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第十一章 謀略と憎悪の大地
モルディン国務大臣
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モルディン大臣の執務室を訪れると、聞いていたように朝から仕事をされておりました。
「モルディン大臣、朝早く申し訳ございません」
謝罪を口にすると、モルディン大臣は笑みを浮かべています。
「いえいえ、老人の朝は早いのです。既に本日分の雑務を終えたところです」
どうやら私に同行する段取りで仕事をこなされていたようです。
王命でもあるみたいだし、彼も軽い気持ちではないのだと分かります。
「それでは向かいましょうか。ゴンドラを用意しております」
話が早くて助かります。中庭に用意された四頭のペガサスによって、私たちは空へと舞う。
あまり気乗りがする仕事ではないのですけれど、絶望していた世界線とは明確に異なる。
私にも光が射してきた。きっと私の未来は切り開かれるはずよ。
「アナスタシア様、資料は既に目を通されましたか?」
ペガサスでも到着まで五時間くらいかかるそうです。
よってモルディン大臣はその時間を利用し、所領について助言をくれるみたい。
「ええ、一通りは見ております。基本的に農産地なのですね?」
「これといった産業は酒造業くらいでしょうか。まあでも、高品質の果実が生産されています。その殆どをメルヴィス公爵家が買い取るような格好ですね」
元侯爵領であるというのに、何とも寂しい話。
資料に目を通しても、上位貴族が統治する所領だと思えないものでした。
「それだけにマキシム侯爵家は逆らえなかったのです。娘を差し出すような策でも……」
知らされるのは所領の置かれた立場。前任であるマキシム侯爵は完全な傀儡だったのでしょう。
そう思うとサマンサにも同情する余地があるのかもしれない。
『イセリナは死ねばいいのよ!――』
あの台詞は人生を悟った結果なのね。せめてイセリナを道連れにしようとしたのだと思えてなりません。
「なるほど、厄介ですね。メルヴィス公爵を廃爵に追い込むことはできなかったのでしょうか?」
ついでとばかりに聞くしかありません。
今もなお邪魔な存在が北部にはいるのだからと。
「無理でしたね。議会の賛同は得られませんでした。マキシム侯爵家との繋がりは全員が理解していましたけれど、完全に切り捨てられていましたし、契約などの証拠もありません。加えて既にリッチモンド公爵家の取り潰しが決定していましたから、公爵家を一度に二つも廃爵にはできませんでした」
ああ、そういう意味合いもあるのね。
確かに公爵家一つと侯爵家二つが取り潰しになっていたのです。上位貴族の減少は判定に影響を与えたことでしょう。
「まあでも、私はメルヴィス公爵を許さない……」
ふと口にしています。不敬罪に問われるような話を。モルディン大臣なら不問にしてくれると信じて。
「それは穏やかな話ではありませんね?」
「そうですか? 悪の芽を絶つ。正直に上位貴族は解体しても構わないほど、悪意に満ちています。私を庇護するランカスタ公爵家も例外ではなく……」
頷きを見せるモルディン大臣。この様子だと私の考えを聞いてみたいのかもしれません。
「ある程度は仕方ありません。押し並べて強大な力を持っていますし。まあしかし、暗殺までいくと、流石に許容できませんわ。人を殺める行為は女神の理念に反しております。しかも、寄子を切り捨ててしまうなど……」
私はメルヴィス公爵に対する印象を口にしていく。
どの道、メルヴィス公爵には退場してもらうのだと。
「貴方様は本当に強い女性だ……」
「あら? それは褒め言葉でしょうか? ご令嬢に対する称賛とは異なるようですけれど?」
「いやいや、手放しで褒め称えております。それにご令嬢ではなく、貴方様は立派な貴族であり、火竜の聖女なのですから」
今も私はこの世界線に現れた火竜の聖女らしい。偽物なんだけど、どうあってもその認識は変わらない。
だけど、構わないわ。エリカに悪影響がなく、私の力になるのであれば。
「甘んじて強いという話は受け入れますわ。それで、現状の代行であるゼクシス男爵はどういった人選なのでしょう?」
「ゼクシス男爵は宮廷貴族でありまして、空白地となった折りに王都より派遣されました。真面目な男で政治にも長けていましたので……」
割と吉報だわ。
北部地域から抜擢されるより、王家の人員であったのならメルヴィス公爵の息がかかっていない。私の留守中を任せられるかもしれません。
「ならば、男爵とお会いしてから、継続してもらうか決めてもよろしくて?」
「もちろんです。貴方様の所領なのですから。ちなみに王家では既に予算を組んでおります。代行にかかる費用はご心配なく。貴族院を卒業されて三年間は充分な援助が受けられることでしょう」
それは知らされていないお話でした。
恐らく厚遇がすぎると反対派が声を大きくするからでしょうね。
私たちの所領運営談義は盛り上がりを見せ、気付けば五時間という時間が過ぎていました。
眼下にはアナスタシア子爵領の主要都市クルセイド。私の名前になった理由は山脈を挟んだ南側がスカーレット子爵領だったからです。
さあ、いよいよ顔見せとなります。
まずは民衆の支持を得なければ何も始まりません。
「モルディン大臣、朝早く申し訳ございません」
謝罪を口にすると、モルディン大臣は笑みを浮かべています。
「いえいえ、老人の朝は早いのです。既に本日分の雑務を終えたところです」
どうやら私に同行する段取りで仕事をこなされていたようです。
王命でもあるみたいだし、彼も軽い気持ちではないのだと分かります。
「それでは向かいましょうか。ゴンドラを用意しております」
話が早くて助かります。中庭に用意された四頭のペガサスによって、私たちは空へと舞う。
あまり気乗りがする仕事ではないのですけれど、絶望していた世界線とは明確に異なる。
私にも光が射してきた。きっと私の未来は切り開かれるはずよ。
「アナスタシア様、資料は既に目を通されましたか?」
ペガサスでも到着まで五時間くらいかかるそうです。
よってモルディン大臣はその時間を利用し、所領について助言をくれるみたい。
「ええ、一通りは見ております。基本的に農産地なのですね?」
「これといった産業は酒造業くらいでしょうか。まあでも、高品質の果実が生産されています。その殆どをメルヴィス公爵家が買い取るような格好ですね」
元侯爵領であるというのに、何とも寂しい話。
資料に目を通しても、上位貴族が統治する所領だと思えないものでした。
「それだけにマキシム侯爵家は逆らえなかったのです。娘を差し出すような策でも……」
知らされるのは所領の置かれた立場。前任であるマキシム侯爵は完全な傀儡だったのでしょう。
そう思うとサマンサにも同情する余地があるのかもしれない。
『イセリナは死ねばいいのよ!――』
あの台詞は人生を悟った結果なのね。せめてイセリナを道連れにしようとしたのだと思えてなりません。
「なるほど、厄介ですね。メルヴィス公爵を廃爵に追い込むことはできなかったのでしょうか?」
ついでとばかりに聞くしかありません。
今もなお邪魔な存在が北部にはいるのだからと。
「無理でしたね。議会の賛同は得られませんでした。マキシム侯爵家との繋がりは全員が理解していましたけれど、完全に切り捨てられていましたし、契約などの証拠もありません。加えて既にリッチモンド公爵家の取り潰しが決定していましたから、公爵家を一度に二つも廃爵にはできませんでした」
ああ、そういう意味合いもあるのね。
確かに公爵家一つと侯爵家二つが取り潰しになっていたのです。上位貴族の減少は判定に影響を与えたことでしょう。
「まあでも、私はメルヴィス公爵を許さない……」
ふと口にしています。不敬罪に問われるような話を。モルディン大臣なら不問にしてくれると信じて。
「それは穏やかな話ではありませんね?」
「そうですか? 悪の芽を絶つ。正直に上位貴族は解体しても構わないほど、悪意に満ちています。私を庇護するランカスタ公爵家も例外ではなく……」
頷きを見せるモルディン大臣。この様子だと私の考えを聞いてみたいのかもしれません。
「ある程度は仕方ありません。押し並べて強大な力を持っていますし。まあしかし、暗殺までいくと、流石に許容できませんわ。人を殺める行為は女神の理念に反しております。しかも、寄子を切り捨ててしまうなど……」
私はメルヴィス公爵に対する印象を口にしていく。
どの道、メルヴィス公爵には退場してもらうのだと。
「貴方様は本当に強い女性だ……」
「あら? それは褒め言葉でしょうか? ご令嬢に対する称賛とは異なるようですけれど?」
「いやいや、手放しで褒め称えております。それにご令嬢ではなく、貴方様は立派な貴族であり、火竜の聖女なのですから」
今も私はこの世界線に現れた火竜の聖女らしい。偽物なんだけど、どうあってもその認識は変わらない。
だけど、構わないわ。エリカに悪影響がなく、私の力になるのであれば。
「甘んじて強いという話は受け入れますわ。それで、現状の代行であるゼクシス男爵はどういった人選なのでしょう?」
「ゼクシス男爵は宮廷貴族でありまして、空白地となった折りに王都より派遣されました。真面目な男で政治にも長けていましたので……」
割と吉報だわ。
北部地域から抜擢されるより、王家の人員であったのならメルヴィス公爵の息がかかっていない。私の留守中を任せられるかもしれません。
「ならば、男爵とお会いしてから、継続してもらうか決めてもよろしくて?」
「もちろんです。貴方様の所領なのですから。ちなみに王家では既に予算を組んでおります。代行にかかる費用はご心配なく。貴族院を卒業されて三年間は充分な援助が受けられることでしょう」
それは知らされていないお話でした。
恐らく厚遇がすぎると反対派が声を大きくするからでしょうね。
私たちの所領運営談義は盛り上がりを見せ、気付けば五時間という時間が過ぎていました。
眼下にはアナスタシア子爵領の主要都市クルセイド。私の名前になった理由は山脈を挟んだ南側がスカーレット子爵領だったからです。
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