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第三章 存亡を懸けて

異変

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 一週間が過ぎていた。やはりギフ市にも生存者は存在せず、発見されたのは無数に空いた巨大な穴だけであった。

 それらは全て進化級オークの育成システムだと判明している。中に残った大量の腐乱死体はそう予想するのに難しくない状況。戦線に現れたネームドオークエンペラーなどはギフの大地で育成されたらしい。

 連勝を重ねた共和国軍は、いよいよ北の大地へと進軍する。ギフ市を発った一個軍団がツガル海峡へと進軍していた。

 北の大地は極寒の世界であり、人族が唯一開拓を避けた土地。海峡越えとなるのだが、大半が凍っているためにエアパレットでの進行に問題はなかった。

「以上が作戦の概要だ。ゴリョウカクは歴史上、一度も戦火に見舞われていない。攻略は容易ではないが、諸君らの活躍に期待している……」
 川瀬から作戦の説明があった。今まさに第一侵攻師団から進軍が始まろうとしている。最後の戦いにするという決意を全員が抱いていた。

 ところが、進軍の号令よりも前に轟音が届く。まだ誰も動き始めていないというのに、水平線の先に黒光りする巨大な柱が突如として現れていた。

 朝靄を裂く巨大な黒煙。誰しもが息を呑んだ。天をも貫くほど黒い光が立ち上ったかと思えば、視界の先は瞬く間に爆発を起こしたような粉塵が巻き起こっていた。

 司令官である川瀬も度肝を抜かれていた。瞳に映るものは指示した攻撃内容にはなく、加えて明確にゴリョウカクの方向である。

「何が……起こった?」
 罠であるはずがなかった。もし仮に策略であるのなら、気付かれないようにするはずで、海峡を隔てた川瀬たちにも確認できるということは何らかの事故である可能性が高い。

「何だよ……あれ?」
 一八もまた驚愕していた。気合いを入れていたというのに、出鼻を挫かれたように呆然としている。

 玲奈と莉子も顔を振るだけだ。天軍による何かしらの兵器かと思うも、共和国軍には何の被害もない。誰一人として影響を受けていなかった。

「静まれ! 何が待ち構えていようとも、我らはゴリョウカクを制圧するだけだ! 全員、気を引き締めていけ! これより進軍を開始する!」
 川瀬の号令がハンディデバイスに届く。動揺する兵たちを一喝し、気持ちを切り替えるように言った。

 元より撤退などあり得ないのだ。彼らは天軍の壊滅を目的としている。何が潜んでいようとも、どのような罠があろうとも戦うだけなのだ。

 川瀬の号令により、ヒカリと優子が先陣を切る。彼女たちが進軍を始めたものだから、慌てて玲奈たちもそれに続いた。

 未だ大勢の兵たちが戸惑っていたけれど、遂に進軍が始まっている。

 兵団として最後となる戦いの火蓋が切って落とされようとしていた……。
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