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第三章 存亡を懸けて

現れる強者

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 ヒカリと優子は戸惑っていた。考えていたよりもオークキングが多く、また雑兵であるオークも想像以上の数であったからだ。

「優子、あれはヤバいぞ。流石に一刀では仕留められん……」
 乱戦の中に現れた新たな影。明らかに雰囲気が異なっていた。ここまで三体のオークキングを斬ったヒカリであるが、迫り来る巨大な影がそれらと同じだとは思わない。

「少佐、フォローします。念のため発光弾を……」
「止めておけ。この状況だ。簡単に移動できるはずもない。混乱させるだけだ……」
「いえ、情報を共有する必要があるはずです!」
 言って優子は赤色の発光弾を上空へと撃ち放った。ヒカリが話すように混乱させる可能性は否定できなかったけれど、一八であればそのようなことにはならないはずと。

「まったく、しょうがないやつだな。優子は……」
「まだ死ぬつもりはありませんので。恋人の一人もいないまま死ねません!」
 剣を振りながらも強気に返す優子。救援が来るかどうかはともかくとして、意志をありのまま伝えている。

「ふはは! 朝食すら作れぬ女に誰がなびく?」
「ネームドを前に落ち着いている豪胆な女性にいわれたくありません! 殿方もドン引きですよ!」
 ヒカリは優子の余裕を感じ取っていた。さりとて開き直りだとも思っている。周囲はオークに埋め尽くされているのだ。この状況で絶望しないのなら、逆に覚悟を決められたのだと。

「ならば結構。アレを斬って、我らの任務は完遂だ」
「はい! 絶対に生還しましょう!」
 ハンディデバイスを確認すると、一八と莉子はまだ健在であった。だからこそ優子は意気込んでいる。新人よりも先に失われてはなるものかと。

 程なくオークたちが距離を取った。やはりこれまでのオークキングは作り出された偽物。現れた魔物に畏怖している姿はそう考えるのに十分であった。

「メインディッシュが大層なご登場だな?」
 ヒカリが声をかける。まず間違いなく新手のオークキングは言葉を操るだろうと。身体にある無数の傷跡は強者の証し。秘術などではなく純粋に勝利を積み重ねた王者なのだと思う。

「ふははは! 威勢がいい女だ。安心して良いぞ? 殺しはしない。我の女にしてやろう」
 予想通りに返答をするオークキング。魔力回復薬を飲みつつも、ヒカリは時間稼ぎのために話を続けた。

「これまでのオークキングは非常に歯ごたえのないものだった。貴様は違うのか?」
「ああ、見ていたぞ。あの木偶の坊たちは天主様の秘術によって生み出された。弱くて当たり前だ。失敗作なのだからな……」
「ほう、ならば貴様は成功した作り物なのか?」
 伝えられる話は予想通りである。進化を促進する秘術など聞いたこともないが、正規の手順ではない進化は体躯くらいしか真似られなかったのだろう。

「我はオーバーロード。数多のオークを食い殺して、ここまで登り詰めた。地獄を生き抜いた我はいつしか知恵を得て、果てには名を手に入れている……」
 強者の余裕なのか、オークキングは饒舌に語る。自身が辿ってきた道程。地獄と称した内容について。

「草一本生えぬ大穴へと放り込まれたのは生まれて間もないときだった。弱者であるお前たちには決して生き残れるはずもない。我らは同胞を食って生き残る道しか与えられなかったのだ。ひたすら殺し合い、数が少なくなれば再びガキが放り込まれてくる。全てを食い尽くし、蹂躙する日々。遂には進化をし、殺戮の果てに名を得た我は空に輝きを見た。薄暗い穴の底からでもはっきりと視認できる光を……」
 ヒカリは静かに聞いていた。既に優子の息も整っていたけれど、語られるのは恐らく洗脳術式に違いない。今後の対策にも役立つかもしれないと。

「それこそが救いの光。我は天主様により地獄から救われた……」
 元々が天主による実験であったはず。しかしながら、オークキングは救われたと話す。どうにも納得がいかないヒカリであったけれど、洗脳とは極限に追い込むことにあるのだとも思う。

「よく喋る豚だな? オーバーロード、私が本当の地獄から救い出してやろう……」
 オーバーロードもまた人為的に生み出された魔物であった。ただし、気が遠くなるような実験であったはず。トウカイ王国が滅びる以前から計画されたものかもしれない。

「女、名を聞こうか? 我を前にして軽口を叩けるなど、並の強者ではない。褒美として手足をもいだあと、お前の名を呼びながら犯してやろう」
 オーバーロードの話に、どうしてか笑みを浮かべるヒカリ。何だか先ほどの話が脳裏に蘇って仕方がない。

「残念だが、それは叶わない。何しろ私は……」
 剣を握る手に力を入れる。雑魚のオークが遠巻きに見ているだけなら、十分勝機があるはずと。
 ヒカリは大声を張った。啖呵に対して啖呵を返すように……。

「殿方をドン引きさせる豪胆な女なのだからな!――――」
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