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第六章 揺れ動く世界線

幸せを願う

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「私は死すら厭わない……」

 やはり難色を示すのはカルロです。

 戻ってくるなと言った彼は本当に死んで欲しくないのかもしれません。

「ルイ、やり直しのたびに死んでいたのでは心が持たないぞ?」

「どうせ巻き戻るだけです。それに殺されるだけではありません。目的を遂げるために、私は障害となる者を排除していくつもりですわ」

 嫌われたとして構わない。もう愛は捨ててきたんだ。

 あの世界線。私の愛はあのルークに預けたままなのだから。

「どこまでも強いな。君は……」

 思考が年齢相応でないことは真相を知るカルロなら分かってくれたでしょう。

 私の興味は協力してくれるのかどうかだけしかありません。

「今のところ殿下に見返りはありません。そればかりか損ばかりですわ。それでも私に協力いただけるのでしょうか?」

「くどい。ルイの自己犠牲を認めるわけにはいかない。でも、気高き思考をする君のことは好意的に捉えている。目的が世界を救うためであるのなら、俺は協力を惜しまない」

「聖人ですのね? でも感謝いたしますわ。頼れる者がいない中で、貴方様の助力はとても心強い。此度はもう戻ることなどないと誓いましょう」

 もう戻ってくるつもりなどない。

 彼が戻ってくるなと言うのなら、約束するだけだ。他に支払う対価など私にはないのだから。

「とりあえず今は教会側の同意を得たところ。あとは議会の承認を残すだけだ。しかし、君が話す通りであれば、承認されるのだろうな」

「ええ、間違いなく。火竜の聖女についてお調べになったのでしょう? 私の正当防衛を認めていただけることでしょうし、三日後に私はルイ・ローズマリー枢機卿として存在を許されることになります。加えて一ヶ月後にはランカスタ公爵がお見えになります。彼との交渉により、私は現世界線の突破口を見出すつもりですわ」

 お金のことなら髭を頼るしかない。

 スカーレット子爵領が使えない今となっては有利な条件を突きつけるよりも、彼の利益だけを優先しよう。

 最低でもランカスタ公爵領内の治水だけでもしてもらわなければ、キャサリン・デンバーの誕生パーティーすら参加できなくなるのですから。

「やはり一度経験したことなのだな?」

「嘘を言ってどうするのです? 死ねるものなら死にたいですわ……」

「そんなことは言うな!!」

 間髪入れずカルロが声を荒らげていました。

 彼は本当に真っ直ぐな人です。悪に染まった私の死ですら許してくれないのですから。

「たとえですよ。怒鳴らなくても……」

「怒鳴ったのは悪かった。でも、俺はルイも幸せになれる方向で模索して欲しいだけだ」

「私の幸せとかそれこそあり得ない。愛を履き違えた女には不幸こそが相応しいのですから」

 頭を振るカルロだけど、一貫して自己犠牲を口にする私にもう文句を並べませんでした。

 分かってくれたら良いの。身体は好きにしてくれて構わない。けれど、心だけは私のもの。

 幸せになる唯一のルートが閉ざされているのだから、私には不幸しか待っていない。

 そもそも幸せなんて願っちゃいけないのよ……。
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