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第二章 悪夢の果てに

モテ期

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 聖王城をあとにした諒太。正直にエクシアーノの街並みを見るのは夏美のプレイ以来である。従って三百年前の記憶しかない諒太は迷子になる可能性を否定できなかった。

「サンテクトの何倍あるんだ……?」
 オツの洞窟に程近いサンテクトの比ではない。聖都エクシアーノはアクラスフィア城下よりも随分と発展を遂げている。
「まいったな……。これじゃあ夏美を見つけようがない……」
 大通りを一人歩いていたのだが、これ程の大都市にて一個人を発見するのは不可能だと思う。たとえエルフの中に紛れた人族といえども。

 ところが、諒太の予想とは異なり、問題は即座に解決する。諒太は大通りの真ん中に人集りを見つけていた。何やら問題ごとを予感させる騒々しい群衆を……。
「あれは……?」
 群衆の中心に衛兵の姿がある。誰かを取り囲んでいるようだ。それだけの状況証拠だけで諒太は察知している。

「あいつ……」
 絶対に夏美だと思う。間違いなく集団の中心にいるのは夏美だと。必ず問題ごとを起こすと考えていたけれど、予感通りに夏美は衛兵に取り囲まれるような事態を引き起こしてしまったらしい。
 人混みを掻き分け、諒太は騒動の中心地へと到着。衛兵に止められたけれど、保護者だと名乗り出て何とか夏美の元まで近付いていた。

「おいナツ、いい加減にしろよ?」
「リョウちん、助けに来てくれたんだ!」
 夏美は今もドワーフの奇面を装備していた。包囲された原因は明らかであったけれど、装備しておけといったのは諒太である。だから夏美にだけ責任があるわけではない。

『ロークアット、城下街の大通りに来てくれ。俺たちの身分証明を頼みたい』
『何か問題がありましたか? 直ぐに向かいます!』

 念話にてロークアットを呼び寄せる。正直に事態の収拾は彼女でなければ無理だろう。諒太がいくら問題ないと口にしたとして、敵対勢力の仮面を被った人間を見逃してくれるはずもない。
「それでナツ、何をやらかした?」
「別に何もしてない! お店を見て回ろうと思っただけ!」
 やはり奇面が問題であるようだ。今後を考えればフルフェイスタイプのヘルメットが必須かもしれない。

 衛兵に取り囲まれながら話をしていると、ようやくロークアットが到着。王女殿下の登場とあっては流石に群衆が割れていた。

「兵は剣を収めなさい! お二方は女王陛下が賓客として招かれた方々です! 奇面は問題ありません! 事情により外せなくなっただけですから!」

 普段はあまり威厳を感じさせないロークアットだが、兵や民の前ではやはり王女殿下である。彼女が声を張ると瞬く間に群衆が散っていく。
「ロークアットすまん。俺では対処しようがなかった……」
「ああいえ! わたくしもお連れ様と同行すべきでした。申し訳ございません……」
 もはや観光するような雰囲気ではない。渋る夏美を無理矢理に連行し、三人は王城まで戻っている。

「ねぇ、ローアちゃんってリョウちんのこと好きなの?」
 ふと夏美が妙な質問を口にする。かといって別に的外れではない。夏美はロークアットを呼び寄せたのが諒太であると理解したのだ。対となる誓いのチョーカーによって……。

「わ、わたくしは!? いやそのあの、このチョーカーなら必要になるかもとお渡ししただけです!?」
 耳まで真っ赤にしてロークアットは恥ずかしがっている。こんなにも動揺する彼女を諒太は見たことがない。
 ロークアットはそそくさと諒太たちの元を離れていく。流石に居たたまれなかったのだろう。態度から明らかであったけれど、彼女は隠しきれたと考えているらしい。

 再び諒太は夏美に薄い目を向けられている。遂に謎のモテ期を感付かれてしまった。ゲームだと考えていた頃のアーシェはともかくとして、ロークアットに関しては弁明できない。特に気のある行動をした覚えもないのだが、どうしてか彼女に慕われていた。

「リョウちん、ひょっとして魅力値がやたらと高いんじゃないの?」
 問い詰められるかと思いきや、夏美は理解に悩む話をする。ステータスに魅力値は表示されていないし、今のところ知る術はなかったはずなのに。

「魅力値? 隠しステータスだよな?」
「そうだよ。今までに獲得した称号って何?」
 称号といえば二つ名的なものだろう。確か諒太が最初に得たものは……。
「軟派で臆病……」
 そう口にした瞬間、蔑むような目をする夏美。やはり知っているみたいだ。その称号をどうやって手に入れたのかを。

「ギルドの受付嬢を口説いたんだ……? まあサービス開始直後の男子は大抵その称号だったよ。でもリョウちんの称号で魅力値に関係するのは軟派だけだね。確か微増だったはず。臆病は特に意味はないね」
 表情は軽蔑したままであったが、夏美は古参プレイヤーらしく丁寧な説明をする。ならばと諒太は疑問に感じていた現在の称号について聞いてみようと思う。
「今は勇敢なる神の使いなんだが、それはどういった効果がある?」
 諒太の質問に夏美は眉根を寄せる。諒太自身も調べたけれど、現在の称号は攻略サイトにも載っていなかった。

「それってどうやって獲得したの? 初めて聞いたけど……」
「んん? あれは確かグレートサンドワームを討伐した時だ……」
 叡智のリングによる効果が惜しくて無理矢理に挑んだ。倒したあと諒太は勇敢なる神の使い(盗人)となったはず。
「それだけ? そのときの状況は?」
「レベル49だった。インフェルノで倒したんだ。一撃だったな……」
「じゃあ、それは高難度モンスターを低レベル討伐するのが鍵かもしれない。半分以下のレベルが条件とか……」
 真剣に考えたことはなかったけれど、確かにあり得ないことをしたと思う。インフェルノが発動できたからこそであるが、諒太は一度に二十もレベルが上がる強敵を倒したのだ。

「恐らくそれは最高の称号と呼ばれる【神の加護】系だろうね。リョウちんの基本ステータスが異様に高いのは称号のせいだと思う。勇者補正がかかる前に称号による基礎値の上昇が少なからずあるはずだよ」
 夏美が話す通り諒太のステータス値はレベル上位の夏美に引けを取らない。ラックに関しては一桁だが、その他は勝るとも劣らないものだ。

「この称号が魅力値にも関係しているのか? 俺はこの世界で異様にモテてしまうんだよ」
 またもや冷ややかな視線を向けられている。しかし、ステータス的なものであるのかを諒太は知りたかった。言動による好感度なら対処しようもあるけれど、素質的な部分であるのなら気にするだけ無駄なのだ。

「隠しステータスだけど、ガナンデル皇国には魅力値を調べられるNPCがいるの。気になるなら調べたらいいよ。でも基礎ステータスが高い人は、隠しステータスが劣ると言われてるんだけど……」
 アルカナにおいてプレイヤーはステータスに関与できない。それはつまり開始時に絶望を与えるようなものなのだが、基礎ステータスに恵まれなかったプレイヤーは隠しステータスが優秀だと公式に発表されている。器用さが高ければ生産職向きであり、嗅覚値という聞き慣れないステータスは採掘効果が高い。また要職に就くようなプレイヤーは総じて魅力値が高いという。

「奇跡的に魅力値が高いってことか? 調べられるなら隠す必要なくね?」
「隠しステータスは滅茶苦茶あるからね。全部は調べきれないけど、一部は見てもらえるんだよ。隠しステータスによって適正ジョブが分かったりもするし。でも魅力値はあまり戦闘ジョブに関係ないから、ガナンデル皇国に行くまで調べられないの」
 なるほどと諒太。夏美によると隠しステータスは二十近くもあるらしい。
 力の基礎値が低く戦士系を諦めたプレイヤーであっても、器用さが高ければ短刀などのライトソードを上手く扱える。また神官職や魔法職についても効果のある隠しステータスがあり、調べる必要はあったけれど、プレイヤーは様々なジョブを模索できる仕様だった。

 諒太はアーシェやロークアットに対する行動を夏美に伝える。夏美であれば今後取るべき対処方が分かるかもしれないと思って。
「二週間で二人に告られるってのは異常だよ。好感度上げは何度も会ってプレゼントや適切な会話が必要だし。アーシェちゃんはともかく、ロークアットちゃんについては称号による上乗せが関係しているんじゃないかな。相性もあるだろうけど、恐らく加算じゃなくて乗算というべき補正が働いているはず」
「恐ろしいことを言うな。それなら今後も俺は女性に対して気を遣わねばならんじゃないか? 冷たく対応するのは嫌だし、普通通りに接するだけでモテてしまうのなら」
 夏美の推論に疑問を抱く諒太だが、現状から考えるに間違っていない気もする。少し会話をしただけのロークアットが好意を示したのだ。一日もかからず王女殿下の好感度をカンストさせてしまうなんて普通のことではない。

「でも原因が分かって良かったじゃん! リョウちんが素でモテるわけないもん!」
「うるせぇ。俺だって困惑してんだよ……」
 残念ながら諒太のモテ期はステータスという数字に左右されていただけらしい。異世界は自身の魅力を理解してもらえる素敵な場所だと考えていたというのに。
 諒太は嘆息する。モテるのは嬉しかったけれど、それが人柄や外見から判断されたものではないと知って。

「強ステによるモテ期とか笑えねぇな――――」
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