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第三章 存亡を懸けて

真相

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『失われた人族の魂。輪廻へと返る霊力によって魔界門が開くと信じております』
 再び声を失う玲奈。どう思考したとすれば、そのような結論に至るのかが分からない。

「彼らは何の確証もなしに、そのようなことを考えたのか!?」
 声を荒らげずにはいられない。天主という種を存続させるために、人族を殺めているだなんて。しかも飛躍しすぎた憶測ともいえる方法に縋ってまで。

『状況が状況でしたからね。千年前、魔素が枯渇し魔界門が開くよりも前に、人族は半数が死滅していたのです。その情報を得た彼らは魔界門を開く鍵が人族の魂であると解釈しました』

「そんな馬鹿な……」
『だからこそ彼らは魔人を悪魔と呼んだのですよ。原初の悪魔を再臨させるには生け贄となる数多の魂が必要なのだと』

 天主が魔族を悪魔と呼んだのは人の魂を弄ぶような存在だと考えたからであり、当時のチキュウ世界では大勢の人族が失われていたからこそ生け贄が必要だと考えたらしい。

『ワタクシは苦心いたしました。どうにかして彼らに真実を伝えたかった。しかし、ワタクシが神託を授けられるのは加護を持つ者のみ。彼らが妙な思考を始めた頃には、既に天主は子を成せない種となっていたのです。ワタクシが加護を与えるべき救世主は誕生させられなかったのですよ。彼らに真相を伝える手段はなくなっていました……』

 明かされる秘話はあり得ない内容であった。知るべきではない話。悲しき結末を生みだしたのは些細な誤解に他ならない。

「なるほど、合点がいった。チキュウ世界を救うために、女神殿は天主の排除を選択したのだな?」
 女神としては苦渋の判断であったように思う。何しろ双方を生かすという手段は既に残されていないのだから。

『玲奈、できれば貴方から伝えて欲しい。天主は真実を知るべき。滅びを加速させた彼らは真実を知り、己が罰としなければなりません』
「言っておくが、私は天主を根絶させるつもりだぞ? 人族にとってそれが適切な対処であり、彼らはそれに値することをした」

『そこはお任せします。最後の最後でも構わない。愚かさを知ること。それは魂の浄化に必要なことであります』
 玲奈は頷いていた。マナリスはやはり中立なのかもしれない。人族が被った被害は甚大であり、天主は罰を受けるに相応しい状況を作り出したのだ。庇うことも助勢することもなく、静観するだけのよう。

『ワタクシには見えております。もう人族の滅びはなくなりました。あとはどのようにして幕を下ろすのか。玲奈には期待していますよ?』
 玲奈はマナリスの姿が薄く消えかかっているのに気付く。一方的に現れたと思えば、話したいだけを口にして勝手に去ろうとしていることを。

「ちょっと待て! 聞きたいことがある! 私はオークキングという種にこの先も出会わないのか!?」
 ずっと気になっていたこと。玲奈の願いが叶っていたのかどうか。確かに今までは一度も出会っていない。偶然なのか必然なのか玲奈は知りたく思う。

 もう既にマナリスの姿は消えていた。しかしながら、玲奈には彼女の声が届いている。

 出会ったことがありましたかね?――――――と。
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