87 / 377
第四章 歪んだ愛の形
切り捨てるもの
しおりを挟む
「リック、火竜の聖女は信用できるのか?」
ここでカルロは従者に問いを投げる。
私を連れてきたリックの意見。長く付き従う者の見解を知ろうとして。
「アナスタシア様は世界の安寧を求められています。人知れず冒険者となり、世界を救う道を模索しておられました。恐らくは殿下が現れることすらも、彼女の思惑通りであったのだろうと感じます」
うん、それは過大評価だね。予知能力なんて持っていませんし。
私は記憶を頼りに話すだけで、詳細まで知っているわけではないのですから。
「アナスタシア嬢、リックが信用するのなら、俺は君を信用しよう。再度聞くが、帝国と争っている鉱山は手に入れない方が良いのだな?」
思わず笑みが零れていました。
ようやく歴史が変わる。今世こそ貴方は貴族院を卒業できるはずよ。
「金鉱脈より鉄を好まれるのでしたら、その限りではありませんね。私はとある目的があって皇国まで来たのであって、実をいうとサルバディール皇国の未来に関与するつもりはありません。その辺りはお好きにされたらよろしいかと」
リックが鬼の形相で私を見ているけれど、折れた方が負けなのよ。
交渉ごとは常に有利な立場で行うべきだと髭も言っていたのだから。
「意地が悪い聖女だな? まあいい。それで目的とは何だ? サルバディール皇国に関係のあることか?」
「これでも親身になっているのですけどね。私の目的はコードネーム[サイファー]という暗殺者を雇うことですわ。他にもございましたけれど、サルバディール皇国は先見の明に欠けると判断しました。沈む船に乗るほど愚かではありませんの」
言った直後にドナテロ准男爵が斬りかかって来ました。
私は太もものホルダーから短剣を抜いて、それを受けています。
「ぐぬぅ!?」
「あら? 手加減してくださったのかしら?」
斬りかかられたのであれば、もう大人しくしている必要はありません。派手に暴れてやろうと思います。
私がハイドロクラッシャーの詠唱を始めようとした矢先のこと、
「ガァァァッ!!」
マリィが一足早く火球を撃ち放っていました。
やはりマリィは私の危機を察知しています。殺意に対して敏感に反応している。
残念ながら、私が吹き飛ばす前にドナテロは消し炭となってしまいました。
こうなると穏便に済ますルートはありません。マリィに乗っかるようにして古代魔法を詠唱していくだけ。
「サルバディール皇国は滅びるべき!」
抗えないほど強大な力を見せてあげる。
昏倒するので発動まではできませんでしたが、巨大な魔法陣は畏怖するに充分なものとなるでしょう。
「やめてくれ、アナスタシア嬢!!」
賢明な判断、感謝しますわ。
止めてくれなければ撃つしかない。とはいえ、止めてくれると思ったから詠唱したまで。
「カルロ殿下、私は斬り付けられたのですよ? 准男爵とかいう貴国の兵士に」
もうサルバディール皇国の逃げ道は塞いだ。
帝国だけでも敗戦が決まっているというのに、セントローゼス王国を敵に回すなどあり得ない。
留学を考えている彼であれば、尚のことその意味合いを理解できたことでしょう。
「父上、どうか兵を下げてください。リックの報告によると彼女は火竜二頭を一撃で討伐した大魔法使いです。決して軽口で言っているわけではなく、本当に皇城ごと吹き飛ばしてしまいますよ。しかも火竜の幼体までいたのでは……」
諜報活動していたのですから、当然のことリックは火竜の聖女について調べたはず。
あれから一年くらいしか経っていませんけれど、既にカルロはその報告を受けていたみたい。
「カルロ殿下、私は小国が滅びようが知ったことではありませんの。忠告しただけだというのに斬り付けてくるような野蛮な国。私は火竜の聖女です。マリィだけでも、このような小国くらい制圧可能ですわ」
平然と私の肩に乗るマリィ。主人たる私を守った彼女はその成果を誇りに感じていることでしょう。
再び殺意を向けられるのであれば、彼女はまたも強大な火球を吐くはずです。
次の瞬間、私は絶句させられていました。
「アナスタシア嬢、どうか許してくれ! 貴殿の罪を問うつもりはない。サルバディール皇国を許して欲しい」
カルロが頭を垂れて謝罪していたのです。
スラムで物乞いをしていそうな身なりの私に向かって。彼は態度と言葉で私に願っていました。
(興ざめだわ……)
皇太子殿下が家臣たちのために頭を下げるなんてね。
いざとなればリックを引き連れて逃げるつもりだったのだけど、もうその必要はないみたいです。
何とも消化不良でしたが、私も頭を冷やせたかのよう。
だからこそ、事態の収拾を期待してカルロに言葉をかけるのでした。
「頭をお上げください、カルロ殿下……」
ここでカルロは従者に問いを投げる。
私を連れてきたリックの意見。長く付き従う者の見解を知ろうとして。
「アナスタシア様は世界の安寧を求められています。人知れず冒険者となり、世界を救う道を模索しておられました。恐らくは殿下が現れることすらも、彼女の思惑通りであったのだろうと感じます」
うん、それは過大評価だね。予知能力なんて持っていませんし。
私は記憶を頼りに話すだけで、詳細まで知っているわけではないのですから。
「アナスタシア嬢、リックが信用するのなら、俺は君を信用しよう。再度聞くが、帝国と争っている鉱山は手に入れない方が良いのだな?」
思わず笑みが零れていました。
ようやく歴史が変わる。今世こそ貴方は貴族院を卒業できるはずよ。
「金鉱脈より鉄を好まれるのでしたら、その限りではありませんね。私はとある目的があって皇国まで来たのであって、実をいうとサルバディール皇国の未来に関与するつもりはありません。その辺りはお好きにされたらよろしいかと」
リックが鬼の形相で私を見ているけれど、折れた方が負けなのよ。
交渉ごとは常に有利な立場で行うべきだと髭も言っていたのだから。
「意地が悪い聖女だな? まあいい。それで目的とは何だ? サルバディール皇国に関係のあることか?」
「これでも親身になっているのですけどね。私の目的はコードネーム[サイファー]という暗殺者を雇うことですわ。他にもございましたけれど、サルバディール皇国は先見の明に欠けると判断しました。沈む船に乗るほど愚かではありませんの」
言った直後にドナテロ准男爵が斬りかかって来ました。
私は太もものホルダーから短剣を抜いて、それを受けています。
「ぐぬぅ!?」
「あら? 手加減してくださったのかしら?」
斬りかかられたのであれば、もう大人しくしている必要はありません。派手に暴れてやろうと思います。
私がハイドロクラッシャーの詠唱を始めようとした矢先のこと、
「ガァァァッ!!」
マリィが一足早く火球を撃ち放っていました。
やはりマリィは私の危機を察知しています。殺意に対して敏感に反応している。
残念ながら、私が吹き飛ばす前にドナテロは消し炭となってしまいました。
こうなると穏便に済ますルートはありません。マリィに乗っかるようにして古代魔法を詠唱していくだけ。
「サルバディール皇国は滅びるべき!」
抗えないほど強大な力を見せてあげる。
昏倒するので発動まではできませんでしたが、巨大な魔法陣は畏怖するに充分なものとなるでしょう。
「やめてくれ、アナスタシア嬢!!」
賢明な判断、感謝しますわ。
止めてくれなければ撃つしかない。とはいえ、止めてくれると思ったから詠唱したまで。
「カルロ殿下、私は斬り付けられたのですよ? 准男爵とかいう貴国の兵士に」
もうサルバディール皇国の逃げ道は塞いだ。
帝国だけでも敗戦が決まっているというのに、セントローゼス王国を敵に回すなどあり得ない。
留学を考えている彼であれば、尚のことその意味合いを理解できたことでしょう。
「父上、どうか兵を下げてください。リックの報告によると彼女は火竜二頭を一撃で討伐した大魔法使いです。決して軽口で言っているわけではなく、本当に皇城ごと吹き飛ばしてしまいますよ。しかも火竜の幼体までいたのでは……」
諜報活動していたのですから、当然のことリックは火竜の聖女について調べたはず。
あれから一年くらいしか経っていませんけれど、既にカルロはその報告を受けていたみたい。
「カルロ殿下、私は小国が滅びようが知ったことではありませんの。忠告しただけだというのに斬り付けてくるような野蛮な国。私は火竜の聖女です。マリィだけでも、このような小国くらい制圧可能ですわ」
平然と私の肩に乗るマリィ。主人たる私を守った彼女はその成果を誇りに感じていることでしょう。
再び殺意を向けられるのであれば、彼女はまたも強大な火球を吐くはずです。
次の瞬間、私は絶句させられていました。
「アナスタシア嬢、どうか許してくれ! 貴殿の罪を問うつもりはない。サルバディール皇国を許して欲しい」
カルロが頭を垂れて謝罪していたのです。
スラムで物乞いをしていそうな身なりの私に向かって。彼は態度と言葉で私に願っていました。
(興ざめだわ……)
皇太子殿下が家臣たちのために頭を下げるなんてね。
いざとなればリックを引き連れて逃げるつもりだったのだけど、もうその必要はないみたいです。
何とも消化不良でしたが、私も頭を冷やせたかのよう。
だからこそ、事態の収拾を期待してカルロに言葉をかけるのでした。
「頭をお上げください、カルロ殿下……」
10
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる