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第七章 光が射す方角

温室栽培

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 私は差し出された腕に手を回す。拒否できないのですから仕方ないと。

 帰ったらカルロを殴った上に蹴っ飛ばす。それはもう確定事項です。この生き地獄と同じ痛みを喰らわせてやりましょう。

 まさかのセシルにエスコートされ、私は会場であるガゼボへと歩いて行く。

 もう既に大半の参加者が集まっているようで、現れた王子殿下に視線が集中していました。

(居たたまれないわ……)

 セシルが歩く先の人垣が割れ、貴族たちが作り出した道。まるで色とりどりの花が咲く花壇のようです。

 珍獣のような私を連れて歩くセシルはさぞかし辛い思いをしていることでしょう。


 セシルが現れたことで、エレオノーラが挨拶に訪れました。

「セシル殿下、此度は懇親会にお越しいただきありがとうございます。おかげさまで大盛況となりました」

 来年度の入学予定者をもてなすのは一年生の役目らしく、エレオノーラは貴院長の妹でもありますから、この大役に相応しいと白羽の矢が立ったみたいです。

「やあ、エレオノーラ様、素敵なドレスですね?」

 セシルの言葉に私は落ち込んでしまう。

 何しろ彼は私を見るや斬新なドレスだと言ったのです。やはり、あの台詞は取り繕う意味合いしかなかったようですね。

「オホホ、この茶会を成功させるべく用意いたしましたの。しかし、殿下も隅に置けませんわね? わたくしが用意した最高のお花を先に摘んでしまわれたなんて……」

 何のことだか分かりませんが、私は俯くだけ。

 もうセシルの腕を離してもいいかな? 正直にもう耐えられないのだけど。

「ああ、エレオノーラ様が用意してくださったのですか? 可憐なお花が咲いていたものでつい……。僕がエスコートするのは問題でしたか?」

「いえいえ、殿下がお気に召されたのでしたら。そのお花はとある温室で栽培されております。ただ大輪を咲かせるには環境が思わしくないのです。わたくしは陽の光を思い切り浴びることができる場所へと出してあげただけですわ」

 私のこと? 可憐なお花って。それに温室って馬鹿言っちゃいけないわ。

 あれは監獄なの。ドレスを見ても分かる通り、陽の当たらぬ暗黒で育てられているのよ。

「アルバート貴院長は構わないのでしょうか?」

「お兄様はお兄様で頑張るだけですわ。美しき花を奪い合うことは世の常です。また耳目を集めるたびに美しく咲き乱れますの。殿下も肥やしの一人でしてよ?」

「それは失敬でしたね。まあ、そうですか。僕でも肥やしになれると……」

 不意にセシルが私へと視線を向けた。

 じろじろと上から下までじっくりと見定めている感じです。

「セシル殿下、少し凝視しすぎですわ」

 透かさずエレオノーラが注意します。

 この様子には彼女もやはり公爵令嬢なのだなぁと思います。セシルに堂々と注意できる人間はこの場に彼女しかおりませんし。

「面目ありません。久しぶりにルイ様とお会いしたのですよ。腕を組んでいただいたので、じっくり愛でることができませんでしたからね」

「そのお花は茎や葉も見事ですから仕方ありませんわね? 殿下が考えていたよりも、男性でいらっしゃるようで驚きましたわ」

 まったく茎や葉って何の隠語なのよ。

(まぁた胸の話か……)

 エリカにも言われたけれど、やっぱ私の胸は無駄に成長し続けているようです。

「一本取られましたね。ルイ様、申し訳ございません。流石に凝視するのはマズいですよね。謝罪させていただきます」

 からかわれているようなセシルですが、大人な対応です。

 この辺りは前世でも知るままでしたけれど、割と積極性もあるのだと改めて感じました。

 さあ、いよいよ茶会が始まります。気分転換のために参加している私はこの茶会で何を得られるのでしょう。

 私が歩むべき道が分かるといいのですけれど。
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