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第十一章 謀略と憎悪の大地

クルセイドの街並み

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 翌朝、私は朝から手持ちの魔道書を引っ張り出していました。どうにかして、契約の糸を手繰り寄せられはしないかと。

 奴隷契約から支配契約まで。そういった契約は主人と従者の魂が結ばれて成されています。

 呪いにも似た接続。互いが違反しないようにとの術式です。

「第三者が割り込めたのなら……」

 我が子爵邸には多くの契約者がいます。全員がザックという人間と契約したのだとか。

 契約の内容自体は破棄されておりますが、今も全員がザックと魂レベルで繋がっている。私がそこに割り込んで、ザックを捕らえられないかと模索しているのです。

「あー、駄目だわ。契約時に接続した糸。常に双方を結びつけているけれど、互いの交信もできないのに第三者が割り込むなんて無理!」

 溜め息を吐いていると、コンラッドが部屋にやって来ました。

「姫、私に何か仕事はございませんか?」

 どうやら暇みたいね。じゃあ、少しばかり働いてもらいましょうか。

「やっぱメルヴィス公爵領に向かってくれる? ザックってやつの情報が欲しい。あと適当に公爵領を掻き乱してくれない? 私の方に集中できなくなるくらいに」

「御意に。公爵領を大混乱に陥らせてみせましょう」

 ちょっと煽りすぎたかしら?

 大混乱って何をするつもりかしらね。まあでも、コンラッドは上手くやってくれるはず。だとしたら、私は所領の運営を始めてみようかな。

「街に行くわ。何かあれば真紅の薔薇を飾るから……」

「承知しました。それでは潜入してまいります」

 本当に頼もしい。やっぱ先に抱き込んだのは正解だね。


 メルヴィス公爵家の方はコンラッドに任せて、私はクルセイドの街へと繰り出します。

 元侯爵領と言えども、どうも田舎くさい。やはり北部の発展は遅れているのかもね。

 セントローゼス王国の北側には【世界の頂】と言われる険しいピークレンジ山脈があって、他国とは隣接していないのです。

 北側から侵攻を受ける懸念はないのですが、東西にしか経済が回る手段がないことは発展における弊害となっているみたい。

 かといって、ピークレンジ山脈があるおかげで、斜面を利用した果樹栽培が盛んだったりもするのですけれど。

「ま、発展は内的要因を先にこなしていかないとね」

 外国と繋がっていたとして、産業がなければ何も変わらない。

 果樹園や酒造業だけで住民が増えるはずもなく、劇的に売り上げを伸ばすなんて夢物語です。


 街まで歩いて行くと、意外にも私は好意的に迎えられています。

 昨日の事件は私の印象を大きく変えたみたいですね。

「姫様、おはようございます!」

「姫様、ごきげんよう!」

 悪くないかも。姫様との呼称は間違っているのですが、私の年齢を考えると正しいようにも感じます。

 行く先々でホーリー・ブレスを唱えつつ、メインストリートまでやって来ました。

 大勢の市民を引き連れて歩いていたのですが、やはり露店の食品が気になります。

「がぁぁっ……」

 マリィもお腹が減ったみたいですし、何か買ってみましょうか。とはいえ、クルセイドの名物が何であるのかを私は知りません。

 買い食いを始めた私に住民たちは大いに驚いていましたけれど、別に私は貴族ぶるつもりもありませんので気にしない方向で。

 歩いていると、昨日問題が起きた広場へと到着。

 既に清掃されておりましたが、ここにはあまり良いイメージがないのも事実です。

 嘆息していた私に誰かが声をかける。

「アナスタシア様、少しよろしいですか?」
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