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第十一章 謀略と憎悪の大地

思い出される過去

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「もう五年になるか……。あの日、レグスが卿の申し出を持ち帰ったとき、ワシはレグスを怒鳴りつけた。もちろん、褒美を全て持ち帰ったからだ。そもそもスカーレット子爵と会ってからであれば、少なからず未来は変わっただろう。最終的に褒美の全てが破棄されようと、王家を頼るという選択肢が残ったはず。卿が一人、国を出るようなことにはならなかったのだ」

 どうやら五年前の分岐点について、ガゼル王は語っているようです。

 当然のこと、事実とはまるで異なる話なのですけれど、王様は私が王家を頼れなかった理由としているみたい。

「翌日にスカーレット子爵と面会したのだが、子爵もまた激怒されてな。褒美はおろか、卿の捜索隊を王家が出すという話すら首を振っておった……」

 ダンツは私を一人で捜していた。

 その理由が今さらになって王様から告げられていました。

「お父様がとんだご無礼を……」

「いや、それこそ王家の落ち度だ。前日であったなら、捜索隊を編成することくらいは承諾してもらえただろう。結果として、子爵にも卿にも悪いことをした」

 それは違う。私が軽はずみな行動をしただけだもの。

 ダンツも王様も悪くない。ルークやレグス近衛騎士団長でさえも。

「だからこそ、五年前に戻れたかのように感じておる。知っておろうが、ルークは卿のことを欲しておった。周りが見えなくなるくらいに、好いておったのだ……」

 これまた返答に困る話。当時の様子だと、恐らく王家の全員が知っていたのかもね。

「私は殿下の気持ちを知って、あのような態度を取っています。ルーク殿下もレグス騎士団長様も悪くありません。一つ悪いことがあったとすれば、タイミングが悪かったと思います。あの頃、私は王家と接点を持つべきでなく、身を潜めるしかなかったのですから」

「どうしてだ? 王家の庇護下にあれば、リッチモンドといえども手出しはできなかっただろう?」

「そうなのですけれど、私は予知にてイセリナの暗殺計画を知っていました。それは非常に綿密な計画でして、一つずつ潰していくしか光明を見出せません。王国内にいては不可能だと判断したのです。外から全体を操って行こうと」

 王家の庇護下を離れる理由はそんなところでしょうか。

 そもそも、私はルークから逃げようとしていたのであって、そこに複雑な理由は存在しませんけれど。

「むぅ、十二歳でそこまで考えておったのか?」

「まあ、もう終わったことですわ。朝食が冷めてしまいます……」

 上手い具合に配膳された朝食。私は話を切るようにしています。

 正直に過剰なまでの遠回りであり、明らかに不要な回り道でした。セシルやイセリナの心情を知ってさえいれば、私はサルバディール皇国へ亡命していなかったことでしょう。


 とりあえず、私も食事を始めます。

 本当に懐かしい。ハチミツがかけられたベーグルにカリカリのベーコンが添えてある。サラダとスープも記憶にあるままでした。

「アナスタシアさま、わたし人参を食べられるようになったのです。エリカが好き嫌いしてはいけないというので、頑張りましたの!」

 シャルロットが突然、そのように話します。無言よりも有り難いね。

(ああ、そうなんだ……)

 私が知らないところで、エリカも頑張っていたのね。

 既にイセリナと私の問題だと考えていましたが、実際にはエリカの問題を私は残しています。

 エリカがお姫様になりたいと語った夢。私とイセリナがその位置を奪ってしまったのなら、准男爵でしかないエリカに出番はありません。

 私の願望を叶えることはエリカの居場所を奪うことになってしまうのです。

「シャルロット殿下、ご立派です。エリカはさぞかし良い教育者なのでしょうね。一番上のお兄様も彼女から学んではどうでしょうか?」

 私は冗談を口にしています。

 するとシャルロットは大きく頷いていました。

「それは良いお話です! お兄さまも好き嫌いをなくすべきですよね?」

「ええ、本当に。ピーマンとナスビが食べられないなんて残念ですわ……」

 私は軽く返答を終えた。

 しかし、問題が発生してしまう。

「アナスタシアさまは何でも知っているのですね! お兄さまはピーマンとナスビが食べられないから、いつも遅れてお食事を取っていますの!」

「アナスタシア嬢、そんなことまで知っておったのだな?」

 問われて気付く。現状のアナスタシアが知っているはずのない話だと。

 全てイセリナだった頃の記憶。アナスタシアになってから、ルークと食事したのは火竜を退治したあとの晩餐会だけだったのですから。

 ま、ここも誤魔化しておこう。

 夢のような時間の話は信用してもらえるはずもないのですから……。
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