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第十一章 謀略と憎悪の大地

殺意の果てに

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「他はいないようですので、術式を書き込ませていただきます。誰一人として失われないことを祈るのみですわ」

 挙手をした五人の名を術式で消去したあと、私は契約書を作成するため転写術式を実行。これより私が質問するだけで、彼らの命運は尽きるはず。

「それでは聞きましょう。貴方たちはメルヴィス公爵家と繋がりがありますか?」

 広場は静まり返っていました。野次馬的に集まった者たちは固唾を呑んでいます。

 誰も返事をしないので、私はアンドレに視線を合わせました。

「アンドレ、返事をしなさい」

 どう転んでも貴方は積んでいるのよ。

 否定したとして無駄なこと。私に嘘をつくなんて、契約術式が許さないの。

 もし仮に同意したとしても、それは私に対する敵対行為なのですから。

「私は繋がりなどない……」

 そう言った直後、アンドレの胸が破裂。おびただしい血と肉片が周囲に飛び散っています。

(マジですか……)

 実をいうと目の前で契約術式違反を見たのは初めてなの。

 正直にドン引きです。アンドレから噴き出した血は私にまで浴びせられていたのですから。

「残念ですわ。嘘をつくと私への背信行為となりますの。真実を述べられましても同じです。要は潔白でないのなら、助かる見込みはありませんわ」

 私は震えている男を睨み付ける。

「さあ次の方、お願い致しますわ。どうぞご安心ください。私は真紅のドレスを着込んでおります故、貴方様の穢れた血を浴びようと目立ちません。好きなだけ血飛沫を上げていただいて構いませんわ」

「い、嫌だ……。俺は死にたくねぇ!」

 何を言っても無駄なのよ。術式は貴方の本質を捉えている。貴方が発した言葉が肯定に取られるか、否定に取られるかだけ。

 下される罰だけは最初から決まっているの。


 このあとも断罪が続きました。

 十五人全員が失われると考えていたのですが、最後の一人は本当にメルヴィス公爵と関係がないみたいです。

 それはコーネルという男性でした。私の問いに繋がりはないと答えた唯一の人物であり、彼だけがこの裁判で無実を証明されています。

「コーネル様、貴方はどこの区長でしたか?」

「言葉は悪いのですが、スラム地域です……」

 ああ、なるほどね。どうやら利用価値がないと判断されたのでしょう。

 まあしかし、スラム地域。確かに報告書には貧民街があると書かれてましたけれど、ここでもやはり炊き出しが必要みたいだわ。

「ならば、スラム地域に案内してください。幾分か手持ちに食糧がございます。炊き出しを行います。街に活気を与え、発展させていきましょう」

「本当ですか!?」

 酷い裁判のあとですから、信じられなかったかもしれません。

 私はクルセイドでも炊き出しを始め、この地域の人材をフル活用していこうと思います。

「皆様、ご覧いただいたように我が所領は既にメルヴィス公爵の手が回っております。お集まりいただいた皆様の中にもまだ紛れ込んでいることでしょう。しかし、私は一歩も引くつもりはありません。巨悪を討つその日まで、戦い抜く所存ですわ」

 所信表明ともいえる話に、住民たちから拍手が送られている。

 もう既に彼らも分かったことでしょう。如何にメルヴィス公爵が策を講じているのか。どれほどの力を持つ悪であるのかを。

「公爵家と敵対しようとも、どうかご安心ください。私はかつて二頭の火竜を討伐しておりますし、戦争にも参加した経験がございますの。加えて幼竜ではございますが、火竜の子マリィもまた国を壊滅させるほどの力を有しております。もし仮に公爵領と戦争になったとして、私がいる限りこの地は安泰です」

 明確な宣戦布告です。今も私の話を聞いているだろう公爵の陰に対して。

 私は強い言葉を投げかけるのでした。


 住民の解散を告げようとしたところで、群衆を掻き分けて兵隊のような男性が現れました。

「アナスタシア様、大変です! 大規模な盗賊団が街を襲っています!」

 どうやら、私の宣戦布告は間違っていないみたいね。盗賊が上手い具合に朝から現れるはずもない。

 どうやらメルヴィス公爵を過小評価していたようです。

 クルセイドに滞在して、僅か二日目で仕掛けてくるのですから……。
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