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第一章 導かれし者
予期せぬ女王との出会い
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洞窟の由来について聞いたあとは会話が弾み、二人は気付けばサンテクトへと到着していた。仮眠をして何か食べたいと話すと、ロークアットは彼女たちが泊まる宿へと連れて行ってくれる。
世界樹亭という宿は王族が寝泊まりしている割に豪華さの欠片もない。ロークアットが話していたように気遣い無用というわけなのだろう。
「少し早いですけど、一緒に朝食を取りましょう」
「本当ですか!?」
前世でどんな徳を積んだのかは分からなかったけれど、諒太は高貴且つ絶世の美女と朝食を共にできるらしい。これには無礼も考えず二つ返事で同意していた。
既に食堂はオープンしており、諒太は個室へと通される。一応は宿も配慮しているみたいだ。早速と配膳された料理に諒太は無作法にもかぶりつく。
「美味い! 晩飯もほとんど食べていなかったんですよ!」
「ずっとオツの洞窟に?」
「強くなるために来ましたから。アクラスフィア王国のダンジョンでは物足りなくて……」
諒太の返答にロークアットは目を丸くしている。やはり人族がオツの洞窟で戦うのが珍しいのだろうか。
「リョウ様はお強いのですね? ちなみにレベルはおいくつなのでしょう?」
「レベルは71です。俺はもっと強くならなきゃいけない」
何度も頷くロークアット。彼女も諒太の決意を分かってくれた感じである。
「どうして強くなりたいのでしょう? もう十分お強いかと思うのですけど……」
ロークアットのレベルを盗み見たのは黙っておくべきだ。彼女より弱いという返答なんてロークアットは望んでいないはずである。
「俺は不死王リッチを倒したい……」
少しばかり返答を誤ったかもしれない。間違ってもそれは願望ではなく、諒太に課せられた罰であり担うべき責任でもあったからだ。
対するロークアットは小首を傾げている。どうも彼の話が信じられなかったようだ。
「リッチは過去にナツ様によって討伐されたはずでは?」
「そうでしょうか? あの海域には魔物被害が多発していると聞いておりますけど? 強大な魔力に惹かれて魔物が集まっているとしか考えられません」
間違いなくリッチは復活しているだろう。
ゲーム世界の夏美が幾ら倒そうとも、魔道塔を離れた瞬間にリッチはリポップする。改変されたセイクリッド世界において、アルカナの設定は世界の理となっているはずだ。
「なら魔道塔はどうなっています? 破壊されていますか?」
諒太は質問を変えた。夏美がプレイする世界では馬鹿なプレイヤーによって、魔道塔のボス部屋が破壊されたらしい。けれど、夏美が直接影響を与えていない事象はセイクリッド世界に反映されていないはず。
「魔道塔は当時のまま……。かつてナツ様が踏破されました頃と何も変わっていないはずです……」
やはり諒太の予想は正しかった。影響を与えるプレイヤーは夏美と彼女のフレンドまでだろう。
「リッチは何度倒しても復活します。何しろ不死王なのですから……。また俺はリッチがドロップする不死王の霊薬を求めています。一週間以内にそれを持ち帰らなくてはなりません」
不死王の霊薬についてはロークアットも聞き覚えがあるようだ。諒太が誰かを救おうとしているのは容易に察せられたはずである。
「アクラスフィア王国で何か問題でもあったのでしょうか?」
「別に要人が死の淵にあるわけではありません。個人的に助けたい人……。ああいや、違う。俺には絶対に救わねばならない人がいるだけです……」
溜め息混じりに諒太が答えた。
対するロークアットは小さく頷くと、席を立って諒太を手招きをする。まだ朝食の途中であったというのに、どうしてか諒太は彼女の寝室へと招かれていた。
思いもよらぬ展開だ。ロークアットのフラグを無意識に立てていたのかもしれない。セイクリッド世界において、なぜか諒太は謎のモテ力を発揮している。アーシェに関する件もそうだし、お姫様の寝室へと案内されるなんて絶対に普通ではないと思う。
「母の寝室です……」
「ですよねぇ!」
ガクリと肩を落とす諒太。割と緊張していたというのに、現実は期待と異なっている。
そもそも出会って間もない諒太に好意を寄せるはずがないのだ。しかも諒太は彼女からしたら異人種でもあるのだし。
「セシリィ女王陛下の? 俺が入室しても構わないのですか?」
「問題ありません。今の話を女王にしてください。不死王はスバウメシアが抱える問題でもありますから……」
言ってロークアットはノックをしてから扉を開く。応答を待たなかったのは彼女が愛娘であるからだろう。
「お母様、起きてください。急用なのです!」
ノックをしたはずが、セシリィ女王は眠ったままだ。千百歳と聞いていたけれど、彼女はロークアットに勝るとも劣らない美貌を保っている。
「んなぁ? ローアァ……?」
「はい、わたくしです! 実は会って欲しい人がいるのです」
「誰なのよぉ……? 朝っぱらから彼氏の紹介……?」
セシリィ女王は完全に寝ぼけ眼だ。ロークアットが指さした方を向くも、トロンとした目で諒太を眺めているだけ。
ところが、彼女は急に目を剥いてベッドから飛び降りる。
「大福!? 貴方、蘇ったのね!?」
なぜか諒太はいちご大福と間違えられていた。夏美からそんな話は聞いていない。もしも諒太といちご大福が似ているのなら、真っ先にその話をしているはずだ。
「お母様、違います。彼は黒髪に黒い瞳ですけれど、お父様ではありません!」
ロークアットの指摘により、ようやくセシリィ女王も夢と現実を区別できたらしい。コホンと小さく咳払いをしてから諒太に謝罪する。
「人族の方、すまない。とても懐かしい夢を見ていたのでな。最愛なる夫が帰ってきたのかと勘違いしてしまった……」
どうやらセシリィ女王は今もまだいちご大福を愛しているようだ。三百年近くが経過しているはずなのに、今もまだ夢に見るなんて何とも愛が深いと思う。
「俺はリョウといいます。不死王リッチについて話を聞いてもらえますか?」
先ほど話したリッチのこと。諒太は女王に全て伝えた。間違いなくリッチは存在するのだと。塔が破壊されていないのであればリッチは復活しているはずと。
「なるほどな。それは合点がいく話だ。あの海域では魔物被害があとを絶たない。全ては不死王が復活しているからか……」
「俺はリッチを倒したい。リッチが持つ不死王の霊薬を求めているからです。だけど、レベルもスキルも足りません。だから強くなろうと考えています」
加勢してくれとはいえなかった。諒太は自分の目標を伝えただけだ。今以上に誰かを巻き込みたくはない。
「それでリョウはオツの洞窟で戦っているわけか……」
「お母様、どうかリョウ様に協力してもらえませんか?」
ロークアットが協力を願い出てくれる。それは願ってもない話だが、諒太としては無理に頼むつもりもない。
「ローア……。全く血は争えんな?」
「お母様の娘ですもの……」
理解不能な遣り取りがあったあと、女王は大きく溜め息をついた。この様子ならロークアットの要求は敢えなく却下となるだろう。
「リョウといったな。ローアの頼みであれば協力させてもらおう。今は亡き夫の遺品。いちご大福のアイテムを貸してやる……」
ところが、予想とは異なり、セシリィ女王は諒太にアイテムを貸与してくれるという。それも彼女の夫であったいちご大福の遺品を。
「もうそろそろエクシアーノへ戻ろうかと考えておったのだ。ついてくるがいい」
「お母様、もう帰ってしまうのですか!?」
諒太への助力を願ったロークアットであったが、彼女はまだサンテクトに残りたいらしい。かといってセシリィ女王はそれを良しとせず、大きく首を振って聖都エクシアーノへ戻ると告げてしまう。
「ローア、さっさと帰り支度を始めろ。休暇は終わりだ!」
寝起きの頃とはまるで違う。セシリィ女王はロークアットを急かした。着替えがあるだろうからと、諒太は部屋を出て待つことにする。
女性の身支度であるから、それなりに待たされると考えていた。しかし、僅か五分足らずで部屋の扉は開かれている。
「リョウ、待たせたな。行くぞ」
既に女王は立派なドレスに着替えられていた。ロークアットもまたドレス姿である。
声をかけただけでセシリィ女王はツカツカと先を行く。唖然とするも諒太は彼女について行くしかなかった。
再び大聖堂へと。司教もまた睡眠中であったようだが、女王陛下の命令には逆らえない。身なりこそ整えていたけれど、彼の髪はまだ寝起きのままである。
即座に転移の祝詞が唱えられ、諒太たちは瞬く間に聖都エクシアーノへと転送されていく。まさか自分の足でエクシアーノに立つとは少しも考えていなかったというのに。
諒太の世界が一段と拡がっていく……。
世界樹亭という宿は王族が寝泊まりしている割に豪華さの欠片もない。ロークアットが話していたように気遣い無用というわけなのだろう。
「少し早いですけど、一緒に朝食を取りましょう」
「本当ですか!?」
前世でどんな徳を積んだのかは分からなかったけれど、諒太は高貴且つ絶世の美女と朝食を共にできるらしい。これには無礼も考えず二つ返事で同意していた。
既に食堂はオープンしており、諒太は個室へと通される。一応は宿も配慮しているみたいだ。早速と配膳された料理に諒太は無作法にもかぶりつく。
「美味い! 晩飯もほとんど食べていなかったんですよ!」
「ずっとオツの洞窟に?」
「強くなるために来ましたから。アクラスフィア王国のダンジョンでは物足りなくて……」
諒太の返答にロークアットは目を丸くしている。やはり人族がオツの洞窟で戦うのが珍しいのだろうか。
「リョウ様はお強いのですね? ちなみにレベルはおいくつなのでしょう?」
「レベルは71です。俺はもっと強くならなきゃいけない」
何度も頷くロークアット。彼女も諒太の決意を分かってくれた感じである。
「どうして強くなりたいのでしょう? もう十分お強いかと思うのですけど……」
ロークアットのレベルを盗み見たのは黙っておくべきだ。彼女より弱いという返答なんてロークアットは望んでいないはずである。
「俺は不死王リッチを倒したい……」
少しばかり返答を誤ったかもしれない。間違ってもそれは願望ではなく、諒太に課せられた罰であり担うべき責任でもあったからだ。
対するロークアットは小首を傾げている。どうも彼の話が信じられなかったようだ。
「リッチは過去にナツ様によって討伐されたはずでは?」
「そうでしょうか? あの海域には魔物被害が多発していると聞いておりますけど? 強大な魔力に惹かれて魔物が集まっているとしか考えられません」
間違いなくリッチは復活しているだろう。
ゲーム世界の夏美が幾ら倒そうとも、魔道塔を離れた瞬間にリッチはリポップする。改変されたセイクリッド世界において、アルカナの設定は世界の理となっているはずだ。
「なら魔道塔はどうなっています? 破壊されていますか?」
諒太は質問を変えた。夏美がプレイする世界では馬鹿なプレイヤーによって、魔道塔のボス部屋が破壊されたらしい。けれど、夏美が直接影響を与えていない事象はセイクリッド世界に反映されていないはず。
「魔道塔は当時のまま……。かつてナツ様が踏破されました頃と何も変わっていないはずです……」
やはり諒太の予想は正しかった。影響を与えるプレイヤーは夏美と彼女のフレンドまでだろう。
「リッチは何度倒しても復活します。何しろ不死王なのですから……。また俺はリッチがドロップする不死王の霊薬を求めています。一週間以内にそれを持ち帰らなくてはなりません」
不死王の霊薬についてはロークアットも聞き覚えがあるようだ。諒太が誰かを救おうとしているのは容易に察せられたはずである。
「アクラスフィア王国で何か問題でもあったのでしょうか?」
「別に要人が死の淵にあるわけではありません。個人的に助けたい人……。ああいや、違う。俺には絶対に救わねばならない人がいるだけです……」
溜め息混じりに諒太が答えた。
対するロークアットは小さく頷くと、席を立って諒太を手招きをする。まだ朝食の途中であったというのに、どうしてか諒太は彼女の寝室へと招かれていた。
思いもよらぬ展開だ。ロークアットのフラグを無意識に立てていたのかもしれない。セイクリッド世界において、なぜか諒太は謎のモテ力を発揮している。アーシェに関する件もそうだし、お姫様の寝室へと案内されるなんて絶対に普通ではないと思う。
「母の寝室です……」
「ですよねぇ!」
ガクリと肩を落とす諒太。割と緊張していたというのに、現実は期待と異なっている。
そもそも出会って間もない諒太に好意を寄せるはずがないのだ。しかも諒太は彼女からしたら異人種でもあるのだし。
「セシリィ女王陛下の? 俺が入室しても構わないのですか?」
「問題ありません。今の話を女王にしてください。不死王はスバウメシアが抱える問題でもありますから……」
言ってロークアットはノックをしてから扉を開く。応答を待たなかったのは彼女が愛娘であるからだろう。
「お母様、起きてください。急用なのです!」
ノックをしたはずが、セシリィ女王は眠ったままだ。千百歳と聞いていたけれど、彼女はロークアットに勝るとも劣らない美貌を保っている。
「んなぁ? ローアァ……?」
「はい、わたくしです! 実は会って欲しい人がいるのです」
「誰なのよぉ……? 朝っぱらから彼氏の紹介……?」
セシリィ女王は完全に寝ぼけ眼だ。ロークアットが指さした方を向くも、トロンとした目で諒太を眺めているだけ。
ところが、彼女は急に目を剥いてベッドから飛び降りる。
「大福!? 貴方、蘇ったのね!?」
なぜか諒太はいちご大福と間違えられていた。夏美からそんな話は聞いていない。もしも諒太といちご大福が似ているのなら、真っ先にその話をしているはずだ。
「お母様、違います。彼は黒髪に黒い瞳ですけれど、お父様ではありません!」
ロークアットの指摘により、ようやくセシリィ女王も夢と現実を区別できたらしい。コホンと小さく咳払いをしてから諒太に謝罪する。
「人族の方、すまない。とても懐かしい夢を見ていたのでな。最愛なる夫が帰ってきたのかと勘違いしてしまった……」
どうやらセシリィ女王は今もまだいちご大福を愛しているようだ。三百年近くが経過しているはずなのに、今もまだ夢に見るなんて何とも愛が深いと思う。
「俺はリョウといいます。不死王リッチについて話を聞いてもらえますか?」
先ほど話したリッチのこと。諒太は女王に全て伝えた。間違いなくリッチは存在するのだと。塔が破壊されていないのであればリッチは復活しているはずと。
「なるほどな。それは合点がいく話だ。あの海域では魔物被害があとを絶たない。全ては不死王が復活しているからか……」
「俺はリッチを倒したい。リッチが持つ不死王の霊薬を求めているからです。だけど、レベルもスキルも足りません。だから強くなろうと考えています」
加勢してくれとはいえなかった。諒太は自分の目標を伝えただけだ。今以上に誰かを巻き込みたくはない。
「それでリョウはオツの洞窟で戦っているわけか……」
「お母様、どうかリョウ様に協力してもらえませんか?」
ロークアットが協力を願い出てくれる。それは願ってもない話だが、諒太としては無理に頼むつもりもない。
「ローア……。全く血は争えんな?」
「お母様の娘ですもの……」
理解不能な遣り取りがあったあと、女王は大きく溜め息をついた。この様子ならロークアットの要求は敢えなく却下となるだろう。
「リョウといったな。ローアの頼みであれば協力させてもらおう。今は亡き夫の遺品。いちご大福のアイテムを貸してやる……」
ところが、予想とは異なり、セシリィ女王は諒太にアイテムを貸与してくれるという。それも彼女の夫であったいちご大福の遺品を。
「もうそろそろエクシアーノへ戻ろうかと考えておったのだ。ついてくるがいい」
「お母様、もう帰ってしまうのですか!?」
諒太への助力を願ったロークアットであったが、彼女はまだサンテクトに残りたいらしい。かといってセシリィ女王はそれを良しとせず、大きく首を振って聖都エクシアーノへ戻ると告げてしまう。
「ローア、さっさと帰り支度を始めろ。休暇は終わりだ!」
寝起きの頃とはまるで違う。セシリィ女王はロークアットを急かした。着替えがあるだろうからと、諒太は部屋を出て待つことにする。
女性の身支度であるから、それなりに待たされると考えていた。しかし、僅か五分足らずで部屋の扉は開かれている。
「リョウ、待たせたな。行くぞ」
既に女王は立派なドレスに着替えられていた。ロークアットもまたドレス姿である。
声をかけただけでセシリィ女王はツカツカと先を行く。唖然とするも諒太は彼女について行くしかなかった。
再び大聖堂へと。司教もまた睡眠中であったようだが、女王陛下の命令には逆らえない。身なりこそ整えていたけれど、彼の髪はまだ寝起きのままである。
即座に転移の祝詞が唱えられ、諒太たちは瞬く間に聖都エクシアーノへと転送されていく。まさか自分の足でエクシアーノに立つとは少しも考えていなかったというのに。
諒太の世界が一段と拡がっていく……。
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