166 / 377
第七章 光が射す方角
急な話
しおりを挟む
休日の朝。貴族院が休みの日は以前と変わらずスラム街の清掃です。
既に多くの人たちが冒険者ギルドへの登録を済ませて、自立していました。
しかしながら、子供たちにはまだ支援が必要であり、私は清掃の対価として子供たちへの炊き出しを続けています。
「エリカ、今日もお疲れさま。貴方が手伝ってくれるから助かってるわ」
「ルイ様、とんでもございません! スラムの子供たちに希望を与えてくださり、感謝しきれないのですから!」
とても平穏な朝でした。それこそ妙な話を聞くまでは……。
炊き出しの片付けも終わり、一休みしていたところ、
「そういえばルイ様、お聞きになられました?」
エリカが世間話を始めました。
貴族院で話をしない代わりに、休日には色々な話を彼女は聞かせてくれます。
喜々として語るエリカに私は目を細めていましたが、その内容は予想すらしていない話であったのです。
「ルーク王子殿下がご婚約されたそうです――」
私は固まっていました。
いつか訪れる未来に違いなかったのですが、それにしても早すぎる。
自然と鼓動が高鳴っていきます。
「だ、誰と……?」
気になるのはそのお相手。前世ではイセリナである私でしたけれど、こんなにも早く決まった世界線はありません。
まるでゲームの理に縛られているかのように、私とルークとの交際が始まったのは二年生の冬に行われる胡蝶蘭の夜会だったのですから。
「イセリナ様ですよ!」
そんな話、少しだって聞いていない。
あのぐうたらな眠り姫は肝心な話を私にしていません。
「今朝も話をしたけど、一言もいってなかったわよ!?」
「まだ正式に発表されていないからでしょうかね? 私はシャルロット王女殿下にそのお話を伺いしました」
そういえばエリカはシャルロットの教育係でした。
恐らく、シャルロットが口を滑らせたのだと思います。
(でも、ルークが婚約って……)
心の準備ができていない私は受け止めきれない。
まだ心のどこかで、彼が私のことを想ってくれているのではと考えていたから。
心の平穏を求めるかのように、私は思い込んでいたのです。
「そんな……」
もう何も見えない。何も聞こえない。
私は暗く狭い空間に落ち込んだかのように、何も考えられなくなっています。
「ルイ様?」
私の気持ちを知らないエリカが心配してくれている。
だけど、上の空で頷くしかできないのです。知らされた現実に私は絶望していたのですから。
無言でエリカと別れます。
去り際に手を振ったかどうかも覚えていません。
気付けば、私はお屋敷に戻っていました。
既に多くの人たちが冒険者ギルドへの登録を済ませて、自立していました。
しかしながら、子供たちにはまだ支援が必要であり、私は清掃の対価として子供たちへの炊き出しを続けています。
「エリカ、今日もお疲れさま。貴方が手伝ってくれるから助かってるわ」
「ルイ様、とんでもございません! スラムの子供たちに希望を与えてくださり、感謝しきれないのですから!」
とても平穏な朝でした。それこそ妙な話を聞くまでは……。
炊き出しの片付けも終わり、一休みしていたところ、
「そういえばルイ様、お聞きになられました?」
エリカが世間話を始めました。
貴族院で話をしない代わりに、休日には色々な話を彼女は聞かせてくれます。
喜々として語るエリカに私は目を細めていましたが、その内容は予想すらしていない話であったのです。
「ルーク王子殿下がご婚約されたそうです――」
私は固まっていました。
いつか訪れる未来に違いなかったのですが、それにしても早すぎる。
自然と鼓動が高鳴っていきます。
「だ、誰と……?」
気になるのはそのお相手。前世ではイセリナである私でしたけれど、こんなにも早く決まった世界線はありません。
まるでゲームの理に縛られているかのように、私とルークとの交際が始まったのは二年生の冬に行われる胡蝶蘭の夜会だったのですから。
「イセリナ様ですよ!」
そんな話、少しだって聞いていない。
あのぐうたらな眠り姫は肝心な話を私にしていません。
「今朝も話をしたけど、一言もいってなかったわよ!?」
「まだ正式に発表されていないからでしょうかね? 私はシャルロット王女殿下にそのお話を伺いしました」
そういえばエリカはシャルロットの教育係でした。
恐らく、シャルロットが口を滑らせたのだと思います。
(でも、ルークが婚約って……)
心の準備ができていない私は受け止めきれない。
まだ心のどこかで、彼が私のことを想ってくれているのではと考えていたから。
心の平穏を求めるかのように、私は思い込んでいたのです。
「そんな……」
もう何も見えない。何も聞こえない。
私は暗く狭い空間に落ち込んだかのように、何も考えられなくなっています。
「ルイ様?」
私の気持ちを知らないエリカが心配してくれている。
だけど、上の空で頷くしかできないのです。知らされた現実に私は絶望していたのですから。
無言でエリカと別れます。
去り際に手を振ったかどうかも覚えていません。
気付けば、私はお屋敷に戻っていました。
10
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる