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第十五章 世界と君のために
世界に闇を落とす者
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セシルに依頼されていたように、私は週末を利用して所領へと戻っております。
最初に訪れた時とは打って変わって大歓声で迎えられました。
「皆様、本日はパーティーです! 全ての費用は私が負担しますので、大いに盛り上がっていきましょう!」
副都リーフメルでだけ馬鹿騒ぎしたのでは不満が噴出しかねない。よって私はクルセイドでも同じように散財を始めています。
終わることのない姫様コール。加えて万雷の拍手は私に対する期待感でしょう。
この土地がよりよい発展を遂げられるかどうか。私は彼らの望むがままに政策を練っていくしかありません。
「アナスタシア様、お疲れさまです」
住人たちと盛り上がっていると、領主代行のリックがやって来ました。
この散財に最初は難色を示していた彼ですが、全てクレアフィール公爵家からせしめたお金だと知ると苦笑いに表情を変えています。
「リック、長く留守にして悪かったわね?」
「ああいえ、メルヴィス公爵家が廃爵となって、見違えるほど平和になりました。思えば街中のいざこざは全て公爵の策であったのかもしれません」
「そっか。リーフメルも平和であればいいけど……」
我が所領は平穏そのもの。飲めや歌えの大騒ぎが始まっております。
かといって、喧嘩しないように釘を刺しておりますので、全員がただ楽しんでいるだけでした。
「姫様、この特級酒を召し上がってください! 秘蔵のボトルなんです!」
不意に私はボトルを手渡されていました。
現れた男性はワイナリーの責任者だそうで、とっておきのボトルをプレゼントしてくれたみたいです。
「ありがとう! てか、これキリクの香りがする……」
「お気付きでしたか! 少し癖がありますけれど、品評会でも評価を受けている自信作です。是非、姫様に呑んでいただきたくお持ちしました」
もう懐かしくも感じる。この真っ黒なボトル。
開栓するまでもなく漂うキリクの香りを私は知っていました。
「夜にでも開けて見るわ。ありがとう!」
私が頭を下げるや、彼は顔を赤らめています。
まあ、私はうら若き乙女ですから、そのような反応になるのかもね。
このあとは貢ぎ物ラッシュとなってしまう。
スタンドプレイをしたワイナリーの男性に負けじと特産品やら家で作ったお菓子まで様々。全て私は笑顔で受け取っています。
「アナスタシア様は意外と人たらしですよね……」
薄い目をしてリックが言う。
人たらしとは聞き捨てならないわね?
ここは私の所領なんだから、持て囃されて当たり前だっての。
「人徳っていうのよ?」
「良く言えばですけどね。頻繁に街中に現れる領主とか聞いたことがありませんよ。普通なら物々しい警備で視察するものじゃないですか?」
「どこの誰が私に勝てるって? いるのなら会ってみたいわ」
リックは再び苦笑いです。
レグスルートから始まったこの世界線。私は火竜を剣術にて討伐するため、かなりの鍛錬を積んでいます。
よって、素人紛いの暗殺者が現れたところで返り討ちにする自信があるのです。
「おりませんね……。私はもう五年から貴方様を見ておりますけれど、どの場面も強くあり、気高い生き様だと感じます」
「生き様とか知った風に言うじゃない?」
「知ってますよ。サルバディール皇国を攻撃し始めた時には目を疑いましたが、貴方様は人知れず抗っていただけ。カルロ殿下の死を予知した貴方は悪評など気にせず、戦争回避を第一目標とされておりました」
それは後日談だね。いわゆる結果論だわ。
確かに抗ったのだけど、私はカルロへの恩を返したかっただけよ。
命を救ったという恩でもって、自由を手に入れたかっただけなの。
「私は自分勝手なのよ……」
「そうですかね? もしも利己的な理由があったとして、貴方様の行動は全て肯定されるべき。仮に傲慢なご令嬢であれば、これ程までに住民の信頼を勝ち取れるはずがありません。昔も今も貴方様は世界に光をもたらせている……」
リックの評価はむず痒いわ。
本当に私が聖人なら、今も四大公爵家は残っている。
謀略の限りを尽くしたからこそ、もう二つしか残っていないの。
「リック、世界に輝きをもたらせるのは光の聖女よ。私は間違っても世界を照らしてなんかいないわ。それだけは確かね」
これも自信がある。私はエリカとは異なったスタンスで世界を見守っているのだから。
「私は世界に闇を落とす者よ……」
私に世界の浄化などできない。悪に対し、それ以上の悪で立ち向かうだけ。
エリカが世界を照らすのであれば、私は世界の穢れを闇で覆うだけよ。
「まるで魔王ですね?」
「何とでも言いなさい。でも、私だって世界の役に立とうとは考えている。ただし、正義の味方じゃない。性根が歪んでるからね」
リックは笑っています。
彼は今までの無茶を見てきたから知っているでしょう。
契約からして脅しであったし、サルバディール皇国での暴挙もまた悪そのものであったのだから。
「それでも私は光属性の持ち主である火竜の聖女を信じます」
「盲信するのも、ほどほどにしなさいよ?」
悪意に満ちた利己的な行動が世界を浄化させるはずもない。
だからこそ、私は自虐的に返すしかできません。
「私の輝きは何も照らさないから……」
最初に訪れた時とは打って変わって大歓声で迎えられました。
「皆様、本日はパーティーです! 全ての費用は私が負担しますので、大いに盛り上がっていきましょう!」
副都リーフメルでだけ馬鹿騒ぎしたのでは不満が噴出しかねない。よって私はクルセイドでも同じように散財を始めています。
終わることのない姫様コール。加えて万雷の拍手は私に対する期待感でしょう。
この土地がよりよい発展を遂げられるかどうか。私は彼らの望むがままに政策を練っていくしかありません。
「アナスタシア様、お疲れさまです」
住人たちと盛り上がっていると、領主代行のリックがやって来ました。
この散財に最初は難色を示していた彼ですが、全てクレアフィール公爵家からせしめたお金だと知ると苦笑いに表情を変えています。
「リック、長く留守にして悪かったわね?」
「ああいえ、メルヴィス公爵家が廃爵となって、見違えるほど平和になりました。思えば街中のいざこざは全て公爵の策であったのかもしれません」
「そっか。リーフメルも平和であればいいけど……」
我が所領は平穏そのもの。飲めや歌えの大騒ぎが始まっております。
かといって、喧嘩しないように釘を刺しておりますので、全員がただ楽しんでいるだけでした。
「姫様、この特級酒を召し上がってください! 秘蔵のボトルなんです!」
不意に私はボトルを手渡されていました。
現れた男性はワイナリーの責任者だそうで、とっておきのボトルをプレゼントしてくれたみたいです。
「ありがとう! てか、これキリクの香りがする……」
「お気付きでしたか! 少し癖がありますけれど、品評会でも評価を受けている自信作です。是非、姫様に呑んでいただきたくお持ちしました」
もう懐かしくも感じる。この真っ黒なボトル。
開栓するまでもなく漂うキリクの香りを私は知っていました。
「夜にでも開けて見るわ。ありがとう!」
私が頭を下げるや、彼は顔を赤らめています。
まあ、私はうら若き乙女ですから、そのような反応になるのかもね。
このあとは貢ぎ物ラッシュとなってしまう。
スタンドプレイをしたワイナリーの男性に負けじと特産品やら家で作ったお菓子まで様々。全て私は笑顔で受け取っています。
「アナスタシア様は意外と人たらしですよね……」
薄い目をしてリックが言う。
人たらしとは聞き捨てならないわね?
ここは私の所領なんだから、持て囃されて当たり前だっての。
「人徳っていうのよ?」
「良く言えばですけどね。頻繁に街中に現れる領主とか聞いたことがありませんよ。普通なら物々しい警備で視察するものじゃないですか?」
「どこの誰が私に勝てるって? いるのなら会ってみたいわ」
リックは再び苦笑いです。
レグスルートから始まったこの世界線。私は火竜を剣術にて討伐するため、かなりの鍛錬を積んでいます。
よって、素人紛いの暗殺者が現れたところで返り討ちにする自信があるのです。
「おりませんね……。私はもう五年から貴方様を見ておりますけれど、どの場面も強くあり、気高い生き様だと感じます」
「生き様とか知った風に言うじゃない?」
「知ってますよ。サルバディール皇国を攻撃し始めた時には目を疑いましたが、貴方様は人知れず抗っていただけ。カルロ殿下の死を予知した貴方は悪評など気にせず、戦争回避を第一目標とされておりました」
それは後日談だね。いわゆる結果論だわ。
確かに抗ったのだけど、私はカルロへの恩を返したかっただけよ。
命を救ったという恩でもって、自由を手に入れたかっただけなの。
「私は自分勝手なのよ……」
「そうですかね? もしも利己的な理由があったとして、貴方様の行動は全て肯定されるべき。仮に傲慢なご令嬢であれば、これ程までに住民の信頼を勝ち取れるはずがありません。昔も今も貴方様は世界に光をもたらせている……」
リックの評価はむず痒いわ。
本当に私が聖人なら、今も四大公爵家は残っている。
謀略の限りを尽くしたからこそ、もう二つしか残っていないの。
「リック、世界に輝きをもたらせるのは光の聖女よ。私は間違っても世界を照らしてなんかいないわ。それだけは確かね」
これも自信がある。私はエリカとは異なったスタンスで世界を見守っているのだから。
「私は世界に闇を落とす者よ……」
私に世界の浄化などできない。悪に対し、それ以上の悪で立ち向かうだけ。
エリカが世界を照らすのであれば、私は世界の穢れを闇で覆うだけよ。
「まるで魔王ですね?」
「何とでも言いなさい。でも、私だって世界の役に立とうとは考えている。ただし、正義の味方じゃない。性根が歪んでるからね」
リックは笑っています。
彼は今までの無茶を見てきたから知っているでしょう。
契約からして脅しであったし、サルバディール皇国での暴挙もまた悪そのものであったのだから。
「それでも私は光属性の持ち主である火竜の聖女を信じます」
「盲信するのも、ほどほどにしなさいよ?」
悪意に満ちた利己的な行動が世界を浄化させるはずもない。
だからこそ、私は自虐的に返すしかできません。
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