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第五章 心の在りか

真相を告げて

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「現状の世界線は君が作り出したというのか……?」

「当然でしょ? この世界線はルークに嫌われることから始まった。どれだけ心が傷んだのか、貴方には分からないでしょうけれど」

 八つ当たりなのかもしれません。

 だけど、何も知らない人たちが私を責める道理などあっていいはずがない。

 再び頭を振るカルロ。大泣きする私について、少しでも分かってもらえたでしょうか。

「愛の女神アマンダがそのような苦痛を使徒に与えるだろうか?」

「アマンダは女神だけど、見守るだけよ。世界に対して何もできない。駄目なら巻き戻すくらいしかできない駄女神だもの」

 女神は無力だ。大地に雷でも落とせたのなら、世界を救えただろうに。

 彼女は私を送り込んだあとは巻き戻すくらいしかできないのですから。

「今世でやるべきことはイセリナとルークを結びつけ、第三王子セシルを私が籠絡することだった。でもね、私はアナスタシアになって初めて本心を理解したのよ。奪われると知って初めて、彼を愛していたと気付いたのよ……」

 今も心を病む理由は明らか。

 愛する人と結ばれてはならないからだ。

「だから私の知らないところで幸せになって欲しい。セシル第三王子とソフィア姫殿下が結ばれて欲しいのよ」

 本心を晒け出していました。

 溢れる涙は感情を刺激して、話すつもりのないことまで口走らせていたのです。

 荒い息を吐く。私はどうしてこんなにも弱いのだろう。

 八つ当たりすることでしか、発散できないなんて。

「アナスタシア、それは辛かったな。俺はようやく君という人柄を見た。信用に足る人物なのだと。感情が真っ直ぐに届いたよ。全てを知る理由や、事を急ぐわけ。サルバディール皇国まで来るしかなくなった経緯についても……」

 分かるはずないわ。

 私が語った全ては妄言にも似た話なのですから。

「俺は代わりになれないか?」

 刹那に私の時が止まっていました。

 どうしてそのような話になるのかと。

「私を望まれるのなら、ソフィア殿下とセシル殿下の後押しをしてくださいな。私はこの世界線に何も求めない」

 ルークとイセリナ、そしてセシルとソフィア。私の使命がなくなるのなら、何だってしようと思う。

「そうできるのなら好きにして良いわ。性奴隷でも構わないわよ? 今世に希望など残されていないのだから……」

「自分を卑下するな!!」

 どうしてか怒鳴られています。

 私には何の望みもないことを口にしただけなのに。

「君は自分を大切にしろ。使徒だからと未来を捨てるなんて馬鹿だ。愛の女神はきっと君の幸せも願っている。美しき女神様の愛は平等に与えられるもの。だから、自分を捨てて世界のために動くだけだなんて、愛の女神が望むことじゃない。少なくとも俺は君の行為を容認できない。もう悪役は演じないでくれ」

 どうしてかカルロはそんな風に私を解釈していた。

 自暴自棄的に私はこの世界線を選んだだけだというのに。

「俺は君の心が泣いているのを知ってしまった。こんなにも綺麗な心を君はしていたのに」

 えっ?――――。

 私は固まっていました。

 なぜなら、カルロは私の涙を拭ったあと、頬にキスをしていたのだから。

「でで、殿下、なにを!?」

「俺はアナの味方になろう。それこそ愛の女神アマンダに誓ってやる……」

 呆然としてしまう。

 身の振りどころが見えなかった私の闇に眩い光が射し込んでいました。

「俺と歩め。もう一人じゃない……」

 どうしたら良いのか分からない。私はルークが好きだと伝えたはず。

 けれど、カルロは私を口説くような言葉を口にしたのです。

(どうして……?)

 流れる涙は私の心を容赦なく叩き続ける。

 私は返答すらできずに、泣きじゃくるだけでした……。
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