上 下
286 / 377
第十三章 巨星に挑む

その罪とは

しおりを挟む
 王都ルナレイクにようやく到着していました。

 降りた先はソレスティア王城でありまして、逃げも隠れもできない状況です。

 一応はモルディン大臣に連絡を取っていますので、極秘裏に戻ってこれたと考えておきましょうか。

 イセリナを王宮殿へと運んでから、私たちはコソコソとモルディン大臣が待つ部屋へと向かいます。

「ああ、アナスタシア様、お疲れのところ申し訳ございません」

 扉を開くや、モルディン大臣が迎え入れてくれました。

 ずっと私を急かしていたのですから、本当に心労だったのでしょうね。

「いえ、とりあえず二人は無事ですけれど、どういった状況でしょうか?」

「厳しいかと存じます。とりあえず、査問会は昨日お伝えしましたように、本日の夕方にメンバーが揃い次第開催される模様です」

 あることないこと言われるのでしょうけれど、私だって負けていないわ。

 徹底的に戦うって決めたんだもの。

「出席が二十五名で欠席が二十名。欠席がここまで多くなったのは急な開催であったことに加え、ランカスタ公爵とメルヴィス公爵のどちらに付くか決められなかったのだと思われます。まあそれでランカスタ公爵側の人数はメルヴィス公爵側よりも二人少なくなる見込みです」

 なるほど、理解したわ。

 私に何の罪を着せるつもりか分からないけれど、どのような難癖であっても肯定させるつもりなのね。

「しかし、私は何を罰せられるのです? こうして殿下も戻って来ましたけれど……」

「議題しか分かっておりません。恐らくルーク殿下の呪いが解けたと理解されていないのではないでしょうか? 反呪とか荒唐無稽な話ですし……」

「いや、私はメルヴィス公爵の目の前で解呪して見せたのですよ?」

 まるで意味が分からないわ。

 呪術師の呪詛が消えたのを爺様も見たはずなのに。

 戻ってくることが遅れたから確信を得たのでしょうかね。

「議題はルーク殿下の護衛不備となっております。レグスも招集されるので、恐らく同時に裁くつもりでしょう」

「なあ、モルディン。俺も査問会に出ようと考えているんだ。俺のせいでアナが辛い目に遭うなんて我慢ならない」

 ここでルークが意見しました。

 議長であるモルディン大臣ならば、自分を査問会に出席させられるだろうと。

「正規の手順では不可能だと思われます。議案提出者であるメルヴィス公爵が認めるはずもありません。明らかにランカスタ公爵側である殿下の出席など……」

「俺は王子だぞ!?」

 声を荒らげるルークですが、私には初めから分かっていたこと。

 査問会という名とは異なり、その実状は責任を押し付ける会でしかないのですから。

 もし仮にルークが言い負かしてしまったならば、誰が査問会の責任を取るのかという話になってしまいます。

 言い出しっぺのご老人を代わりに叩くなどできません。何をするにも評が足りないのです。

 公平さとは無縁の査問会において、私に有利な条件が承諾されるはずもありませんでした。

「何も問題ありませんわ。私は査問会で毅然と証言するだけ。何を問われたとしても、私には正義がある。情状酌量を求めるような真似はしません」

 私の話にはモルディン大臣だけでなく、ルークやレグス団長も溜め息を吐いています。

 何よ? 罪を受け入れて減刑を求めろとでもいうつもり?

「アナ、全員を抹殺するとかなしだぞ?」

「そうですよ。アナスタシア様は逆上されると、何をしでかすか……」

 二人の話には頬を膨らませています。

 どんな狂人だっての? 私だって一応は理性的に話をするつもりよ。相手の出方次第ではあるけれど……。

「アナスタシア様、私は議長を務めさせていただきますが、正直にどちらの肩を持つこともできません。従って、貴方様は審議が打ち切られるまでに、最低でも一人を引き込まなければ罰を受けることになります」

「いや、私は断罪でないのなら、別に構わないのです。領主なんて面倒なだけですし」

 私の返答に、どうしてかモルディン大臣は嘆息しています。

 意欲のなさを嘆いたのか、はたまた別の意味合いでしょうか。

 モルディン大臣は長い息を吐いたあと、私の罪状を告げるのでした。

「議題はアナスタシア様の断罪です――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...