上 下
316 / 377
第十四章 迫る闇の中で

アンジェラ・ローズマリーの日記

しおりを挟む
 髭にアンジェラ・ローズマリーの日記を手に入れてもらった私は自室へと籠もっていました。

「手書きなんだね……」

 中を開いてみると規則正しい文字が並んでいました。

 加えて古書とは思えないほど程度が良く、読むのに支障はありません。

「この日記帳自体が魔術で成っているのか」

 日記帳はパラパラと捲ると無限にページが流れていきます。

 実体としてのページは存在していない感じ。延々とページを加えられる術式が施されているようです。

「綺麗なはずだわ……」

 魔法にてページが成っているのですから、劣化の心配はありません。

 またここまでの術式が施された日記が偽物とすり替わっているとは思えませんでした。

 ただし、内容は本当に日記みたい。気候に関することや、日常のお買い物とか他愛もない内容が続いています。

「これはハズレかも……」

 どうやら私が期待したものではありません。

 BlueRoseのオープニングにあった巨悪を退治した話とか読んでみたかったのですけれど。

「黒竜の話が知りたかったのに……」

 ポツリと漏らすや、ページが輝き出す。

 何が何だか分かりませんでしたけれど、勝手にページが捲れていきました。

「うそ!? 検索とかできんの!?」

 流石は古代エルフの日記ですね。

 一体どれほどの日数が進んだのか不明ですけれど、確かに竜という文字があると分かります。

 単語を一つずつ拾い出しながら、分からない箇所に推測を加えつつ読み解いていく。


『長い旅路。ピークレンジ山脈を越えた場所はまだ平穏そのものだった。やはり黒竜は南の地に現れていないようだ』


 どうやら黒竜はピークレンジ山脈の北側で暴れ回っていた模様です。

 南側の平穏は大陸を分かつ強大な壁であるピークレンジ山脈のおかげなのかもしれません。


『私は大陸の南部を隈無く歩いた。けれど、黒竜の話題など一度も聞かない。しかしながら、南部には火竜という脅威があると聞く。どうも世界は竜によって支配されようとしているらしい。安息の地など存在しないのかもな』


 ここで火竜が出てきました。

 ゲームの設定や世界の歴史から考えると、やはりアンジェラは火竜退治に向かうのだと思います。何しろ彼女はマリィのような幼竜を連れていたのですから。


『コーネルという国を後にし、私は南端を目指す。聞けば火竜は危害を加えない限り襲って来ないらしい。とりあえず、竜種はもうこりごりだ。黒竜がいないこの地で私は英気を養うとしよう』


 大陸の北側で黒竜と戦った経験があるのかもしれない。

 疲れ果てたアンジェラは険しい山脈を越えて南側へと来たようです。


『二つ目の山を登る。しかし、ピークレンジを踏破した私にとっては丘にも等しい。どちらかというと、途中にある密林の方が大変だったと思う』


 えっと、なんだ?

 ピークレンジ山脈から南下してヘブンズヒル山脈とレッドウォール山脈を登ったってこと?

 だったら何?

 途中にある密林って……スカーレット子爵領じゃん!!

 何千年も前に記された日記でもディスられてしまうなんてね。

 まあでも良かったわ。スカーレット子爵領が永遠にド田舎であることが分かって。


『山頂からは南に拡がる国が見えた。かなり栄えている。火竜は本当に人を襲わないのかもしれない。安堵したのも束の間、私の周囲に巨大な影が落ちた』


 日記であるというのに、スリリングな展開です。

 一体何が現れたというのでしょう。


『ちくしょうめ。火竜が現れたらしい。私は直ぐさまロッドを取り出し、応戦しようとする』


 火竜の巣へと向かってしまったのでしょうか。

 というか、昔からレッドウォール山脈には火竜の巣があったのかしらね。


『しかし、戦いは始まらなかった。それどころか、火竜は私に話しかけている。拙い言葉であったけれど、確かに人が使う言葉と同じだった』


 え? 火竜って喋るの?

 咆吼はしてたけど、私にはさっぱり分からない。

 もしかするとエルフにしか聞き取れないのかもしれません。


『火竜はもう寿命を迎えるようだ。幾ばくもなく輪廻に還ると話している。何故に話しかけたのかと問うと、五百年から孵らぬタマゴがあるとのこと。それを私に託したいと口にしている』


 言葉が分かるとこうも違うのね。

 私は襲われたから殲滅したけれど、アンジェラはタマゴを保護してくれと依頼されたみたいです。


『巣には二つのタマゴがあった。腐っているんじゃないかと思うも、火竜は問題ないと話す。タマゴを羽化させるには魔力が必要らしく、残念ながら案内してくれた古竜はもうその力がないと語る。従って五百年も羽化していないとのことだ』


 魔力って……。

 私は別に魔力を注いだつもりもないのだけど、ひょっとするとアイテムボックスに収納していたから、勝手に私の魔力を奪っていたのかもしれません。


『竜種はこりごりだったのだが、やはり頼まれると断りにくい。未練によりゾンビ化されても困るのだし、私は引き受けることにした。二つのタマゴをアイテムボックスへと収納し、火竜と別れることに』


 えっと、二つも持って帰っちゃったの?

 てか、アンジェラはアイテムボックスのギフト持ちだったみたいね。


『火竜からタマゴを受け取って三日ばかり。宿屋に宿泊して目が覚めたときだ。私は妙な泣き声に目を覚ましていた。何とタマゴが二つとも羽化している。しかも、私のお腹の上に二匹共が乗っかっているじゃないか』


 何となく想像できます。

 マリィも生まれるや私の肩へと飛び乗っていたのですから。


『思ったより可愛い。竜種はこりごりだと考えていたのだが、私はこいつたちの親をしたいと思うようになった』


 割と面白いわ。髭に頼んで手に入れてもらった価値があるわね。

 火竜の聖女がどのようにして火竜を得られたのか。伝承には残っていない話が知れるなんて最高じゃないの。


『私は産まれた二人に名を授けることにした』


 私は続きが気になっていました。

 アンジェラが二頭の幼竜に何と名付けたのかと。

 しかし、絶句することに。私は呆然と頭を振ることになっています。


『二人の名はマリィとルイに決めた――』


「えっ……?」

 まるで意味が分からない。偶然にしては出来すぎじゃないかと思う。

 火竜の名前が私たちと同じだなんて。

 どうにも不可解な内容に私はしばし呆然としていました……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...