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第三章 存亡を懸けて

慣れたコンビ

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 玲奈たち強襲部隊もマイバラ基地を目指して行軍を始めていた。川瀬を先頭にして騎士たちがそれに続く。一般兵たちも隊列を組んでエアパレットにて目的地を目指す。

「岸野さんは川瀬少将と知り合いだったんだね?」
 先ほどの会話を見ていた伸吾が聞く。意外な話ではあったけれど、首席が奇襲班に含まれていないのはそのせいかと思う。

「川瀬少将はうちの道場生だったからな。私も幼い頃に稽古をつけてもらったのだ」
「じゃあ、奥田君も知り合いだったのかな?」
「いやいや、一八は隣人だが、家は柔術道場だからな。うちの道場に姿を見せるなんてことはない」
 幼馴染みなのは理解している。だから、もっと親密な交流があったのかと予想するも、武道の種類が異なった二人はあまり行き来することがなかったのかもしれない。

「僕も剣術指南してもらいたいな……」
「貴様は直剣だろうが? 扱いはまるで違うぞ?」
「まあそうなんだけど、強者との稽古は勉強になるだろう?」
 まあ確かにと玲奈。流派の違いは戸惑いがあると思うも、発見だって多くあるだろう。剣士として成長していく邪魔にはならないはずだ。

「まあ、生き残ったならな……」
 問題はそれに尽きる。今からオークの大軍勢に三千人で攻撃を仕掛けるのだ。この先の未来を望んだとして、そこで潰えてしまう可能性は高い。

「その通りだね。それで僕はこんな今に違和感を覚えている。以前なら僕は隊列の後ろにいたんだ。どうして先頭にいるのかと考えてしまうよ」
「それくらいなら問題ない。伸吾よ、出し惜しみはするなよ?」
 玲奈は釘を刺すようにいった。騎士学校での任務ではないのだと。いつも飄々とした伸吾が最初から全力を出すように。

「緊張しているけど、死ぬつもりはないよ……」
「それなら構わん。いつものように私が向かって右側だ。貴様は左を頼む。討ち漏らしは無視しろとのことだ。司令塔を失ったオーク共は逃げ惑うだけだからな……」
 実をいうと玲奈も緊張していた。奇襲班に比べれば圧倒的に楽であったけれど、拡がる一面の闇は不安を覚えさせている。

「岸野さんは奇襲が成功すると思う?」
 ふと疑問が返されていた。それは作戦の根幹について。そもそも奇襲班がオークキングを殲滅しないことには強襲部隊は多勢に無勢となるだけだ。

「浅村少佐と一八なら、とは考えている……」
 確信はない。だが、人選は正しいように思う。オークキングを相手にして一騎討ちを仕掛けられる人員は二人しかいないのだと。

「まあそうだね。僕ではとても無理だ。オークが群れる中にいるオークキングだけを狙うなんて。もっとも単体でさえ、まともに相手はできそうにない」
「そう卑下するな。私たちの任務はオークを混乱させることだ。それに恐らく奇襲班だけに限れば、作戦は成功するだろう」
 玲奈は朧気な未来を予測している。被害の規模はともかく、現状が運命的な事象に導かれていると考えていた。

「へぇ、根拠でもあるの?」
 興味を持ったのか伸吾が問いを返す。しかし、玲奈は首を振るだけ。彼に返す理由を彼女は持っていないのだ。

 なぜなら玲奈はマナリスの加護について考えていたから。前世最後に願ったこと。オークキングに出会わないという願いが叶うと思っている。

 現状の配置も全てマナリスの加護が影響したとしか考えられない。首席であった自分が奇襲班から外れたこと。またこの先の任務においてマイバラ基地のオークキングは全て討ち取られているだろうと。

「まあ勘だ……」
 そう答えるしかない。たった二人で複数のオークキングを討伐するなんて常識的ではないのだが、天界で願ってしまった玲奈にはそうなる未来が思い描けた。

「奇襲班に限るって、そこが難しいんじゃない?」
「しつこいやつだな? 勘と言ったら勘だ。さりとて、それは任務が成功するだけだ。彼女たちが無事に帰還できるかどうかは分からない……」
 予想される結末。もしも女神マナリスが願いを叶えていたとすれば、オークキングの討伐だけは成されるだろう。何しろ玲奈は一時間後にマイバラ基地へと侵攻するのだ。現状の配置がマナリスの加護によるものであれば、きっとオークキングだけは討伐されているはずだ。

「ふーん、何だか確信がありそうだね? かといって僕も奇襲班が失敗するとは考えてないよ。失敗するとすれば僕たちだ……」
 ヒカリには全幅の信頼を寄せている。だからこそ、伸吾は任務失敗となるのなら、強襲部隊がヘマをすると考えていた。彼女たちよりも、自分たちがやらかすのではないかと。

「そうならぬように気を引き締めろ。私たちは戦うだけ。共和国ないし人族のために」
 玲奈は話を締めた。始まりもしていない状況で未来について語り合っても無駄なことであると。

 この先を疑わない川瀬のように、目の前の敵を斬っていくだけなのだ……。
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