上 下
64 / 226
第二章 悪夢の果てに

荒野の邂逅

しおりを挟む
 諒太は再び夏美の倉庫へと戻ってきた。既にグレートサンドワーム亜種の骸はなく、何もない荒野が拡がっているだけだ。

「この先に農耕地があるのか……」
 とても信じられない。見渡す限りに砂漠とも言える草木のない大地が拡がっている。ガナンデル皇国に奪われたという農耕地帯がこの先にあるなんて考えられなかった。
「ポータルが使えたら良かったんだけど。歩いて行くしかないな……」
 移動ポータルは訪れた経験がある者にしか使用できない。仮に経験者がいたとして、戦時であるこの世界線において堂々と他国へ向かう人間がいるはずもなかった。

 よって諒太は歩くだけ。どこに関所があるのか分からないけれど、街道も封鎖されている現在では行き交う馬車もなく、諒太は徒歩を選択するしかなかった。
 何時間歩いただろうか。もう直ぐ両親が帰ってくる時間だ。何とか特徴のある場所まで辿り着き、ログアウトしなければならない。
「あの岩山にしよう……」
 荒野にポツンとあった岩山。そこであれば転移できそうだ。イメージするため周囲の景色を諒太は目に焼き付けている。

 すると背後から馬が駆ける蹄の音がした。街道を外れていたというのに、どうも諒太を追ってきたような気がする。
「面倒だな……。盗賊か?」
 振り向くと派手な金色の鎧を纏った騎士らしき男が追っていた。しかし、諒太は何の罪も犯していないし、もちろん罪人ではない。騎士団員が追ってくる理由が分からなかった。

「おいそこのお前、貴様は何者だ?」
 偉そうな口ぶりで諒太は問われている。恐らく騎士団員ではない。装備を見る限りは近衛兵団に所属する団員であろう。
「俺はリョウ。ただの冒険者です。貴方こそ何者ですか?」
「僕はイバーニ・レイブン。近衛兵団先兵隊長をしている。近衛兵団長ダリン・レイブンの息子といえば分かりよいか? お前は何もない荒野で何をしている? まさかガナンデルに亡命するつもりではないだろうな?」
 ようやく彼が追いかけて来たわけを理解できた。敵国に亡命する王国民だと勘違いしたらしい。

「ガナンデル皇国に用事があるのは事実です。特殊な素材を手に入れたので防具の製作依頼をするだけですよ……」
「特殊な素材だと? どこで手に入れた?」
 本当に邪魔臭くなってきた。しつこいようであれば諒太にも考えがある。アクラスフィア王には世話になったことがないし、近衛兵団に媚びるつもりもない。

「何故そこまで話す必要があるんです? そもそも貴方こそこのような荒野で何をしているのでしょう?」
「僕は先兵隊所属だと言ったはずだぞ? ガナンデル皇国に動きがないかを偵察しているのだ。騎士団は無能で信用できないからな。それより貴様は騎士団が召喚した勇者候補ではないのか?」
 意外にもイバーニは諒太のことを知っているようだ。諒太自身は王城を歩き回ったことなどないというのに。
「どうでしょうか? 答える義務はないと思いますけど」
「ふはは! ならば剣を抜け! 直接見定めてやろう!」
 どうやら返答を誤ったらしい。上手くやり過ごすつもりだったが、余計な手間をかけなくてはならなくなった。

「そのようなことをしている場合ですか? それに俺は見ての通り、魔道士ですけれど?」
「知ったことか! 魔道士ならば呪文を唱えれば良いだろう? かなりの実力者であるのは分かっている。仕掛けてこぬならこちらから行くぞ?」
 面倒なことになったけれど、こうなると戦った方が早い。イバーニから剣を抜けと言ったのだ。反撃したとして悪落ちはしないはず。ならば鬱憤晴らしも兼ねて、少しばかり痛めつけてやろうと諒太は思い直している。

【イバーニ・レイブン】
【近衛兵団先兵隊長・Lv73】

 予想はしたけれどイバーニは一般的なNPC扱いの人間ではないらしい。確かレイブン近衛兵長なる人がアクラスフィア王国最強だとフレアが話していた。近衛兵団長の息子であるイバーニはプレイヤーの血を継いでいるのだろう。
「いつでもどうぞ。返り討ちにしたとして怒らないでくださいよ?」
「減らず口をたたくな! 行くぞ!」
 諒太は直ぐさま剣に持ち替え、馬上から攻撃してくるイバーニに合わせた。流石に高レベルだ。重い一撃が繰り出されている。

 ところが、何を思ったのか初撃を防がれるやイバーニは馬を飛び降りていた。何かしらの剣技を有しているのかもしれない。
【剣技】アーマーブレイクLv1
 馬を下りたのはアーマーブレイクを使用するために違いない。それは敵の防御力を半減させられるスキルだ。かといって諒太は焦らない。そもそもローブを装備しており、防御力など始めから紙切れであったのだ。

「しゃーねぇ、さっさと終わらせるか……」
 いち早く夕飯を平らげなくてはならない。食べた痕跡を残さねば、帰宅した両親が心配するはずだ。恐らくは部屋まで様子を見に来るだろう。

「行くぞ、アーマーブレイク!!」
 早速とスキルを発動するイバーニ。しかし、防御力を半減させる攻撃であるからか、アーマーブレイクには大きな隙があった。

 素早く避けた諒太はすれ違い様にイバーニを小突く。かなり加減したつもりだけど、それだけで彼は失神し地面へと伏してしまう。
「やりすぎたか……」
 レベル差はともかく、ステータス値が違いすぎた。どのような間違いがあろうと、イバーニが諒太を倒せるはずもない。

「ま、これで悠々とログアウトできるというものだ……」
 一応は生存を確認し、諒太はログアウトを選択する。さっさと夕飯を食べて、ガナンデル皇国へと向かわねばならない。準備に残された時間は限られていた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...