169 / 212
第三章 存亡を懸けて
夜間訓練
しおりを挟む
マイバラ基地は夜を徹して復旧作業が行われていた。囚われていた女性たちは全員がオオサカ市の病院に運ばれており、数日前とはまるで異なる編成で再出発となっている。
夕飯が済んだ頃、川瀬の号令により一般兵が集められた。新規に配備した殆どが義勇兵であり、練度の問題が浮上していたのだ。
「これより夜間訓練を行う。二時間後に就寝。なお朝五時に起床し、また訓練を行うからそのつもりで……」
部下の指導は川瀬の得意とする分野であった。ナガハマ前線基地が幾度となく天軍の侵攻を退けていたのも、偏に川瀬が戦力の強化を図っていたからである。
一般兵の多くはただの剣士であったけれど、応募時に適性が調べられ、魔道士と治癒士も若干名含まれていた。
騎士たちも新たに騎士学校から補充されている。彼ら自身も新人であったけれど、戦闘のイロハも知らぬ一般兵の訓練に付き合うことを命じられていた。
「いやぁ、これは骨が折れるね! お使いに行った玲奈ちんたちが羨ましい!」
「金剛さん、そんなこと言わない。彼らは全員が共和国のために剣を取ってくれたんだよ?」
途中に五分の休憩があり、莉子と伸吾が雑談をしている。
あまりの酷さに音を上げそうになっているのは莉子だ。一から十まで教えていかねばならないのだから。
「でもさ、魔力も全然ないし、戦えるの?」
莉子は懐疑的であるようだ。剣を持つだけの兵士。雑魚の掃討にも時間がかかってしまいそうだと。
「金剛少尉、わたしたちは魔力が少なくとも戦えます……」
ふと背後から声が聞こえた。莉子が振り返ると、知った顔がそこにある。
声の主は一応同期生だ。かといって莉子は特に親しい間柄でもない。
「確か……西村亜衣?」
「それポニーテールのメガネっ娘だから! わたしは浅村アカリよ!」
六人しかいない同期の女子。それを間違われてしまったのだから、アカリも声を荒らげてしまう。現状は明確に莉子が上官であったというのに。
「ああ、ヒカリの妹かぁ! そいやいたね?」
まるで眼中にない感じで言われてしまいアカリは言葉を飲み込む。
アカリはかつて莉子に酷評されている。人として価値がないとまで。腐っていたような時期にとどめを刺すような言葉をもらったのだ。魔力がないことで戦えないと決めつけていた自分を目覚めさせるような台詞を。
「三席である貴方の眼中にないのは分かってる。でも、わたしはここまで来た。どのような魔物が現れたとして諦めないし、倒すまで剣を振り続ける……」
アカリは決意のほどを語る。酷評されたあの日から見返してやろうと頑張ってきた。
意図せず訪れた機会。同じ部隊で戦えるというのだから、彼女は意気込んでいることだろう。
ところが、彼女の熱意は伝わらない。莉子は少しも覚えていない感じである。
「はぇぇ……。やる気は凄いね。その調子で一般兵に色々と教えてあげて!」
ようやくアカリは莉子があの遣り取りを覚えていないのだと理解した。
自身がどれ程までに打ちのめされ、考え改めることになったのか。期間は短かったけれど、あの日から夕食後にまで自主訓練を始めたというのに。
「わたしは出来る限りのことをするって決めた。特殊任務を請け負う少尉には分からないでしょうけれど、少しずつでも近づき追い越したいと考えいています」
どうにも莉子はアカリの態度を不思議に思う。ちゃんと会話した覚えがなかったし、チームメイトになることもなかったのだ。
しかし、アカリを宥める男性を見るや、ようやくと記憶を掘り起こせている。
「ああ! ロックウルフなんかに手こずってた候補生だ!」
思い出したまでは良かったが、傷口に塩を塗り込むような話。アカリが顔を真っ赤にしたのは語るまでもないことだ。
「ちょっと! あんたね!?」
「金剛少尉、すみません! よく言って聞かせますので!」
二人の間に入ったのは飯塚という騎士である。四班と五班を行き来していた彼は候補生時代を殆どアカリと過ごしている。だからこそ問題を起こしそうな場面は直ぐに察知できた。
「君もロックウルフに苦戦してた子だよね?」
三人の会話に伸吾は割り込めずにいる。同じマイバラ基地の仲間に違いないのだが、繰り上げで騎士となった者たちとは明確な差があった。かといって、擁護しようにも三人の関係がいまいち掴めない。
「俺たちは最後四班でした。少尉たちのような実績はありませんが、それでも魔物を退治して評価を得たのです。アカリの無礼はお許しください。俺たちも共和国のために戦いたいだけなのですから……」
莉子は別に怒ってはいなかった。上官ではあったが、同期であるし、そもそも悪く言ったのは自分の方である。
「あたしは別に怒ってないよ? 一緒に頑張ろう!」
「そういっていただけると助かります。一般兵への指導はお任せください」
思わぬ話だが、莉子とて上官から指導を命じられているのだ。准尉級が任せろと話したところで、彼女の任務がなくなるわけではない。
「しかし、たった四人で奇襲をかけただなんて驚きました。俺たちには不可能です」
飯塚が続けた。昨日、聞いた話である。配備説明を受ける場において、莉子たちがマイバラ基地に奇襲をかけたということは……。
「ああいや、あたしの功績じゃないよ。あの作戦はヒカリとカズやん君がいなきゃ成りたたない。進化種に対して決定打を持つあの二人しか……」
言って莉子は溜め息を吐いた。聞けばヒカリの雪花斬はネームドオークキングの腕を斬り落としたという。またそれは自身にできないことである。どう足掻いてもネームドモンスターの腕を斬り落とすなんてできそうになかった。
「いや、金剛少尉はアタッカーではないでしょう? 適材適所かと思いますが……」
「それがやなの。あたしも進化種を討伐したい。どうして鍛冶屋に生まれちゃったのかと考えてしまう……」
莉子の血統スキル鍛冶王はその名の通りに鍛造するための天恵技だ。風属性を纏ったハンマーが炉の火力を上げるというものである。
「そんなの贅沢な悩みだわ!」
ここでアカリが声を荒らげた。不毛な会話に口を挟まずにいられなかったらしい。
「どゆこと? あたしの鍛冶スキルが羨ましいってか?」
「そうじゃない! 剣士の家系だってろくなものじゃないってこと!」
アカリの姉は兵団随一といわれる剣士だ。また姉は一族でも有数の能力に恵まれている。ヒカリとの比較が後ろ向きな思考へと彼女を誘っているに違いない。
「妹ちゃん、あんたこそ贅沢だわ……」
莉子は首を振る。面倒な遣り取りをする気はさらさらなかったというのに、言葉を投げずにいられなかった。
「浅村家なら雪花斬を習得できるはず。あんたは進化種に対して武器を持ってるのに、嘆くばかりでホント苛立ってしかたないよ……」
「わたしだって雪花斬を習得できるならしたいわ! でも、わたしの魔力は250しかないのよ!?」
姉と比較すれば四分の一以下しかない。アカリの魔力は騎士の最低限と言われる500にすら届いていない。平均値である600の半分以下であった。
「だったら何? 雪花斬は歴代のスキルでも最高効率だと言われてる。習得できないわけじゃないでしょ?」
「習得したって使えないって言ってるの! 一度使えば確実に昏倒してしまうのよ!?」
どうしても衝突してしまう二人。飯塚はオロオロとするだけで、彼女たちを宥める言葉を探し続けている。
「ホント、妹ちゃんは馬鹿だね?」
「貴方に言われたくないわ!」
怒鳴るようなアカリに莉子はどうしてか笑みを浮かべた。遣り取りの全てが意味を持っていないと言いたげである。
「あたしなら昏倒しても使う。現にあたしのパートナーは使ったあとなんて考えてないもの。周囲を何百というオークに囲まれた状況でも、平然と昏倒しちゃうのよ? なぁんも考えてない……」
莉子のパートナーこそが馬鹿なのではないかと思う。アカリは無謀すぎる彼女のパートナーが信じられない。
しかし、アカリは突きつけられてしまう。自身の考えが騎士として間違っているのだと。
「あんたは保身に走ってるだけ――――」
覚悟がないと言われているようなものであった。逃げ道すらない状況で魔力切れを起こすなんて、騎士学校で習った内容に反していたというのに。
「だいたい魔力切れがそんなに悪いとは思えない。班行動なら目覚めさせられる。仲間を救う術があるのなら、あたしは昏倒してでも仲間を救いたい」
経験談は痛く心に染みる。授業ではタブーであった魔力切れなのだが、それは時と場合による。昏倒しないに越したことはないけれど、任務の遂行に必要ならば実行すべきであった。
「だから羨ましい。血統スキルが剣技だなんて。戦場で守られることが、どれほど惨めかを妹ちゃんは分かってない。あたしだって仲間を守りたいのよ……」
莉子が理由を語ると休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴った。と同時に莉子と伸吾は持ち場へと戻っていく。
アカリは何の反論もできなかった。しかし、理解はできていた。
自分がまだ本当の戦場を経験していないのだと……。
夕飯が済んだ頃、川瀬の号令により一般兵が集められた。新規に配備した殆どが義勇兵であり、練度の問題が浮上していたのだ。
「これより夜間訓練を行う。二時間後に就寝。なお朝五時に起床し、また訓練を行うからそのつもりで……」
部下の指導は川瀬の得意とする分野であった。ナガハマ前線基地が幾度となく天軍の侵攻を退けていたのも、偏に川瀬が戦力の強化を図っていたからである。
一般兵の多くはただの剣士であったけれど、応募時に適性が調べられ、魔道士と治癒士も若干名含まれていた。
騎士たちも新たに騎士学校から補充されている。彼ら自身も新人であったけれど、戦闘のイロハも知らぬ一般兵の訓練に付き合うことを命じられていた。
「いやぁ、これは骨が折れるね! お使いに行った玲奈ちんたちが羨ましい!」
「金剛さん、そんなこと言わない。彼らは全員が共和国のために剣を取ってくれたんだよ?」
途中に五分の休憩があり、莉子と伸吾が雑談をしている。
あまりの酷さに音を上げそうになっているのは莉子だ。一から十まで教えていかねばならないのだから。
「でもさ、魔力も全然ないし、戦えるの?」
莉子は懐疑的であるようだ。剣を持つだけの兵士。雑魚の掃討にも時間がかかってしまいそうだと。
「金剛少尉、わたしたちは魔力が少なくとも戦えます……」
ふと背後から声が聞こえた。莉子が振り返ると、知った顔がそこにある。
声の主は一応同期生だ。かといって莉子は特に親しい間柄でもない。
「確か……西村亜衣?」
「それポニーテールのメガネっ娘だから! わたしは浅村アカリよ!」
六人しかいない同期の女子。それを間違われてしまったのだから、アカリも声を荒らげてしまう。現状は明確に莉子が上官であったというのに。
「ああ、ヒカリの妹かぁ! そいやいたね?」
まるで眼中にない感じで言われてしまいアカリは言葉を飲み込む。
アカリはかつて莉子に酷評されている。人として価値がないとまで。腐っていたような時期にとどめを刺すような言葉をもらったのだ。魔力がないことで戦えないと決めつけていた自分を目覚めさせるような台詞を。
「三席である貴方の眼中にないのは分かってる。でも、わたしはここまで来た。どのような魔物が現れたとして諦めないし、倒すまで剣を振り続ける……」
アカリは決意のほどを語る。酷評されたあの日から見返してやろうと頑張ってきた。
意図せず訪れた機会。同じ部隊で戦えるというのだから、彼女は意気込んでいることだろう。
ところが、彼女の熱意は伝わらない。莉子は少しも覚えていない感じである。
「はぇぇ……。やる気は凄いね。その調子で一般兵に色々と教えてあげて!」
ようやくアカリは莉子があの遣り取りを覚えていないのだと理解した。
自身がどれ程までに打ちのめされ、考え改めることになったのか。期間は短かったけれど、あの日から夕食後にまで自主訓練を始めたというのに。
「わたしは出来る限りのことをするって決めた。特殊任務を請け負う少尉には分からないでしょうけれど、少しずつでも近づき追い越したいと考えいています」
どうにも莉子はアカリの態度を不思議に思う。ちゃんと会話した覚えがなかったし、チームメイトになることもなかったのだ。
しかし、アカリを宥める男性を見るや、ようやくと記憶を掘り起こせている。
「ああ! ロックウルフなんかに手こずってた候補生だ!」
思い出したまでは良かったが、傷口に塩を塗り込むような話。アカリが顔を真っ赤にしたのは語るまでもないことだ。
「ちょっと! あんたね!?」
「金剛少尉、すみません! よく言って聞かせますので!」
二人の間に入ったのは飯塚という騎士である。四班と五班を行き来していた彼は候補生時代を殆どアカリと過ごしている。だからこそ問題を起こしそうな場面は直ぐに察知できた。
「君もロックウルフに苦戦してた子だよね?」
三人の会話に伸吾は割り込めずにいる。同じマイバラ基地の仲間に違いないのだが、繰り上げで騎士となった者たちとは明確な差があった。かといって、擁護しようにも三人の関係がいまいち掴めない。
「俺たちは最後四班でした。少尉たちのような実績はありませんが、それでも魔物を退治して評価を得たのです。アカリの無礼はお許しください。俺たちも共和国のために戦いたいだけなのですから……」
莉子は別に怒ってはいなかった。上官ではあったが、同期であるし、そもそも悪く言ったのは自分の方である。
「あたしは別に怒ってないよ? 一緒に頑張ろう!」
「そういっていただけると助かります。一般兵への指導はお任せください」
思わぬ話だが、莉子とて上官から指導を命じられているのだ。准尉級が任せろと話したところで、彼女の任務がなくなるわけではない。
「しかし、たった四人で奇襲をかけただなんて驚きました。俺たちには不可能です」
飯塚が続けた。昨日、聞いた話である。配備説明を受ける場において、莉子たちがマイバラ基地に奇襲をかけたということは……。
「ああいや、あたしの功績じゃないよ。あの作戦はヒカリとカズやん君がいなきゃ成りたたない。進化種に対して決定打を持つあの二人しか……」
言って莉子は溜め息を吐いた。聞けばヒカリの雪花斬はネームドオークキングの腕を斬り落としたという。またそれは自身にできないことである。どう足掻いてもネームドモンスターの腕を斬り落とすなんてできそうになかった。
「いや、金剛少尉はアタッカーではないでしょう? 適材適所かと思いますが……」
「それがやなの。あたしも進化種を討伐したい。どうして鍛冶屋に生まれちゃったのかと考えてしまう……」
莉子の血統スキル鍛冶王はその名の通りに鍛造するための天恵技だ。風属性を纏ったハンマーが炉の火力を上げるというものである。
「そんなの贅沢な悩みだわ!」
ここでアカリが声を荒らげた。不毛な会話に口を挟まずにいられなかったらしい。
「どゆこと? あたしの鍛冶スキルが羨ましいってか?」
「そうじゃない! 剣士の家系だってろくなものじゃないってこと!」
アカリの姉は兵団随一といわれる剣士だ。また姉は一族でも有数の能力に恵まれている。ヒカリとの比較が後ろ向きな思考へと彼女を誘っているに違いない。
「妹ちゃん、あんたこそ贅沢だわ……」
莉子は首を振る。面倒な遣り取りをする気はさらさらなかったというのに、言葉を投げずにいられなかった。
「浅村家なら雪花斬を習得できるはず。あんたは進化種に対して武器を持ってるのに、嘆くばかりでホント苛立ってしかたないよ……」
「わたしだって雪花斬を習得できるならしたいわ! でも、わたしの魔力は250しかないのよ!?」
姉と比較すれば四分の一以下しかない。アカリの魔力は騎士の最低限と言われる500にすら届いていない。平均値である600の半分以下であった。
「だったら何? 雪花斬は歴代のスキルでも最高効率だと言われてる。習得できないわけじゃないでしょ?」
「習得したって使えないって言ってるの! 一度使えば確実に昏倒してしまうのよ!?」
どうしても衝突してしまう二人。飯塚はオロオロとするだけで、彼女たちを宥める言葉を探し続けている。
「ホント、妹ちゃんは馬鹿だね?」
「貴方に言われたくないわ!」
怒鳴るようなアカリに莉子はどうしてか笑みを浮かべた。遣り取りの全てが意味を持っていないと言いたげである。
「あたしなら昏倒しても使う。現にあたしのパートナーは使ったあとなんて考えてないもの。周囲を何百というオークに囲まれた状況でも、平然と昏倒しちゃうのよ? なぁんも考えてない……」
莉子のパートナーこそが馬鹿なのではないかと思う。アカリは無謀すぎる彼女のパートナーが信じられない。
しかし、アカリは突きつけられてしまう。自身の考えが騎士として間違っているのだと。
「あんたは保身に走ってるだけ――――」
覚悟がないと言われているようなものであった。逃げ道すらない状況で魔力切れを起こすなんて、騎士学校で習った内容に反していたというのに。
「だいたい魔力切れがそんなに悪いとは思えない。班行動なら目覚めさせられる。仲間を救う術があるのなら、あたしは昏倒してでも仲間を救いたい」
経験談は痛く心に染みる。授業ではタブーであった魔力切れなのだが、それは時と場合による。昏倒しないに越したことはないけれど、任務の遂行に必要ならば実行すべきであった。
「だから羨ましい。血統スキルが剣技だなんて。戦場で守られることが、どれほど惨めかを妹ちゃんは分かってない。あたしだって仲間を守りたいのよ……」
莉子が理由を語ると休憩時間の終わりを告げる鐘が鳴った。と同時に莉子と伸吾は持ち場へと戻っていく。
アカリは何の反論もできなかった。しかし、理解はできていた。
自分がまだ本当の戦場を経験していないのだと……。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯
赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。
濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。
そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――?
※恋愛要素は中盤以降になります。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる