122 / 377
第六章 揺れ動く世界線
過去との決別
しおりを挟む
「私はスラムの清掃が王国にとって重要だからしております。否定しないでくださいな? それにルーク殿下の問題は早々に解決すべき問題ではありません」
ものには順序がある。
確固たる計画が私にはあったのです。
「その時が来ればアナスタシア・スカーレットであることを公表しますから。どうかお待ちください。私には強力な支援者がおります故、ご心配なく。粛々とルーク王子殿下を王太子とするための計画が進行しておりますの。お待ちくださいとしか、今は言えません」
気の長い私でも、これ以上に首を突っ込もうとするのなら、キレてしまうわよ?
現状は焦るべきじゃない。全てが破綻する行動は絶対に認められないのよ。
今は優先順位に沿って動くべきであり、東と北のご老人が欲にまみれて手を挙げたとして、気にする問題じゃないわ。
「ルーク殿下には各地の治水工事に力を入れるようお伝えください。それだけでルーク殿下の株が上がりますから」
「本当でしょうか?」
今伝えられることはそれだけです。
確認には大きく頷いて返答としています。
「しかし、私のことをルーク殿下に伝えてはなりません。レグス様、どうか約束してください。清浄なる光はエリカという女性でしたとだけ、お伝えくださいまし」
これで良いはずだ。本来の聖女はエリカです。彼女とルークが結ばれてはならないけれど、聖女のポジションを彼女から奪うのは違う。
仲良くなって分かったのよ。エリカが私のような偽物ではないってことを。
「ルーク殿下は喜びますけれど? 貴方様が生きていると知れば……」
「あの時、言ったではないですか? 私は二度とお会いしたくないと。それは事実ですの。私と殿下は共にする時間を有しておりません」
はっきりと口にしておかねばならない。
私とルークはあの時間軸を最後に接点を失っていたのですから。
「駄目なのでしょうか?」
「世界のためよ。女神アマンダのお告げといえば信じてもらえるかしら?」
側近であるレグス近衛騎士団長はやはり主人が王太子になって欲しいと考えるでしょう。
だからこそ、私の無事を伝えることで奮い立ってもらいたいはず。
「女神アマンダは私に言いました。ルーク殿下とイセリナ様を結びつけるようにと。そうしないと世界は破滅する。だからこそ、私はあのような別れ方を選択したのですわ」
レグス近衛騎士団長が違和感を覚えるのは当然です。
私は別れありきで、捲し立てていたことになるのですから。
「世界が破滅するとか、愛の女神様が仰ったのですか?」
「ええ、その通りよ。詳しくは話せないのですけれど、その未来は魔王誕生に繋がってしまうのです。ルーク殿下にはアナスタシア・スカーレットを忘れていただくしかありません。ですが、お約束いたしましょう……」
私は告げるだけだ。こんな今もルークのために動いているのです。
秘めたる想いのまま、言葉にするだけでした。
「ルーク第一王子が王太子に選ばれることだけは……」
レグス近衛騎士団長にはこれだけで充分でしょう。彼はそれ以上を望んでいないはずですし。
私の話にレグス近衛騎士団長は頭を上下させています。
ようやく納得したのか、何度も繰り返していました。
「承知しました。貴方様も人知れず行動されている様子。私は貴方様を信じましょう。火竜の聖女ことアナスタシア・スカーレット様を……」
まあ聖女と言われても仕方がない。何しろ、今の私は無償でスラムを掃除する聖人なのですから。
小さく微笑んだあと、私はレグス近衛騎士団長へと述べた。
私の覚悟を再確認してもらうために。
今はルイ・ローズマリーですわ――と。
ものには順序がある。
確固たる計画が私にはあったのです。
「その時が来ればアナスタシア・スカーレットであることを公表しますから。どうかお待ちください。私には強力な支援者がおります故、ご心配なく。粛々とルーク王子殿下を王太子とするための計画が進行しておりますの。お待ちくださいとしか、今は言えません」
気の長い私でも、これ以上に首を突っ込もうとするのなら、キレてしまうわよ?
現状は焦るべきじゃない。全てが破綻する行動は絶対に認められないのよ。
今は優先順位に沿って動くべきであり、東と北のご老人が欲にまみれて手を挙げたとして、気にする問題じゃないわ。
「ルーク殿下には各地の治水工事に力を入れるようお伝えください。それだけでルーク殿下の株が上がりますから」
「本当でしょうか?」
今伝えられることはそれだけです。
確認には大きく頷いて返答としています。
「しかし、私のことをルーク殿下に伝えてはなりません。レグス様、どうか約束してください。清浄なる光はエリカという女性でしたとだけ、お伝えくださいまし」
これで良いはずだ。本来の聖女はエリカです。彼女とルークが結ばれてはならないけれど、聖女のポジションを彼女から奪うのは違う。
仲良くなって分かったのよ。エリカが私のような偽物ではないってことを。
「ルーク殿下は喜びますけれど? 貴方様が生きていると知れば……」
「あの時、言ったではないですか? 私は二度とお会いしたくないと。それは事実ですの。私と殿下は共にする時間を有しておりません」
はっきりと口にしておかねばならない。
私とルークはあの時間軸を最後に接点を失っていたのですから。
「駄目なのでしょうか?」
「世界のためよ。女神アマンダのお告げといえば信じてもらえるかしら?」
側近であるレグス近衛騎士団長はやはり主人が王太子になって欲しいと考えるでしょう。
だからこそ、私の無事を伝えることで奮い立ってもらいたいはず。
「女神アマンダは私に言いました。ルーク殿下とイセリナ様を結びつけるようにと。そうしないと世界は破滅する。だからこそ、私はあのような別れ方を選択したのですわ」
レグス近衛騎士団長が違和感を覚えるのは当然です。
私は別れありきで、捲し立てていたことになるのですから。
「世界が破滅するとか、愛の女神様が仰ったのですか?」
「ええ、その通りよ。詳しくは話せないのですけれど、その未来は魔王誕生に繋がってしまうのです。ルーク殿下にはアナスタシア・スカーレットを忘れていただくしかありません。ですが、お約束いたしましょう……」
私は告げるだけだ。こんな今もルークのために動いているのです。
秘めたる想いのまま、言葉にするだけでした。
「ルーク第一王子が王太子に選ばれることだけは……」
レグス近衛騎士団長にはこれだけで充分でしょう。彼はそれ以上を望んでいないはずですし。
私の話にレグス近衛騎士団長は頭を上下させています。
ようやく納得したのか、何度も繰り返していました。
「承知しました。貴方様も人知れず行動されている様子。私は貴方様を信じましょう。火竜の聖女ことアナスタシア・スカーレット様を……」
まあ聖女と言われても仕方がない。何しろ、今の私は無償でスラムを掃除する聖人なのですから。
小さく微笑んだあと、私はレグス近衛騎士団長へと述べた。
私の覚悟を再確認してもらうために。
今はルイ・ローズマリーですわ――と。
10
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~
なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。
そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。
少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。
この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。
小説家になろう 日間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 週間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 月間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 四半期ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 年間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 総合日間 6位獲得!
小説家になろう 総合週間 7位獲得!
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。
克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。
2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位
2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位
異世界転生令嬢、出奔する
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化しました(2巻発売中です)
アリア・エランダル辺境伯令嬢(十才)は家族に疎まれ、使用人以下の暮らしに追いやられていた。
高熱を出して粗末な部屋で寝込んでいた時、唐突に思い出す。
自分が異世界に転生した、元日本人OLであったことを。
魂の管理人から授かったスキルを使い、思い入れも全くない、むしろ憎しみしか覚えない実家を出奔することを固く心に誓った。
この最強の『無限収納EX』スキルを使って、元々は私のものだった財産を根こそぎ奪ってやる!
外見だけは可憐な少女は逞しく異世界をサバイバルする。
糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る
犬飼春野
ファンタジー
「すまない、ヘレナ、クリス。ディビッドに逃げられた……」
父の土下座から取り返しのつかない借金発覚。
そして数日後には、高級娼婦と真実の愛を貫こうとするリチャード・ゴドリー伯爵との契約結婚が決まった。
ヘレナは17歳。
底辺まで没落した子爵令嬢。
諸事情で見た目は十歳そこそこの体格、そして平凡な容姿。魔力量ちょっぴり。
しかし、生活能力と打たれ強さだけは誰にも負けない。
「ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりしているわけじゃないの」
今回も強い少女の奮闘記、そして、そこそこモテ期(←(笑))を目指します。
*****************************************
** 元題『ぼんやり顔だからって、性格までぼんやりとしているとは限りません』
で長い間お届けし愛着もありますが、
2024/02/27より『糸遣いの少女ヘレナは幸いを手繰る』へ変更いたします。 **
*****************************************
※ ゆるゆるなファンタジーです。
ゆるファンゆえに、鋭いつっこみはどうかご容赦を。
※ 設定がハードなので(主に【閑話】)、R15設定としました。
なろう他各サイトにも掲載中。
『登場人物紹介』を他サイトに開設しました。↓
http://rosadasrosas.web.fc2.com/bonyari/character.html
能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。
暇野無学
ファンタジー
馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。
テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。
無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる