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第十二章 天恵

事後報告

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 イセリナがようやくベッドから起き上がれたのは一週間が過ぎた頃でした。

 王都では査問会が開かれることになっており、当事者である私は出席を求められています。

「たく、あのご老人は信じてないのかしら? 目の前で呪術師が失われたというのに、今もルークが伏せっていると考えているのかしらね」

 悪い噂ほど拡がるのが早い。

 よって、噂を流した張本人であるメルヴィス公爵でさえも、既に火消しできないのかもしれません。

 査問会は上位貴族が出席し、被告人的に私が出席しなければならないみたい。

 連日、矢のようにモルディン大臣から念話が届きますけれど、イセリナの体調が戻るまで私は王都へ向かわないと決めていました。

「リック、モルディン大臣に繋がる魔道具を置いていくわ。何かあれば連絡してちょうだい」

「承知しました。どうかお気をつけて……」

 リックもまた査問会の意味合いを理解しているのでしょう。

 不安げな表情をして魔道具を受け取っています。

 とにかく戦いは始まったばかりよ。それに前世で私は嫌と言うほど査問会に出席しているし。

 かといって、ほぼ全て有罪とされてしまったのだけど。

「アナスタシア様、ゴンドラの準備が整いました」

 イセリナが回復したきた今、億劫にも感じますが私は王都ルナレイクへと戻ることに。

 リックとコンラッドに所領を任せて、ゴンドラへと乗り込みます。

「イセリナ、大丈夫?」

「アナ、ワタクシはここまでですわ。ランカスタ公爵領はよろしく頼みます」

 イセリナは伏せってから気弱なお姫様です。

 相当に消耗していたのだと思います。あと少し遅れていたとすれば危なかったのかもしれません。

「王都に着くまで我慢して。王宮殿で休めるようになっているから」

 メルヴィス公爵の行為は絶対に許せない。

 狙うなら私だけにしろっての。リッチモンド公爵とは違って、髭との間にトラブルもないのだし、イセリナまで巻き込むなんて。

「あのご老人は許せないわ……」

 ふと口にしてしまう。

 イセリナを抱きかかえながら、そんなことを口走る私にレグス団長とルークが驚いていました。

「アナスタシア様、どうあってもメルヴィス公爵と対立するおつもりで?」

 一部始終を見たレグス団長でしたけれど、今さらな話をしています。

 全ては貴方が見たままよ。あのご老人は王国にとって有害でしかないっての。

「当然ですよ。絶対に許さないんだから。私に呪いが効かないからって、ルーク殿下とイセリナを狙うなんて。しかも王都であることないこと噂してしまうとか……」

「しかしアナ、メルヴィス公爵と敵対したとすれば、エスフォレストは割と厳しいんじゃないのか?」

 ルークは知らないのでしょう。

 エスフォレストについてから、どれだけ私が嫌がらせを受けてきたのか。

 あのご老人が私を排除しようと動いているなんて知っているはずもないわね。

「のこのことエスフォレストまでやって来た殿下に言われたくありませんわ」

「のこのこって何だよ? まぁた俺はアナの機嫌を損ねたのか?」

 レグス団長が笑っています。

 彼は実際に見ていますし、私が置かれた状況を把握していることでしょう。

「ルーク殿下、もう既にメルヴィス公爵様とアナスタシア様は完全に敵対しております。今さら取り繕うなど無駄だと思えるほどに。またアナスタシア様よりもメルヴィス公爵様の方が歩み寄ろうとしておりません。敵対関係はあの方が生み出した図式ですから」

「マジかよ? よくもまあそんなところへ乗り込んで行くな?」

 薄い目をしてルークが私を見ています。

 その目は不本意だわ。私はいざとなれば暴れ回るつもりで行ったのだけど?

「何よ? 私はご老人の忘れ物を届けただけよ。ルーク殿下とイセリナを呪った呪術師をね……」

 ここでようやくルークは理解したみたい。

 自身が呪われたことは知っていたけれど、その術者を捕らえて、送り届けたなんて話はレグス団長から聞いていなかったようね。

 ルークは眉間にしわを寄せながらも問いを返しています。

「呪術師を捕まえたのか?」
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