みたいだ。グルグルと斧を振り回しながら諒太に突進してくる。

 普通のDランク冒険者であれば首と胴体を切り離していたことだろう。けれど、諒太にとっては隙だらけだった。範囲攻撃であり威力もあるのだろうが、まるでスピードがないその剣技は格下相手にしか通用しないはず。
「死ぬなよ?」
 諒太は回転の隙をついて踏み込んだ。そのままの勢いでゴンドンの鎧へと拳を突きつける。鉄製の鎧であれば下手なことにはならないだろうと。

「うぎゃあああぁぁっ!!」
 ところが、刹那にゴンドンの絶叫が木霊する。と同時に彼は吹き飛び、後方にある壁へと激突。そのままずり落ちて、遂には動かなくなってしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」
 諒太の拳はゴンドンの鎧を破壊している。それはつまり攻撃の威力を鎧が受けきれなかったということ。手加減していたというのに、割と良いパンチがゴンドンに直撃してしまった。

「いけない! 救護班急いで!」
 一転して試験場は大騒動となる。白目を剥き痙攣しているゴンドンを見ると大丈夫とは思えない。不安げな諒太を余所に救護班による懸命な治療が施されていた。

「まいったな。カウンター扱いになったか……」
 スキル中の攻撃はカウンター判定となったようだ。ゴンドンが受けたダメージは五割増しになったのだと考えられる。

 ゴンドンが治療室に運ばれてから三十分ばかり。ようやくと治癒士が部屋から出てきた。
「治癒士殿、ゴンドンは大丈夫でしょうか!?」
「セリス様、一応は命を取り留めました。しかし、全身の骨が折れており、彼が再び戦えるようになるかは不明です……」
 マジかよと諒太は呟く。スキルすら使用していないのにゴンドンは再起不能かもしれないという。

 とりあえず諒太はセリスとかいう代表者らしき女性に合否を問う。こんなところで時間を潰している暇はないのだ。
「それでセリスさんでしたか? 俺は合格ですかね?」
「え、ええ……合格ですね……。それで貴方のギルドカードは本物なのですか? 記載内容とまるで違うじゃないですか? 確かに装備は魔法士のそれですが……」
 間違っても魔法は使えなかった。ドワーフたちは魔法耐性がやたらと低い。かといって杖で殴るのは武器扱いとなり、素手の攻撃よりも強くなってしまう。よって諒太は消去法的に拳を突きつけただけである。

「すみません。試験と同じでジョブの更新をしていないのです。基本的にソロなので魔法士以外にも色々と習得しています……」
「困りますね。魔法武闘士であるのなら魔法武闘士と更新してください。それでレベルは幾つなのです?」
 正直に話して良いものかどうか。セリスは真偽を見る魔道具を持っているし、迂闊なことは言えない。

「レベルは83です……」
 Lv101だなんて口が裂けても言えない諒太はファイヤーボールの熟練度レベルを口にした。
 決して嘘ではない。だから魔道具には反応しないはず。どんな結果になったとして諒太はとことん誤魔化すだけである。
「レベル83!? 人族ですよね!?」
「見ての通りです。エルフに見えますか?」
 諒太の質問返しにセリスは大袈裟に首を振った。見た目だけは明確に人族であったのだが、彼女は種族的な強さに比例しない諒太を人族だと思えなかったようだ。

「いやまあ、人族以外には見えませんね……。ひょっとして強遺伝子を持っているのですか?」
 聞き慣れない言葉。強遺伝子とは一体なんだろうかと考える。憶測の域を出ないけれど、恐らくはプレイヤーの流れを汲む人間を指すような気がした。
「そんなところです。俺は一般的なアクラスフィア王国兵よりもかなり強いはずですから」
「かなりなんてものじゃありません。ドワーフのAランク冒険者を素手で瀕死に追い込む人族が如何ほど存在するでしょうか? アクラスフィア王国が貴方様を取り込んでいない理由が不明です。本当に冒険者であり、アクラスフィア王とは何の関係もないのですか?」
 雲行きが怪しくなってしまう。さっさと更新手続きをしてくれれば助かるのだが、生憎とセリスは諒太に弁明を求めていた。

 これは言わば最終確認に違いない。アクラスフィア王家との関係が少しでもあれば諒太は捕縛されるだろう。魔道具の判定によって間者とされてしまうはず。
「俺は王様に会ったことすらありません。様々なダンジョンを踏破し、強敵を仕留めてきましたけど、褒美も何も頂戴していませんし……」
 武勇伝はそれなりに広まっているはずだが、呼び出されることも使者が来ることすらなかった。召喚場所は王城の敷地内であるけれど、宮殿とは離れているし接点など少しもない。

「ああ、なるほど。忠誠心を抱けなかったというわけですか。確かにアクラスフィア王の良い話は聞きませんし、政策に関しても無策。貴方ほどの才能を無下に扱うとは王としての器ではなかったのでしょう」
 ギルドの管理者とはいえ、一般市民が他国の王をここまで扱き下ろすだなんて異常である。公的な場所ではなかったけれど、それでも酒場での雑談とは違ったというのに。
「もしかして王様とお知り合いでしょうか?」
 ひょっとするとセリスもまた亡命者かもしれない。彼女の話に諒太はそんなことを想像してしまう。

「ええ、実はお会いしたことがあります。私は元冒険者でありますが、これでもガナンデル皇国の上位貴族です。あと冒険者ギルドの責任者ではございません。偶然、居合わせただけであり、ギルド長が留守であったため私が対応させて頂いただけです」
 執拗に諒太を疑っていたのはそのせいだろう。やはり貴族は国益を第一に考える。もしもギルド長であれば、カード情報の更新なんて些細な問題として扱っていただろう。

 ふと諒太は彼女のステータスを覗き見てしまう。元冒険者であり、上位貴族だといった彼女が気になってしまったから。

【セリス・アアアア】
【公爵家令嬢・Lv90】

 諒太は絶句していた。彼女の強さを確認しようとしただけであるが、予想外の内容を目にしている。
 確かアアアアは夏美が話していたフレンドであるはず。ガナンデル皇国の要職についたというその人だろう。だとしたら彼の子孫がセリスということになる……。

 越後屋とココの子孫に会うよりも早く、どうしてか諒太はガナンデル皇国の大臣であったプレイヤーの子孫と出会っていた……。
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