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第九章 永遠の闇の彼方
唐突に起きたイベント
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「フェリクス兄様の容体が急変したのです! 兄様を助けてください!」
フェリクスは第二王子です。
前世界線の寿命は十六歳。つまり世界線の改変がなければ、今年中に失われる運命でした。
「確か魔力循環不全でしたか……」
「先ほどから容体が急変して、苦しまれております!」
前世界線では私がノヴァ聖教国へと行っている間にフェリクスが天命を全うしたらしいね。
決定事項の一つとはいえ、兄弟であるセシルには受け入れ難い話であることでしょう。
「治療士は?」
「今晩が峠だろうと。現在はエリカがついてくれています」
治癒士はもう匙を投げたみたい。
王城務めをしているエリカが治癒士の代わりに診ているとのことでした。
「エリカがアナスタシア様なら高度な治療を行えると話していたので、お捜ししていたのです……」
そういえばエリカは私がエクストラヒールの使い手であることを知っています。
従って、第二王子フェリクスを救えるのは私しかいないと考えているようです。
「セシル殿下、ヒールとは治癒力を増幅させる神の御業です。その理はエクストラヒールであっても変わりません。苦痛は和らぐかと思いますが、先天的な疾患に対する効果は期待できないのです」
ヒールは回復力を増幅させる力です。
体力的な回復であったり、自然と塞がる裂傷などには高い効果が見込めます。
しかし、ウィルス性のような外的要因や腕や足を再生するような効果はありません。
加えて生命力が失われつつある者への効果も限定的。治癒士が諦めるような状態では少しも回復できないことでしょう。
「それでも治療していただけませんか!?」
頼み込まれると引き受けるしかないね。
私は彼に無茶な要求をしていますし、無駄と分かっていても赴くべきでしょう。
「イセリナ、先に帰っていて。私はフェリクス殿下の治療をしてみます」
文句が返ってくるかと思いましたが、流石に王子殿下の病気とあってはイセリナも頷いています。
「殿下、案内してください」
部屋は分かっていますが、案内を願います。イセリナ時代の記憶を晒すわけにはなりませんからね。
重い足取りで到着した部屋は記憶のままでした。
広い室内をランプのか細い灯りが照らし出しています。
天蓋付きのベッドへと横たわるのがフェリクス第二王子であり、ベッドの脇で祈りを捧げるのはエリカに他なりません。
「エリカ、代わるわ……」
「ル……、アナスタシア様!」
本当に私が現れると考えていなかったのか、エリカは驚いていました。
彼女に代わってベッドへと近付き、私は容体を確認します。
魔力循環不全は自然治癒する見込みがない難病です。罹患してしまえば臓器だけでなく、皮膚や脳にまで影響を及ぼす。
生命力の源である魔力を強制的に循環させ、延命処置するくらいしか対処法がありません。
「これは……」
治癒士の所見通りです。
顔色が悪いだけでなく、皮膚も爛れており、恐らくあらゆる箇所が限界を迎えている。
今晩が山だと言った治癒士の言葉は恐らく嘘でしょう。告げづらい内容を伝えやすくしただけだと思われます。
何しろ、あと数時間も持たないような状態にしか見えないのです。従って、期待させるような文言を述べるなんてできない。
私は事実を口にするだけでした。
「殿下はもう幾ばくも持たないことでしょう……」
フェリクスは第二王子です。
前世界線の寿命は十六歳。つまり世界線の改変がなければ、今年中に失われる運命でした。
「確か魔力循環不全でしたか……」
「先ほどから容体が急変して、苦しまれております!」
前世界線では私がノヴァ聖教国へと行っている間にフェリクスが天命を全うしたらしいね。
決定事項の一つとはいえ、兄弟であるセシルには受け入れ難い話であることでしょう。
「治療士は?」
「今晩が峠だろうと。現在はエリカがついてくれています」
治癒士はもう匙を投げたみたい。
王城務めをしているエリカが治癒士の代わりに診ているとのことでした。
「エリカがアナスタシア様なら高度な治療を行えると話していたので、お捜ししていたのです……」
そういえばエリカは私がエクストラヒールの使い手であることを知っています。
従って、第二王子フェリクスを救えるのは私しかいないと考えているようです。
「セシル殿下、ヒールとは治癒力を増幅させる神の御業です。その理はエクストラヒールであっても変わりません。苦痛は和らぐかと思いますが、先天的な疾患に対する効果は期待できないのです」
ヒールは回復力を増幅させる力です。
体力的な回復であったり、自然と塞がる裂傷などには高い効果が見込めます。
しかし、ウィルス性のような外的要因や腕や足を再生するような効果はありません。
加えて生命力が失われつつある者への効果も限定的。治癒士が諦めるような状態では少しも回復できないことでしょう。
「それでも治療していただけませんか!?」
頼み込まれると引き受けるしかないね。
私は彼に無茶な要求をしていますし、無駄と分かっていても赴くべきでしょう。
「イセリナ、先に帰っていて。私はフェリクス殿下の治療をしてみます」
文句が返ってくるかと思いましたが、流石に王子殿下の病気とあってはイセリナも頷いています。
「殿下、案内してください」
部屋は分かっていますが、案内を願います。イセリナ時代の記憶を晒すわけにはなりませんからね。
重い足取りで到着した部屋は記憶のままでした。
広い室内をランプのか細い灯りが照らし出しています。
天蓋付きのベッドへと横たわるのがフェリクス第二王子であり、ベッドの脇で祈りを捧げるのはエリカに他なりません。
「エリカ、代わるわ……」
「ル……、アナスタシア様!」
本当に私が現れると考えていなかったのか、エリカは驚いていました。
彼女に代わってベッドへと近付き、私は容体を確認します。
魔力循環不全は自然治癒する見込みがない難病です。罹患してしまえば臓器だけでなく、皮膚や脳にまで影響を及ぼす。
生命力の源である魔力を強制的に循環させ、延命処置するくらいしか対処法がありません。
「これは……」
治癒士の所見通りです。
顔色が悪いだけでなく、皮膚も爛れており、恐らくあらゆる箇所が限界を迎えている。
今晩が山だと言った治癒士の言葉は恐らく嘘でしょう。告げづらい内容を伝えやすくしただけだと思われます。
何しろ、あと数時間も持たないような状態にしか見えないのです。従って、期待させるような文言を述べるなんてできない。
私は事実を口にするだけでした。
「殿下はもう幾ばくも持たないことでしょう……」
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