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第二章 繰り返す時間軸
コンラッドとの再会
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キャサリン嬢のパーティー会場へとやって来た私たち。
何食わぬ顔でコンラッドと合流していました。
控え室へ入るや、盗聴の危険性について考える。
既にコンラッドが術式を施してくれているらしいけど、私はオリジナルの術式を開発してきました。
ここは慎重を期する意味でも私の術式も施しておく。
「コンラッド、お疲れさまでした」
まずは労う。一通りの作戦を伝えただけで、彼にはリッチモンド公爵家へと潜り込んでもらったのです。
二年に亘るミッションの集大成が今夜のパーティーとなります。
「リッチモンドは本気で暗殺を企てております。だからこそ、私が担当となりました」
まあそうでしょうね。
火竜退治をした令嬢がイセリナの侍女となったのです。
準備期間がなかった前世界線とは異なり、向こうも調査していることでしょう。
「予想通り契約を迫ってきましたのでサインを終えています。また数多の汚れ仕事をし、リッチモンドの信頼を得られております」
その辺りは間違いないと考えていました。
コンラッドは前回も指揮を執る立場だったはず。
失態をしでかしたアドルフでもなれた主任という立場。彼ならばその地位まで上り詰めるだろうと。
「アドルフという暗殺者は現れましたか?」
「リッチモンド公爵領の闇ギルドに登録した折り、毒使いがおりました。私の方が上位の毒使いですので、採用されませんでしたね」
なるほど、そういうことか。
コンラッドの世界線でアドルフが現れなかったわけ。それは単にスキル被りを避ける目的があったのでしょう。
暗殺者として力上位のコンラッドがいるのなら、アドルフが不要という理由はよく分かります。
壇上に何人も上がる必要はないのですから。
「証拠の捏造はどう?」
「問題ありません。リッチモンドが大事にしている秘蔵の特級酒を使用する毒と同じものに変えておきました。まあ私は言われずとも何らかの工作をしていたでしょうが。いざというとき、責任をなすりつけられるように」
やはり優秀だね。
まあでも余計な真似はして欲しくない。元より計画は完璧であって、それ以上は綻びを見せるだけだからね。
「来場者についてはどうです?」
やはり気になるのはセシルの動向です。
イセリナと私がパーティーに参加する話は髭が王城にて言い広めてくれたのですけど、セシルの耳にまで届いたのか知る由もありません。
「王家にはデンバー侯爵が招待状を送ったそうですけれど、来場されるのか不明です。もしかすると祝辞で済ます可能性まで考えられます」
「それは不安ね。貴方にまで知らされていないとなると、作戦の見直しが必要かもしれない」
「いえ、王家は敢えて参列の旨を伝えていない可能性がございます。何しろ余計な謀略を避ける必要がございますし。もしも来場されるのでしたら、それなりの警護が付くのは想像に容易いですね」
やはりコンラッドにして良かった。
ここまで考えられる冷静さは見習うべきところかもしれません。
「では、厳重な警備の中でセシル殿下の暗殺は可能ですか?」
もし仮にセシルがやって来た場合のこと。毒殺を計画しておりますが、コンラッドがそれを成せるのかどうか。
「その準備は万端です。先ほど申しましたように、使用する毒はリッチモンドの執務室に残しております。毒は微遅効性で死に至るまで約一時間。解毒しない限り、毒素は失われません。またシャンパンを注ぐデンバー家の執事はリッチモンドが派遣した暗殺者であり、彼がこの席に送り込んだという書面を捏造しております。その書類もリッチモンドの執務室にあるセラーへ隠しました」
「二つの証拠を同じセラーに? 怪しまれないかしら?」
「どこに隠そうが同じですよ。要は証拠が挙がれば言い逃れできないのですから」
思わずクックと悪い笑い声が漏れてしまいます。
いや、本当に有能だわ。我が父ダンツに爪の垢でも飲ませたいくらいに。
「よろしい。今宵でリッチモンド公爵家は没落。作戦開始と参りましょうか」
私たちが着替えを終えた頃、オリビアが慌てて入室してきます。
まあこの世界線でも彼女は仕事をしてくれたのです。
リッチモンドを追い詰める役目のカルロ・サルバディール殿下とデートしていたのですから。
「遅れてすみません!」
全てが私の手の平で回っている。
イセリナだった人生ではリッチモンド公爵にあと一歩届きませんでした。
カルロが仕事をしてくれたものの、暗殺者を雇った証拠は見つからなかったのです。
リッチモンド公爵家の代わりにデンバー侯爵家が取り潰しとなっただけでした。
「オリビア様、デートは楽しめまして?」
「どどど、どうしてそれを!?」
何度も見た反応に私は笑みを浮かべています。
オリビアには全てが終わったあと、皇子様と結ばれて幸せになって欲しいと思います。
「イセリナ様、参りましょうか。これより勝手に飲食しないこと。毒味は私が行います。不要な挨拶もなさらぬように。視界に映る全員が敵だとお考えください」
此度は私自身も狙われる可能性があります。
自衛はイセリナ時代に熟知しておりますが、この世界線においては自分だけでなくイセリナをも守らなければリセットされてしまう。
慎重に行動していくことこそが、イベントクリアへの一歩であることでしょう。
私たち四人はいざ決戦の場へと赴きます。
楽団の演奏に合わせて意気揚々と……。
何食わぬ顔でコンラッドと合流していました。
控え室へ入るや、盗聴の危険性について考える。
既にコンラッドが術式を施してくれているらしいけど、私はオリジナルの術式を開発してきました。
ここは慎重を期する意味でも私の術式も施しておく。
「コンラッド、お疲れさまでした」
まずは労う。一通りの作戦を伝えただけで、彼にはリッチモンド公爵家へと潜り込んでもらったのです。
二年に亘るミッションの集大成が今夜のパーティーとなります。
「リッチモンドは本気で暗殺を企てております。だからこそ、私が担当となりました」
まあそうでしょうね。
火竜退治をした令嬢がイセリナの侍女となったのです。
準備期間がなかった前世界線とは異なり、向こうも調査していることでしょう。
「予想通り契約を迫ってきましたのでサインを終えています。また数多の汚れ仕事をし、リッチモンドの信頼を得られております」
その辺りは間違いないと考えていました。
コンラッドは前回も指揮を執る立場だったはず。
失態をしでかしたアドルフでもなれた主任という立場。彼ならばその地位まで上り詰めるだろうと。
「アドルフという暗殺者は現れましたか?」
「リッチモンド公爵領の闇ギルドに登録した折り、毒使いがおりました。私の方が上位の毒使いですので、採用されませんでしたね」
なるほど、そういうことか。
コンラッドの世界線でアドルフが現れなかったわけ。それは単にスキル被りを避ける目的があったのでしょう。
暗殺者として力上位のコンラッドがいるのなら、アドルフが不要という理由はよく分かります。
壇上に何人も上がる必要はないのですから。
「証拠の捏造はどう?」
「問題ありません。リッチモンドが大事にしている秘蔵の特級酒を使用する毒と同じものに変えておきました。まあ私は言われずとも何らかの工作をしていたでしょうが。いざというとき、責任をなすりつけられるように」
やはり優秀だね。
まあでも余計な真似はして欲しくない。元より計画は完璧であって、それ以上は綻びを見せるだけだからね。
「来場者についてはどうです?」
やはり気になるのはセシルの動向です。
イセリナと私がパーティーに参加する話は髭が王城にて言い広めてくれたのですけど、セシルの耳にまで届いたのか知る由もありません。
「王家にはデンバー侯爵が招待状を送ったそうですけれど、来場されるのか不明です。もしかすると祝辞で済ます可能性まで考えられます」
「それは不安ね。貴方にまで知らされていないとなると、作戦の見直しが必要かもしれない」
「いえ、王家は敢えて参列の旨を伝えていない可能性がございます。何しろ余計な謀略を避ける必要がございますし。もしも来場されるのでしたら、それなりの警護が付くのは想像に容易いですね」
やはりコンラッドにして良かった。
ここまで考えられる冷静さは見習うべきところかもしれません。
「では、厳重な警備の中でセシル殿下の暗殺は可能ですか?」
もし仮にセシルがやって来た場合のこと。毒殺を計画しておりますが、コンラッドがそれを成せるのかどうか。
「その準備は万端です。先ほど申しましたように、使用する毒はリッチモンドの執務室に残しております。毒は微遅効性で死に至るまで約一時間。解毒しない限り、毒素は失われません。またシャンパンを注ぐデンバー家の執事はリッチモンドが派遣した暗殺者であり、彼がこの席に送り込んだという書面を捏造しております。その書類もリッチモンドの執務室にあるセラーへ隠しました」
「二つの証拠を同じセラーに? 怪しまれないかしら?」
「どこに隠そうが同じですよ。要は証拠が挙がれば言い逃れできないのですから」
思わずクックと悪い笑い声が漏れてしまいます。
いや、本当に有能だわ。我が父ダンツに爪の垢でも飲ませたいくらいに。
「よろしい。今宵でリッチモンド公爵家は没落。作戦開始と参りましょうか」
私たちが着替えを終えた頃、オリビアが慌てて入室してきます。
まあこの世界線でも彼女は仕事をしてくれたのです。
リッチモンドを追い詰める役目のカルロ・サルバディール殿下とデートしていたのですから。
「遅れてすみません!」
全てが私の手の平で回っている。
イセリナだった人生ではリッチモンド公爵にあと一歩届きませんでした。
カルロが仕事をしてくれたものの、暗殺者を雇った証拠は見つからなかったのです。
リッチモンド公爵家の代わりにデンバー侯爵家が取り潰しとなっただけでした。
「オリビア様、デートは楽しめまして?」
「どどど、どうしてそれを!?」
何度も見た反応に私は笑みを浮かべています。
オリビアには全てが終わったあと、皇子様と結ばれて幸せになって欲しいと思います。
「イセリナ様、参りましょうか。これより勝手に飲食しないこと。毒味は私が行います。不要な挨拶もなさらぬように。視界に映る全員が敵だとお考えください」
此度は私自身も狙われる可能性があります。
自衛はイセリナ時代に熟知しておりますが、この世界線においては自分だけでなくイセリナをも守らなければリセットされてしまう。
慎重に行動していくことこそが、イベントクリアへの一歩であることでしょう。
私たち四人はいざ決戦の場へと赴きます。
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