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第三章 存亡を懸けて

作戦変更

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 一八たちは徐々に戦線を上げていた。
 一般兵の背後からゆっくりと進んでいる。一八と伸吾の任務は基本的に魔道士と支援士の露払いであった。
 外壁に取り付いたところで、突如として一八のハンディデバイスが音を立てる。

「もしもし、奥田です……」
『浅村だ! 今どこにいる?』
 通信相手は浅村ヒカリであった。彼女たちは飛竜討伐班だ。従って一八たちの居場所を確認する意味が分からない。

「座標Hイプシロン35だ。何かあったのか?」
『とりあえず、支援士だけそこに残してくれ。貴様たちは一般兵の援護射撃を続けろ。天主が現れた場合は撤退でも構わん』

 よく分からない話だ。一八と伸吾は後方侵攻班の筆頭守護者である。他にも騎士は同行していたけれど、彼らは候補生上がりであって実力は数段劣っているのだ。

「了解。俺たちはこれから外壁内に行く。支援士は准尉級に警護を任せていいんだな?」
『それでいい。岸野が酷い怪我を負ってな。治療が終われば支援士をお前たちの位置まで送り届ける。決して無茶はするなよ?』
 一八は息を呑んでいた。まさか玲奈が治療を必要とするなんて。飛竜が強大な魔物であることは分かっていたけれど、彼女なら上手く戦うと一八は考えていたのだ。

「玲奈は大丈夫なのか……?」
『命に別状はない。恐らく何カ所か骨折している。飛竜を仕留めるには岸野の攻撃が必須なのだ。いち早い治療が岸野には望まれる』
 何をやらかしたのか分からないが、玲奈の雷属性が効果を発揮したのは理解した。骨折を治療してまで戦線に戻そうとしているのだから。

「こき使うのはほどほどにしれやれよ?」
 一八は溜め息交じりに返す。共和国の命運を懸けた一戦である。だからこそ、無茶を強いられるのだが、骨折した玲奈が前線に戻されるのには不安を覚えてしまう。

『まあそれな。既に飛竜の翼は無効化している。だから、あと一撃。岸野には全霊の一太刀を繰り出してもらう。岸野はそこでお役御免となる』
 どうやら怪我をしたのは飛竜の翼を破壊した折であるようだ。目的の第一段階をクリアした討伐班はそれ故に一時撤退を選んだらしい。

「ま、しゃーねぇな。俺たちは作戦を予定通り遂行する。羽虫野郎をぶっ殺してくるぜ」
『ふはは! 貴様のことは信頼しているが、天主は魔道部隊に任せるのだぞ? 貴様たちが出しゃばる必要はない』
 言って通信は切れた。これより計画が変更となる。一八たちは支援士の防御魔法を頼りにできなくなり、それでも一般兵と魔道士部隊を守護しなければならない。

「今里、生駒!」
 一八は支援士の警護をする今里たちに声をかける。他にも複数の騎士がいたけれど、まずは自身もよく知る剣士に話をつけようと。

「どうした?」
「ああ、実は作戦が変更となった。もう直ぐ飛竜討伐班がここにやって来る。お前たちはこの場所に残って支援士の警護を続けてくれ」
 生駒は顔を顰めている。飛竜討伐班が戻ってくることは理解できたけれど、どうしてそれを指示するのかと。

「奥田はどうする? まさか魔道士部隊は作戦継続なのか?」
「悪いが、しょうがねぇよ。俺たちは一般兵の援護射撃も行っているんだ。少佐様のご命令だよ……」
 飛竜討伐班に怪我人が出たのは間違いない。けれど、順調に行軍ができていたのは全て一八と伸吾のおかげだ。だからこそ不安を覚えてしまう。

「俺たちで務まるのか?」
 生駒が憂えている未来。一八にも推し量れたけれど、今は個人の心配よりも全体を考えるべきだ。何より彼らも騎士であるのだから。

「ここならそれほど劣悪な状況にはならん。それに生駒と今里は戦える。Bクラスだったやつも配備されてんだぞ? 栄えある一班の一員だったお前たちが引っ張らずにどうすんだよ?」
 一八は生駒の背中を押すように言った。

 生駒は頷いている。Dランク級の魔物であれば戦える自信はあった。一八と伸吾を除けばこの場所で一番の腕前であると自負している。従って不安げに首を振るなんてできない。
 一般兵が国のために外壁内で戦っているのに、騎士である自身が臆してはいられないのだと。

「それでいい。あとは頼んだ……」
 言って一八は手を挙げる。それは今里と生駒の健闘を祈る意味合いと、魔道士部隊の進軍を意味していた。

 ここで部隊は二つに分けられ、一方は外壁内へと侵攻し、もう一方はその場に居残ることに。

 粛々と進む侵攻計画。少しばかりイレギュラーがあったものの、極端な作戦変更は成されることなく、ただ進捗を重ねている……。
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