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第八章 絶望の連鎖に
感謝を込めて
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「カルロ殿下……」
世界線を過剰に動かしたせいなのか、予想よりも早く戦場にカルロが招集されていました。
あろうことか全滅となる部隊の指揮艦として、カルロが現れていたのです。
「ルイ、お前は帝国軍に入ったのか? 俺を裏切ったのか?」
彼の問いには首を振るだけ。間違っても私は貴方を裏切ったりしていない。寧ろ貴方のためだけに、ここへと来ているのだから。
「カルロ殿下、どうして前線に? 貴方はここに現れないはず」
質問には答えず、私は問いを返しています。
経緯が分からねば、対策しようがないのだと。
「お前が無茶をするかもしれないと思ってな。急いで帰国したけれど、お前は見つからず、どうしてか戦線へ向かうように言われてしまった」
どうもリックが失敗したらしい。
議員たちには戦場へ赴く愛国心などないようです。たとえ褒美の総取りが約束されていたとしても。
「残念です。私は貴方様のためを思って行動していたのですけれどね」
「帝国軍に身を売ることがか? 俺はそんな要求をした覚えなどない」
無意味な会話が続きます。
恩義に報いようと帝国を掌握したというのに、裏切り者になってしまうなんて。
「もう終わりですわ……」
この世界線の行く末を見た。私に逃げ場所などないのだと。
どこまでも逃げ切ってやろうと考えていましたが、あくまで世界は私が苦しむ様子を見たいらしい。
「利己的な悪役令嬢に相応しい罰を。私は遠く離れた地で、成り行きを伝え聞くだけで良かったのに。どうしても世界は私を絶望させたいらしいね……」
独り言のように呟く。
カルロの帰国が早まるのであれば、私に打つ手はない。
私はカルロを死地へと追いやる者たちを排除しなければならなかったというのに。
現状から推し量ると、カルロの戦死は確定事項。皇国を蝕む膿を出し切ろうとした結果、彼の死が早まるだけでした。
「ねぇ、もしも私が戦争に参加したいと言えばどうしてた?」
問わずにいられない。
カルロが前線へと赴く運命ならば、そのとき私が側にいることができるのかどうか。
「許可しない。お前は俺のものだ……」
やはりね……。
無理矢理についていったとして、彼は戦死するのでしょう。ゲーム内の定めを現実世界でも引き継いでしまう。
カルロルートはハッピーエンドであっても報われない。
主人公エリカの妊娠を確認した彼は王国への亡命を果たしますけれど、敗戦により母国が失われたあと自害を選択してしまうのですから。
永遠の愛をエリカへと誓った末に。
「私はもう覚悟したよ……」
完全に行き詰まった。
それは世界の破滅云々ではなく、極めて個人的な理由によって。
私ではカルロを救えませんでした。
向き合う私たち。もう語り合うこともありません。
「私を斬りなさい、カルロ……」
この世界線は終わりだ。
弁明できる話はあるけれど、明確に敵対した私は恩知らずな女でしかないのですから。
無論のこと、斬れと言った私にカルロは驚いています。
「私は敵なのよ? 既にサルバディール皇国の兵を何人も倒した。貴方には私を斬る義務があるはず」
「いや、お前だって何か考えがあってのことだろう!?」
「当然、考えはあった。でもね、無駄だったの。だから、貴方が私を斬るべき。生憎と私は愛する者以外のために自害するほど、酔狂な人間ではないのよ」
唇を噛むカルロ。彼は全てを知っている。
私の気持ちや、愛する人について。
「それでも俺は……」
やはり躊躇している。
でも、ここは男らしく、その剣を抜いて欲しい。間違った選択をし続ける私に罰を与えるために。
「できるはずよ。私を愛しているのなら……」
愛ゆえに。
カルロが私を愛しているのならば、その意志を見せて欲しい。
全てを断ち切るため、私を斬って欲しい。
「斬れないのなら、貴方は私を失うことになる。私はセシルのものとなるのだから」
背中を押し続けるしかありませんでした。
罰を受けるべきは私。東部三国を滅茶苦茶に掻き回した私は相応の罰を受けるべきなのだと。
「セシル殿下……?」
「ええ、そうです。婚約者になって欲しいと願われましたので、この計画が全て終われば構わないと返事をしています」
私はラマティック正教会の一員。だというのに、支援者であるサルバディール皇家に牙を剥いた。
もし仮に私がこのあとも生存するというのなら、私はセントローゼス王国へと戻るしかない。そして、約束通りにセシルと結ばれ、苦しむしかないの。
少しばかりの逡巡。カルロは頷いていました。
「ルイ、許せ――――」
剣を抜くカルロ。袋小路へと迷い込んだ私をようやく斬り捨てる覚悟ができたみたい。
これで終わるのよ。この三ヶ月という期間は長かった。
でもね、長いだけで何の意味もない。良かれと思って行動した私は本当に無意味な結末を迎えているのだから。
刹那にカルロの剣が振り下ろされている。
法衣を身に纏っただけの私は容易に斬り裂かれていました。
首を落とすのではなく、袈裟懸けに胸から腹を裂かれたのはやはり罰なのでしょう。
一瞬の痛みを覚えたあとは何も感じませんでした。恐らく痛みが限界を超えたからでしょうね。
傷口から吹き出す血飛沫。再び幕を下ろす真っ赤な緞帳。悪の限りを尽くした今も、まだ私の血は燃え盛るほどに赤く色付いていました。
真紅の緞帳は間近にいたカルロへと落ちていく。穢れた演目は鮮やかな幕を下ろすことで終止符が打たれていた。
どうか受け入れて欲しいわ。
邪なこの愛の形を。
貴方の想いに感謝をして、私はこの生を貴方に返します。
徐々に薄れゆく意識に、私は感謝を口にしている。
ちゃんと声が出ているのかも分かりませんが、助力してくれたカルロに精一杯のお礼を。
ありがとう――――と。
世界線を過剰に動かしたせいなのか、予想よりも早く戦場にカルロが招集されていました。
あろうことか全滅となる部隊の指揮艦として、カルロが現れていたのです。
「ルイ、お前は帝国軍に入ったのか? 俺を裏切ったのか?」
彼の問いには首を振るだけ。間違っても私は貴方を裏切ったりしていない。寧ろ貴方のためだけに、ここへと来ているのだから。
「カルロ殿下、どうして前線に? 貴方はここに現れないはず」
質問には答えず、私は問いを返しています。
経緯が分からねば、対策しようがないのだと。
「お前が無茶をするかもしれないと思ってな。急いで帰国したけれど、お前は見つからず、どうしてか戦線へ向かうように言われてしまった」
どうもリックが失敗したらしい。
議員たちには戦場へ赴く愛国心などないようです。たとえ褒美の総取りが約束されていたとしても。
「残念です。私は貴方様のためを思って行動していたのですけれどね」
「帝国軍に身を売ることがか? 俺はそんな要求をした覚えなどない」
無意味な会話が続きます。
恩義に報いようと帝国を掌握したというのに、裏切り者になってしまうなんて。
「もう終わりですわ……」
この世界線の行く末を見た。私に逃げ場所などないのだと。
どこまでも逃げ切ってやろうと考えていましたが、あくまで世界は私が苦しむ様子を見たいらしい。
「利己的な悪役令嬢に相応しい罰を。私は遠く離れた地で、成り行きを伝え聞くだけで良かったのに。どうしても世界は私を絶望させたいらしいね……」
独り言のように呟く。
カルロの帰国が早まるのであれば、私に打つ手はない。
私はカルロを死地へと追いやる者たちを排除しなければならなかったというのに。
現状から推し量ると、カルロの戦死は確定事項。皇国を蝕む膿を出し切ろうとした結果、彼の死が早まるだけでした。
「ねぇ、もしも私が戦争に参加したいと言えばどうしてた?」
問わずにいられない。
カルロが前線へと赴く運命ならば、そのとき私が側にいることができるのかどうか。
「許可しない。お前は俺のものだ……」
やはりね……。
無理矢理についていったとして、彼は戦死するのでしょう。ゲーム内の定めを現実世界でも引き継いでしまう。
カルロルートはハッピーエンドであっても報われない。
主人公エリカの妊娠を確認した彼は王国への亡命を果たしますけれど、敗戦により母国が失われたあと自害を選択してしまうのですから。
永遠の愛をエリカへと誓った末に。
「私はもう覚悟したよ……」
完全に行き詰まった。
それは世界の破滅云々ではなく、極めて個人的な理由によって。
私ではカルロを救えませんでした。
向き合う私たち。もう語り合うこともありません。
「私を斬りなさい、カルロ……」
この世界線は終わりだ。
弁明できる話はあるけれど、明確に敵対した私は恩知らずな女でしかないのですから。
無論のこと、斬れと言った私にカルロは驚いています。
「私は敵なのよ? 既にサルバディール皇国の兵を何人も倒した。貴方には私を斬る義務があるはず」
「いや、お前だって何か考えがあってのことだろう!?」
「当然、考えはあった。でもね、無駄だったの。だから、貴方が私を斬るべき。生憎と私は愛する者以外のために自害するほど、酔狂な人間ではないのよ」
唇を噛むカルロ。彼は全てを知っている。
私の気持ちや、愛する人について。
「それでも俺は……」
やはり躊躇している。
でも、ここは男らしく、その剣を抜いて欲しい。間違った選択をし続ける私に罰を与えるために。
「できるはずよ。私を愛しているのなら……」
愛ゆえに。
カルロが私を愛しているのならば、その意志を見せて欲しい。
全てを断ち切るため、私を斬って欲しい。
「斬れないのなら、貴方は私を失うことになる。私はセシルのものとなるのだから」
背中を押し続けるしかありませんでした。
罰を受けるべきは私。東部三国を滅茶苦茶に掻き回した私は相応の罰を受けるべきなのだと。
「セシル殿下……?」
「ええ、そうです。婚約者になって欲しいと願われましたので、この計画が全て終われば構わないと返事をしています」
私はラマティック正教会の一員。だというのに、支援者であるサルバディール皇家に牙を剥いた。
もし仮に私がこのあとも生存するというのなら、私はセントローゼス王国へと戻るしかない。そして、約束通りにセシルと結ばれ、苦しむしかないの。
少しばかりの逡巡。カルロは頷いていました。
「ルイ、許せ――――」
剣を抜くカルロ。袋小路へと迷い込んだ私をようやく斬り捨てる覚悟ができたみたい。
これで終わるのよ。この三ヶ月という期間は長かった。
でもね、長いだけで何の意味もない。良かれと思って行動した私は本当に無意味な結末を迎えているのだから。
刹那にカルロの剣が振り下ろされている。
法衣を身に纏っただけの私は容易に斬り裂かれていました。
首を落とすのではなく、袈裟懸けに胸から腹を裂かれたのはやはり罰なのでしょう。
一瞬の痛みを覚えたあとは何も感じませんでした。恐らく痛みが限界を超えたからでしょうね。
傷口から吹き出す血飛沫。再び幕を下ろす真っ赤な緞帳。悪の限りを尽くした今も、まだ私の血は燃え盛るほどに赤く色付いていました。
真紅の緞帳は間近にいたカルロへと落ちていく。穢れた演目は鮮やかな幕を下ろすことで終止符が打たれていた。
どうか受け入れて欲しいわ。
邪なこの愛の形を。
貴方の想いに感謝をして、私はこの生を貴方に返します。
徐々に薄れゆく意識に、私は感謝を口にしている。
ちゃんと声が出ているのかも分かりませんが、助力してくれたカルロに精一杯のお礼を。
ありがとう――――と。
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