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第十三章 巨星に挑む

私らしく

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 モルディン大臣との話し合いは、ろくな対策が立てられないものとなっていました。

 現状のルークが元気であったとして、私は罰を受けるようです。

「夕方まで休んでおきます」

 これ以上の話し合いは無駄であると判断した私は退席しようと席を立つ。

 しかし、そんな私にモルディン大臣は待ってくださいと声をかけています。

「何でしょう?」

「いえ、せっかくですからパフォーマンスをしてはどうかと思いましてね。ルーク殿下が無事であることを王都ルナレイク中に知らしめるべきかと」

 何だか意味の分からない提案です。

 今は査問会について考えるべきであって、王国民の支持を集める場合ではありません。

「それって何の意味があるのでしょう?」

「単なるパフォーマンスです。これより続々と参加者たちが王都を訪れます。近隣の貴族は全員が馬車にて王城へと向かうことでしょう。ペガサスにて訪れた貴族たちも人集りに気付くかもしれません。アナスタシア様とルーク殿下の人気を見せつけてやるのですよ」

 ああ、そういうこと。確かに揺れ動く可能性のある貴族であれば、効果があるかもしれない。

 どの道、査問会はランカスタ公爵家とメルヴィス公爵家の対決です。

 要は今後、どちらの側に付くかの意思表明であり、メルヴィス公爵の議案に反対するのであれば、その貴族はランカスタ公爵家に付くだけですね。

「要するに国務大臣をどちらにするかという事前投票みたいな感じですか……」

「裏の意味合いは間違いなくそうなりますね」

 だとすれば、やはりモルディン大臣がクレアフィール公爵に不参加を指示したことは私にとって有意義なことだわ。

 三つ巴になると選びにくい。ランカスタ公爵家とメルヴィス公爵家の争いの勝者が必然的に次期国務大臣となるのは想像に容易いのですから。

「そういうことなら、私は嫌疑をかけられただけで得るものは何もありませんね……」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。もし仮にアナスタシア様の意見が認められたのであれば、貴方は査問会の勝者です。リッチモンド公爵ですらできなかったことを成す。それにより、貴族たちが貴方を見る目は確実に変わる。逆らうべきでない強大な力を持っているのだと分かるはずです」

 ラスボスみたいに言わないでくれるかな。

 正直に今回は私の落ち度など少しもない。明らかな言い掛かりに対して弁明しなくてはならないのよ。

 ラスボスであったなら、力でねじ伏せるところだわ。

「じゃあ、パフォーマンスとやらをやってみます」

「直ぐに馬車を用意しましょう。名目は子爵授爵記念の凱旋パレード。目一杯に愛想を振りまいてください」

 承諾した私は隣にある部屋に押し込まれています。

 そこには色とりどりのドレスが並べられていました。どうやら着替えを促されているみたいね。

「嵌められたかも……」

 明らかに準備していたのだと思います。

 初めからモルディン大臣は私にパレードをさせるつもりだったみたい。

 だって、マリィの服まであるんだもの。私に帰還を急かしたあの頃から準備していたのだと想像できます。

「しょうがない。やれるだけやってみましょうか」

 私としてはリセットされるだけでしたけれど、プロメティア世界に生きる人たちにはたった一度の人生です。

 カルロが失われたままであるように、生き返ることがない。

 今を精一杯に生き抜かねば悔いが残ることになるのです。

「ドレスか……」

 スカーレット子爵家からすると恵まれすぎています。こんなにも豪華なドレスが選べるほどあるだなんて。

 でも何だか違う気がする。私は別に着飾った姿を見せたいわけじゃない。

 私らしい姿を見てもらうのなら、ドレスじゃないと思う。

 
 私がドレッシングルームを出ると、流石にモルディン大臣は目を丸くしていました。

「アナスタシア様、その格好でパレードに参加されるのですか?」

 まあ、そう思うでしょうね。

 なぜなら、私は修道服を着ていたからです。

 ラマティック正教会から支給されたそれをアイテムボックスから取り出して着替えていました。

 民の支持を得るのに、派手なドレスとか必要ないの。私らしい姿を見せたい。

 だから私は修道服しか選べませんでした。
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