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第七章 光が射す方角

次なるイベント

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 貴族院に入ってから一ヶ月が経過していました。

 やはりサルバディール皇国はきな臭い雰囲気になっており、リックがその都度、情報を伝えてくれます。私の命令である魔導書については何の進展もなかったというのに。


 さて、本日はレセプションパーティーです。

 いわゆる歓迎会。新入生と二年生が交流する最初のイベントでありました。

 ゲームでは各ルートの最終分岐点です。このイベント後にルートが確定して攻略対象が一人となります。

 二年という在籍期間中に意中のキャラクターを攻略しなければなりません。

「だから、ドレスを選べと言っているだろうが!?」

 朝から私は怒鳴られています。

 レセプションパーティーに修道服で参加するという私にカルロはドレスを着て行けというのです。

 もう着飾るような気分でもないというのに。

「じゃあ、真っ黒なドレスをお願いしますわ」

「本当にお前は強情だな!? 誰が歓迎会に喪服を着て行くというんだ!?」

 なぜにカルロは私にドレスを着せたいのだろう。

 修道服の方が目立たないのだけど。

「ドレスを着ると、私は注目を浴びてしまうわ」

「何て自信家なんだよ? 俺に修道服や喪服の女と踊れというのか!?」

 ああ、そういうこと。要は皆の前で私を独占したいってことね。

「そういうことなら承知しました。でも、お偉い方がダンスに誘ってきたら断れませんよ?」

「当然、受けろ。お前はサルバディール皇国の人間。繋がりを得られるように行動しろ」

 どうやら私は今も所有物らしく、役に立てと言われているようです。

 私が作った繋がりで、母国に繁栄がもたらされるようにと。

「ワタクシはブルーのドレスにしますわ!」

 ここでイセリナが口を挟む。

 私もブルーにしようと考えていたので、ここは彼女に折れてもらいましょう。

「イセリナは馬鹿なんだから、賢く見える純白にしなさい!」

「馬鹿とはなんですか!?」

「事実でしょ? ほら、私が着付けてあげるから……」

 実際に美人である彼女は何を着ても似合う。

 王子殿下の攻略をしてもらわねばならないのですから、目立たぬブルーよりも純白のドレスが一番だわ。

「用意できたら呼びに来い。俺は部屋にいる」

 ぶっきらぼうなカルロにイセリナは薄い視線を向けている。

 まあ彼女じゃなくても、不満に感じるところでしょうかね。

「カルロ殿下はどうして、ああも素っ気ないのかしら? 美女二人が着替えをするのよ? 男ならどうにかして覗こうとするものじゃない?」

「いや、覗くとかあり得ないから。それに彼は純情なのよ。素直じゃないだけだし」

 一応はフォローしとくけど、イセリナに気がないのは明らかです。

 それどころか彼女は自国の王子殿下にも興味を示さないのだから、ポンコツを通り越した公爵令嬢ですね。

「ルイも苦労するわね。あんな男の所有物だなんて……」

「仕方ないよ。実際、私は彼に助けられた。ここにいるのも、ここまで来られたことも彼がいたからよ……」

 嘘偽りない気持ちです。

 私としては恋心など微塵も覚えていないのですけれど、彼への感謝は尽きることなどありません。

「私の居場所はここしかないのだからね……」

 小さく答えた私にイセリナは首を振った。

 どうしてか私の返答を否定しています。

「ワタクシを頼りなさい。小国の皇太子とか安売りしないこと。ランカスタ公爵家はルイ一人を受け入れるくらい余裕ですの!」

 少しばかり笑ってしまった。

 前世は聖女であったのは確かだけど、私はイセリナの発言に光を見ていました。

「そっか。いざとなればお願いするわ。カルロ殿下はこのあと、とても大変なことになる運命。どうしようかと考えていたのよ」

「それも予知なの? だったらここを出て、ワタクシの屋敷で生活する?」

 イセリナの提案には首を振って答える。

 今はまだそのときではない。それは本当に最終手段だから。

「一応は運命に抗いたいのよ。助けてくれたのは事実だし、私も手助けできるならしてあげたい。ま、それ以上の関係ではないのだけれどね」

 カルロの未来には暗雲が立ち込めている。せめて、それらを吹き飛ばしてあげないと、私としては借りを返したと言えないもの。

 サルバディール皇国の存続が彼の元を去る条件に違いない。

「そこそこ男前ではあるのですけれどね?」

「じゃあ、イセリナが嫁げばいいじゃない?」

「ワタクシの趣味ではありませんの!」

 イセリナは本当に可愛いな。

 棘のない彼女は明確に悪役令嬢ではなくなっていたけれど、他人の心に敏感な反応を示す。まだ聖女成分が残っているのかしらね。

「さっさと着替えてレセプションパーティーに参加しましょうか!」

「ルイ、ワタクシたちで会場中の視線を独占しましょう!」

 少しばかり可笑しくなっていました。

 決して乗り気ではなかったのですが、参加するならば楽しむだけ。

 イセリナが話すように華となるのも悪くないような気がしていました。
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