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第一章 導かれし者
第一王女殿下ロークアット
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セイクリッド世界にあるスバウメシア聖王国。セイクリッド三国の一角であり、言わずと知れたエルフの王国である。
スバウメシア聖王国の南西に位置するサンテクトは交易都市として栄えていた。
「ローア、休暇だからといって羽目を外すんじゃないぞ?」
サンテクトの大通りに一際目を惹く二人の美しいエルフがいた。一人はスバウメシアの女王セシリィ。護衛も連れずに堂々と彼女は通りを行く。またセシリィ女王に続くのは銀色に輝く美しい髪の持ち主。二人目の彼女はスバウメシア聖王国第一王女殿下のロークアットであった。
どうやら彼女たちは休暇中のよう。美しい自然が拡がるサンテクトの地はバカンスに最適であったのだ。
「分かっております。王族としての振る舞いはいつ何時も忘れません。わたしくは国民の代表であると自覚しておりますから」
「それで良い。【世界樹亭】は戦禍を逃れた数少ない宿。店主は気さくな人物だが、礼節をわきまえるようにな……」
ロークアットが聖都エクシアーノを離れることはあまりない。従ってセシリィ女王は彼女に釘を刺す。浮かれ気分にならないようにと。
「そういえばサンテクトは激戦地であったのですね……」
それは彼女が生まれる直前のこと。人族を王配としたセシリィ女王に対し、純血主義者たちが反旗を翻している。反乱軍にはガナンデル皇国が助勢し、セシリィ女王率いる正規軍には友好国であるアクラスフィア王国軍がついた。勝者は正規軍であったものの、聖都エクシアーノと交易都市サンテクトは戦禍に見舞われ甚大な被害に遭ったのだという。
「ああ、その通りだ。大福がエクシアーノを死守し、勇者ナツが南方より攻め入ったガナンデル皇国軍を殲滅した。奇しくもスバウメシア王家は二人の人族により救われている」
語られる歴史は改変を受けたものである。けれど、現在においては紛れもなく歴史の一部であった。
「でも今は活気に満ちていますね? わたくしはとても嬉しいです」
復興を遂げたサンテクト。三百年が経過しているのだから当たり前かもしれない。しかし、長命であるエルフたちにとって、その期間は特別に長いというわけでもなかった。
「あれが宿だ。緑の屋根が見えるだろう? 手前の道具屋が赤い屋根で、奥側にある食堂が黄色。この景観はいつ見ても私の感情を刺激する……」
ロークアットは察していた。婚姻したのちに両親がサンテクトの地を訪れた話を聞いたことがある。従って向かう宿が夫婦で宿泊した場所なのだと簡単に想像できた。
「楽しみです。色々な話を聞けたらと思います……」
「恐らく美人に成長したローアを見て驚くぞ?」
「そうでしょうかね?」
二人の笑い声が通りに響く。すれ違う全員が唖然と固まったのち慌てて礼をする。たとえ予想し得ない邂逅であったとしても、セシリィ女王は聖王国の象徴なのだ。誰もが彼女を知っており、一様に敬意を払っている。
街行く人の姿にロークアットは笑みを浮かべた。母が国民の誰からも尊敬されていること。全員に慕われているのだと知れたのだ。
僅か一週間の滞在であるけれど、ロークアットはこの休暇を満喫しようと思うのだった……。
スバウメシア聖王国の南西に位置するサンテクトは交易都市として栄えていた。
「ローア、休暇だからといって羽目を外すんじゃないぞ?」
サンテクトの大通りに一際目を惹く二人の美しいエルフがいた。一人はスバウメシアの女王セシリィ。護衛も連れずに堂々と彼女は通りを行く。またセシリィ女王に続くのは銀色に輝く美しい髪の持ち主。二人目の彼女はスバウメシア聖王国第一王女殿下のロークアットであった。
どうやら彼女たちは休暇中のよう。美しい自然が拡がるサンテクトの地はバカンスに最適であったのだ。
「分かっております。王族としての振る舞いはいつ何時も忘れません。わたしくは国民の代表であると自覚しておりますから」
「それで良い。【世界樹亭】は戦禍を逃れた数少ない宿。店主は気さくな人物だが、礼節をわきまえるようにな……」
ロークアットが聖都エクシアーノを離れることはあまりない。従ってセシリィ女王は彼女に釘を刺す。浮かれ気分にならないようにと。
「そういえばサンテクトは激戦地であったのですね……」
それは彼女が生まれる直前のこと。人族を王配としたセシリィ女王に対し、純血主義者たちが反旗を翻している。反乱軍にはガナンデル皇国が助勢し、セシリィ女王率いる正規軍には友好国であるアクラスフィア王国軍がついた。勝者は正規軍であったものの、聖都エクシアーノと交易都市サンテクトは戦禍に見舞われ甚大な被害に遭ったのだという。
「ああ、その通りだ。大福がエクシアーノを死守し、勇者ナツが南方より攻め入ったガナンデル皇国軍を殲滅した。奇しくもスバウメシア王家は二人の人族により救われている」
語られる歴史は改変を受けたものである。けれど、現在においては紛れもなく歴史の一部であった。
「でも今は活気に満ちていますね? わたくしはとても嬉しいです」
復興を遂げたサンテクト。三百年が経過しているのだから当たり前かもしれない。しかし、長命であるエルフたちにとって、その期間は特別に長いというわけでもなかった。
「あれが宿だ。緑の屋根が見えるだろう? 手前の道具屋が赤い屋根で、奥側にある食堂が黄色。この景観はいつ見ても私の感情を刺激する……」
ロークアットは察していた。婚姻したのちに両親がサンテクトの地を訪れた話を聞いたことがある。従って向かう宿が夫婦で宿泊した場所なのだと簡単に想像できた。
「楽しみです。色々な話を聞けたらと思います……」
「恐らく美人に成長したローアを見て驚くぞ?」
「そうでしょうかね?」
二人の笑い声が通りに響く。すれ違う全員が唖然と固まったのち慌てて礼をする。たとえ予想し得ない邂逅であったとしても、セシリィ女王は聖王国の象徴なのだ。誰もが彼女を知っており、一様に敬意を払っている。
街行く人の姿にロークアットは笑みを浮かべた。母が国民の誰からも尊敬されていること。全員に慕われているのだと知れたのだ。
僅か一週間の滞在であるけれど、ロークアットはこの休暇を満喫しようと思うのだった……。
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