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第八章 絶望の連鎖に
兄弟の契り
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「アナと婚約しないでくれ……」
言ってはならない台詞だった。
自身はイセリナと婚約したばかり。だというのに、弟の婚約話をなかったことにして欲しいと伝えている。
「ルーク兄様は今もアナスタシア様を?」
向けられた質問には頷きを返している。
ルークは今以上に掻き回されないためにも、洗いざらい口にしていた。
「俺はアナが好きだ。十二歳で初めて出会ってからずっと。だけど、俺は公爵令嬢からしか相手を選べなかった……」
告げられた想いにセシルは嘆息するしかない。
全ての原因は一連の騒動があったからだと察していたけれど、それでも兄が選んだ道は正しくないと思う。
「ルーク兄様は最低ですね……」
尊敬する兄に対してセシルは言った。
イセリナとの婚約については擁護しようがないと。
「ああ、俺は最低なんだ。もしもセシルがアナを手に入れたのなら、俺は正気を保っていられないだろう」
セシルは首を振った。もうルークが望む世界などあり得ないのだと。
国の有力者であるランカスタ公爵家のご令嬢と婚約した兄には、もう一つの道筋しか残っていないのだから。
「兄様、僕はそれでも彼女を手に入れたくなっています。兄様の命令は絶対だと考えておりましたが、心までは譲れない」
セシルもまた本気であるらしい。
兄の気持ちを聞いたあとでも、アナスタシアを手に入れようと考えていた。
「僕は一応、彼女から承諾してもいいと聞いています。王太子選もありますし、兄様と対決することになりますね。僕は彼女に相応しい男になると決めました」
それは宣戦布告であった。
王太子に興味がなかったかのようなセシルが初めて口にしたのだ。
現状はルークが本命に復帰しただけで、セシルには落ち度などないのだから。
「分かった。もう一度だけ俺も踏み出してみる……」
ルークは頷いていた。まさかセシルと本気で王太子選を戦うだなんて考えもしないことであったけれど。
「やっぱ、俺はアナと幸せになりたい……」
それは切実な想い。何度も諦めようと考えたこと。けれども、弟の本気を聞いたあとでは、どうしても手に入れたいと思う。
「じゃあ兄様、恨みっこなしです! とはいえ、婚約破棄などなさらず、イセリナ様と幸せになってくださっても構いませんよ?」
「セシルも言うようになったな? 俺は誰も傷つけないなんてできそうにもない。できるだけ周囲に気を遣うつもりだけど、俺はもう自分を欺きたくないんだ……」
どうやらルークも前を見据えられたらしい。
こだわっていた王太子という身分。しかし、それは本心を隠してまで手に入れるものではないと気付く。
「まあ、アナスタシア様が無事に戻らなければ、何も始まりませんけれど……」
「問題ねぇよ。アナは美しいだけじゃない。誰よりも強く格好いい俺の憧れなんだ。火竜二頭に襲われるよりも、小国の争いに首を突っ込む方が楽に違いない。圧勝して戻ってくるはず」
アナスタシアがいない場面で勝手に話が進んでいく。
女を巡る兄弟喧嘩に発展するのかと思いきや、不思議と絆が深まっていた。
セシルとルークは互いの健闘を祈って握手を交わす。
それは後腐れなしと誓った兄弟における契りに他ならない。
言ってはならない台詞だった。
自身はイセリナと婚約したばかり。だというのに、弟の婚約話をなかったことにして欲しいと伝えている。
「ルーク兄様は今もアナスタシア様を?」
向けられた質問には頷きを返している。
ルークは今以上に掻き回されないためにも、洗いざらい口にしていた。
「俺はアナが好きだ。十二歳で初めて出会ってからずっと。だけど、俺は公爵令嬢からしか相手を選べなかった……」
告げられた想いにセシルは嘆息するしかない。
全ての原因は一連の騒動があったからだと察していたけれど、それでも兄が選んだ道は正しくないと思う。
「ルーク兄様は最低ですね……」
尊敬する兄に対してセシルは言った。
イセリナとの婚約については擁護しようがないと。
「ああ、俺は最低なんだ。もしもセシルがアナを手に入れたのなら、俺は正気を保っていられないだろう」
セシルは首を振った。もうルークが望む世界などあり得ないのだと。
国の有力者であるランカスタ公爵家のご令嬢と婚約した兄には、もう一つの道筋しか残っていないのだから。
「兄様、僕はそれでも彼女を手に入れたくなっています。兄様の命令は絶対だと考えておりましたが、心までは譲れない」
セシルもまた本気であるらしい。
兄の気持ちを聞いたあとでも、アナスタシアを手に入れようと考えていた。
「僕は一応、彼女から承諾してもいいと聞いています。王太子選もありますし、兄様と対決することになりますね。僕は彼女に相応しい男になると決めました」
それは宣戦布告であった。
王太子に興味がなかったかのようなセシルが初めて口にしたのだ。
現状はルークが本命に復帰しただけで、セシルには落ち度などないのだから。
「分かった。もう一度だけ俺も踏み出してみる……」
ルークは頷いていた。まさかセシルと本気で王太子選を戦うだなんて考えもしないことであったけれど。
「やっぱ、俺はアナと幸せになりたい……」
それは切実な想い。何度も諦めようと考えたこと。けれども、弟の本気を聞いたあとでは、どうしても手に入れたいと思う。
「じゃあ兄様、恨みっこなしです! とはいえ、婚約破棄などなさらず、イセリナ様と幸せになってくださっても構いませんよ?」
「セシルも言うようになったな? 俺は誰も傷つけないなんてできそうにもない。できるだけ周囲に気を遣うつもりだけど、俺はもう自分を欺きたくないんだ……」
どうやらルークも前を見据えられたらしい。
こだわっていた王太子という身分。しかし、それは本心を隠してまで手に入れるものではないと気付く。
「まあ、アナスタシア様が無事に戻らなければ、何も始まりませんけれど……」
「問題ねぇよ。アナは美しいだけじゃない。誰よりも強く格好いい俺の憧れなんだ。火竜二頭に襲われるよりも、小国の争いに首を突っ込む方が楽に違いない。圧勝して戻ってくるはず」
アナスタシアがいない場面で勝手に話が進んでいく。
女を巡る兄弟喧嘩に発展するのかと思いきや、不思議と絆が深まっていた。
セシルとルークは互いの健闘を祈って握手を交わす。
それは後腐れなしと誓った兄弟における契りに他ならない。
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