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第十五章 世界と君のために
スカーレット子爵家の歴史
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王都ルナレイクへ戻る途中、私は超久しぶりにスカーレット子爵領へと戻っていました。
ペガサスにて降り立った娘にダンツは驚いていましたが、驚愕されられたのは私も同じです。
「家が綺麗になってる……?」
どうしてかボロボロの馬小屋だった子爵邸が建て替えられていたのです。
客人を招くのも憚られるボロ小屋だったのに。
「ワハハ! お前が陞爵した折にな、王家のご厚意で建て直してもらえたんだ!」
「自分の稼ぎじゃないのに、自慢げに話してんじゃないわよ……」
相変わらずダンツは無能を全開にしていますけれど、私は別に家族の顔を見に戻ったわけではありません。
「お父様、うちの家系図ってある? どうせ先祖は盗賊とか無法者だったのでしょうけど」
「馬鹿にするなよ? うちは王家と匹敵するくらいの歴史がある。元々は集落の長であったらしいが、長くこの地を治めたという理由で爵位を賜ったのだ」
マジですか。
絶対に良からぬ者であったはずと確信していましたが、意外にもスカーレット子爵家は割とまともな家系であったようです。
「家系図見せて。確認しないと……」
「見て驚け。我が子爵家は広大な領土だけではないということをな!」
自信満々にダンツ。このような態度が疑念を呼ぶわけですけれど、当人はいたって真面目なのでどうしようもありません。
家に入ると母メイアが驚いていましたが、今は家系図が優先です。母にはご迷惑をおかけいたしておりますけど、娘はどうしても確認したいのです。
家から繋がる廊下を進み、私とダンツは蔵へとやって来ました。
ガラクタしか入っていない蔵なのですけれど、ここにスカーレット子爵家の家系図があるとのこと。
「ああ、これだ。心して見るがいい!」
手渡されたのは巻物状になった書物でした。
年代ごとに継ぎ足されているようで、一番新しいところには弟のレクシルの名が記されています。
「ずっと古いところよね……」
気になるのはアンジェラの娘がいるのかどうか。
赤髪をしていたリサリアの名が含まれているかどうかです。
思いのほか、子爵家の歴史は古く何代にも亘って子爵家のままでした。
ダンツが話したように王家と比べても遜色ないくらい歴史だけはある感じ。
「あった……」
遂にリサリアの名を見つけています。しかし、それは初代スカーレット子爵よりも前の時代。
初代スカーレット子爵の曾祖母に当たるところでした。
(ここから赤髪が始まっているのかもしれない)
スカーレット子爵家の由来は赤髪であったこと。
双子の片割れであったリサリアの血がそうさせていたのかもしれません。
「お父様、このリサリアという女性の資料はありませんか?」
「流石にそこまで古い資料は残っていないな。まあしかし、元々うちの家系は魔法能力に長けていたと聞いている。村に現れる魔物を強力な魔法で殲滅していたらしい」
ま、アンジェラの血を引いているのだからそうかもしれないわね。
かといって、その血は薄れて、いつしか脳筋一族となったのだろうと思いますけど。
「アナのような強力な魔法使いが時代時代で現れていたとも聞いているぞ? お前は確実に祖先の血が濃いと俺は考えている」
ここで少しばかり想像と異なる話があった。
そういや、ダンツはあまり驚いていなかったわね。私があの岩山を吹っ飛ばしたときでも。
ダンツなら住人全員に私の凄さを伝えて回ってもおかしくはないのに。
「なるほどね。じゃあ、当代のスカーレット子爵は、このノーキン・スカーレット子爵の血が濃く伝わっているのね?」
三代目にあるノーキン・スカーレット子爵こそが元凶だとしか思えません。
まあそれは確実にイメージでしかありませんでしたが、何だか確信めいたものがあったりもします。
「ああ、その方は確か武勇に秀でていたはずだ。内乱でも王家側について戦った英雄であるはずだぞ」
「英雄ね……」
もしも、三代目がインテリであったのなら、現状はもう少し発展していたかもね。
三代目以降が脳筋となったのであれば、未開のジャングルであるのも頷ける話だったりします。
「ありがと。これから王都に戻るわ。色々と大変なのよ」
「らしいな。リーフメルの噂は俺も聞いている。議事会も延期になったし、王国はどうなるんだろうな?」
「え!? 議事会って延期になっていたの?」
ここで私は知らされていました。
ルークとイセリナの婚約破棄を決定する議事会。
もうとっくに終わったのかと思いきや、延期されていたようです。
「そりゃそうだろ? イセリナ様が再婚約するセシル殿下が所領から戻られないのだからな。悪い話と良い話を同時に済まそうとしたから延期せざるを得なくなったのだろう」
そういうことか。じゃあ、きっと議事会はまだまだ先の話になるわね。
何しろリーフメルはまだ土砂に埋もれたまま。半分くらいしか撤去できていないのですから。
「議事会には俺も出席する予定だ。そのときには顔くらい見せろ」
偉そうに。ま、ダンツはこれでも私のことを心配してるのよね。
いつかは黙って家出してしまったのです。だからこそ、釘を刺すように言うのでしょう。
「はいはい。いつまでも子供じゃないっての……」
「お前は子供のときから、直ぐにいなくなるからな……」
呆れたようなダンツに手を振って、私は子爵家をあとにします。
家族の愛を知ると同時に、私は女神から託された事柄を理解している。
巨悪である黒竜の討伐。
隠された使命に私は気付いていました。
ペガサスにて降り立った娘にダンツは驚いていましたが、驚愕されられたのは私も同じです。
「家が綺麗になってる……?」
どうしてかボロボロの馬小屋だった子爵邸が建て替えられていたのです。
客人を招くのも憚られるボロ小屋だったのに。
「ワハハ! お前が陞爵した折にな、王家のご厚意で建て直してもらえたんだ!」
「自分の稼ぎじゃないのに、自慢げに話してんじゃないわよ……」
相変わらずダンツは無能を全開にしていますけれど、私は別に家族の顔を見に戻ったわけではありません。
「お父様、うちの家系図ってある? どうせ先祖は盗賊とか無法者だったのでしょうけど」
「馬鹿にするなよ? うちは王家と匹敵するくらいの歴史がある。元々は集落の長であったらしいが、長くこの地を治めたという理由で爵位を賜ったのだ」
マジですか。
絶対に良からぬ者であったはずと確信していましたが、意外にもスカーレット子爵家は割とまともな家系であったようです。
「家系図見せて。確認しないと……」
「見て驚け。我が子爵家は広大な領土だけではないということをな!」
自信満々にダンツ。このような態度が疑念を呼ぶわけですけれど、当人はいたって真面目なのでどうしようもありません。
家に入ると母メイアが驚いていましたが、今は家系図が優先です。母にはご迷惑をおかけいたしておりますけど、娘はどうしても確認したいのです。
家から繋がる廊下を進み、私とダンツは蔵へとやって来ました。
ガラクタしか入っていない蔵なのですけれど、ここにスカーレット子爵家の家系図があるとのこと。
「ああ、これだ。心して見るがいい!」
手渡されたのは巻物状になった書物でした。
年代ごとに継ぎ足されているようで、一番新しいところには弟のレクシルの名が記されています。
「ずっと古いところよね……」
気になるのはアンジェラの娘がいるのかどうか。
赤髪をしていたリサリアの名が含まれているかどうかです。
思いのほか、子爵家の歴史は古く何代にも亘って子爵家のままでした。
ダンツが話したように王家と比べても遜色ないくらい歴史だけはある感じ。
「あった……」
遂にリサリアの名を見つけています。しかし、それは初代スカーレット子爵よりも前の時代。
初代スカーレット子爵の曾祖母に当たるところでした。
(ここから赤髪が始まっているのかもしれない)
スカーレット子爵家の由来は赤髪であったこと。
双子の片割れであったリサリアの血がそうさせていたのかもしれません。
「お父様、このリサリアという女性の資料はありませんか?」
「流石にそこまで古い資料は残っていないな。まあしかし、元々うちの家系は魔法能力に長けていたと聞いている。村に現れる魔物を強力な魔法で殲滅していたらしい」
ま、アンジェラの血を引いているのだからそうかもしれないわね。
かといって、その血は薄れて、いつしか脳筋一族となったのだろうと思いますけど。
「アナのような強力な魔法使いが時代時代で現れていたとも聞いているぞ? お前は確実に祖先の血が濃いと俺は考えている」
ここで少しばかり想像と異なる話があった。
そういや、ダンツはあまり驚いていなかったわね。私があの岩山を吹っ飛ばしたときでも。
ダンツなら住人全員に私の凄さを伝えて回ってもおかしくはないのに。
「なるほどね。じゃあ、当代のスカーレット子爵は、このノーキン・スカーレット子爵の血が濃く伝わっているのね?」
三代目にあるノーキン・スカーレット子爵こそが元凶だとしか思えません。
まあそれは確実にイメージでしかありませんでしたが、何だか確信めいたものがあったりもします。
「ああ、その方は確か武勇に秀でていたはずだ。内乱でも王家側について戦った英雄であるはずだぞ」
「英雄ね……」
もしも、三代目がインテリであったのなら、現状はもう少し発展していたかもね。
三代目以降が脳筋となったのであれば、未開のジャングルであるのも頷ける話だったりします。
「ありがと。これから王都に戻るわ。色々と大変なのよ」
「らしいな。リーフメルの噂は俺も聞いている。議事会も延期になったし、王国はどうなるんだろうな?」
「え!? 議事会って延期になっていたの?」
ここで私は知らされていました。
ルークとイセリナの婚約破棄を決定する議事会。
もうとっくに終わったのかと思いきや、延期されていたようです。
「そりゃそうだろ? イセリナ様が再婚約するセシル殿下が所領から戻られないのだからな。悪い話と良い話を同時に済まそうとしたから延期せざるを得なくなったのだろう」
そういうことか。じゃあ、きっと議事会はまだまだ先の話になるわね。
何しろリーフメルはまだ土砂に埋もれたまま。半分くらいしか撤去できていないのですから。
「議事会には俺も出席する予定だ。そのときには顔くらい見せろ」
偉そうに。ま、ダンツはこれでも私のことを心配してるのよね。
いつかは黙って家出してしまったのです。だからこそ、釘を刺すように言うのでしょう。
「はいはい。いつまでも子供じゃないっての……」
「お前は子供のときから、直ぐにいなくなるからな……」
呆れたようなダンツに手を振って、私は子爵家をあとにします。
家族の愛を知ると同時に、私は女神から託された事柄を理解している。
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