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第三章 存亡を懸けて

侵攻

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 侵攻部隊は三週間かけて、元トウカイ王国ナゴヤへと進軍していた。
 ナゴヤはもう目と鼻の先だ。長期の行軍であったけれど、最後の一週間は少しずつ進み、疲れを残さぬようにしていた。

「セイレーンを取り逃がしたのは痛かったな……」
 ヒカリが一言。その呟きに頷くのは彼女の相棒である。

「恐らくもう知れ渡っているでしょうね。ですが、元々奇襲なんて無理なんですから諦めましょう」
 優子はそう返している。四個師団を編成しているのだ。秘密裏に近付くなんて不可能である。初めから正面衝突しかあり得ないのだと。

「全軍、気を引き締めてゆけ! 一般兵はオークを担当し、仮に手に負えない魔物が現れた場合は直ぐに発光弾を打ち上げろ。貴様たちが戦う必要はない」
 ヒカリがハンディデバイスにて全軍に指示を送る。いよいよ開戦となるのだ。行軍中にあらゆる想定を部下たちには伝えてあった。だからこそ、その確認だけでいいのだと。

「全軍出撃!!」
 事前の打ち合わせ通りに進軍を始めた。第一侵攻師団と第二侵攻師団は正面から。第三侵攻師団と第四侵攻師団は背後を取り囲むような陣形である。
 比較的練度が高い第一侵攻師団は本当に真正面から突き進んでいく。ヒカリを先頭にしてエアパレットで突撃を始めていた。

「魔道士撃てぇぇっ!」
 進行途中であったけれど、ヒカリは魔道士に先制攻撃を要請。すると立ち所に長距離マジックデバイスが火を噴いた。

 それは恵美里と舞子が放ったもの。二人共がエアパレットにて移動中であるが、砲身を一八と伸吾がそれぞれ持ち上げており、非力な彼女たちも単騎での起動が可能となっている。

 とにかく撃ちまくること。それがヒカリの作戦であった。当たらずとも少なからずオークが戸惑えば、それで構わないのだと。街壁に取り付きやすくするため、徹底した長距離攻撃を二人に依頼している。

「宮之阪さん、良い感じじゃないか?」
「アハハ! 魔力だけは負けないからね!」
 伸吾と舞子のコンビ。魔力だけはと舞子は話すけれど、それほど簡単ではないことを伸吾は知っている。一八に看過されて魔法について調べるほど、魔道科の努力が良く分かった。彼女たちは基本的に上級魔法をセットしており、それを操るには全ての術式を理解していなくてはならないからだ。

「一八さん、負けてはいられませんよ!」
「方向はその都度指示してください!」
 一八と恵美里も負けていない。第一侵攻師団が外壁に取り付くまで撃ち続けるだけだ。

 魔道士の二人には大量の魔力回復薬が手渡されていた。そのことからも正確性より、数を撃ち込むことを重視しているのだと分かる。
 約三十分。前方から青色の発光弾が撃ち放たれた。それは外壁に到達した合図だ。これにより他の師団だけでなく、魔道士や支援士も外壁付近へと侵攻を開始する。

「一八さん!?」
「行きましょう。ガトリング砲にしますか?」
 長距離デバイスはもう必要ない。的確に敵を仕留めるスナイパーライフルか、威力で押し切るガトリング砲を選択するかの二択である。

「流石にガトリング砲の出番ではないでしょうね……」
 言って恵美里はスナイパーライフルを取り出す。

 これにより一八の仕事はなくなった。ガトリング砲ならば、サポートが必要になる場面も考えられたけれど、スナイパーライフルは一人でも十分に扱える重量である。

 舞子もまたスナイパーライフルを装備。伸吾もまた砲身を支える役目から解放されていた。

「伸吾、ここからは完全に護衛だぞ? 一体も逃すな?」
「分かってる。ようやく君と共闘できて、何だか興奮してるよ……」
 愛剣を抜く伸吾に微笑む一八。彼も同じ気持ちであった。半年に亘りルームメイトであった伸吾と初めての任務なのだ。

 かといって目標は変わらない。飛竜討伐班からは外されたけれど、元より侵攻部隊の目的は一つである。
 頷き合ったあと、一八は伸吾へと告げた。

「天軍を全滅させっぞ――――」
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