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第二章 騎士となるために

混成試験を終えて

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 緊急的に全ての試験は中止となっていた。だがしかし、それはロッコウ山系にヒュドラが現れたせいではない。守護兵団本部の指示によるものだった。

 いち早く西大寺の元へと戻った十八人。Aクラスにおける他のエリアは何の問題もなかったようだ。

 猛毒に冒されたという舞子を連れて一八たちが戻ると、自然と拍手が巻き起こっている。
 それは西大寺も同じだったようで、拍手をしつつ彼らを迎えていた。

「よく戻った。正直に無傷で帰ってくるとは想像していなかった。本当に良くやってくれた!」
 西大寺がそういうと、本郷真菜が手を挙げた。完全なる祝勝ムードであったものの、真菜は笑みなく語り出す。

「教官、全ては鷹山リーダーの判断です。私は全員が助かる未来を想定していませんでした。もしも、彼がリーダーではなかったのなら、誰かが失われていたか、或いは全員がヒュドラに殺されていたでしょう……」
 それはひとえにリーダーのみが賞賛されるべきという内容だった。彼以外の全員が舞子を見捨てるというような思考を始めていたからだ。

「しかも最後は決断していました。私たちを逃がすために、リーダーは自ら囮を買って出てくれたのです。あの行動には敬服するしかありません……」
 恐らく西大寺はある程度の動きを把握していたはず。けれど、真菜は伸吾が取った行動への賛辞を述べている。

「なるほど、鷹山よくやった。窮地に陥ったとして仲間を守り切る。これは生半可なことではない。また最後の決断も的確だった。誰しもが自分自身を大切に考えてしまう。他人の命と自身の命は決して平等ではないのだ。如何なる場合においても本音は明確な答えがでていただろう。だというのに、貴様は自分自身を捨ててまで仲間を守ろうとした。賞賛されて然るべき行動だ。最初の報告で欠落した内容があったにせよ、私はお前を褒め称えよう。貴様が失われずに戻って来てくれたことは守護兵団にとって何よりも有益なことであった……」
 手放しで褒める西大寺は普段の演習時とは異なっていた。それだけ彼が今回の結果を評価していることであり、最高の結末を迎えた事実を明らかにしている。

「一班もまたよくやったな。お前たちがいなければ、この結果は成り立たない。既に連携は兵団でもトップクラスであると評価する。またヒュドラの討伐なんてことは一班でなければ無理だった。生憎と試験は中止となってしまったが、最大限の評価を与えよう」
 あまりに褒め続ける西大寺に候補生たちは困惑している。彼がここまで少しの苦言も呈さないのは逆に不安しか覚えなかった。

「さて、これで今年度の授業は全て消化したことになる……」
 ここで妙な話になった。実技試験が終わったところなのだ。しかし、候補生たちはまだ筆記試験を残している。だからこそ全てを消化したという彼の話に疑問を持つ。

「教官殿、まだ卒業試験が始まっていないと思うのですが? それに早期配備でない者は後期もあるのでしょう?」
 玲奈が代表して聞く。西大寺が話す通りならば、前期も後期も終わったかのようである。大半の候補生が後期も受講することを考えると、不可解に思えてならない。

「いや、授業はこれで終わりだ……」
 直ぐさま西大寺が返答している。
 このあと候補生たちは知らされてしまう。悪い予感が現実になってしまったことを。

「貴様らは全員が早期配備となる――――」
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