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第二章 騎士となるために
混成試験
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合同訓練というささやかな戦術訓練を行っただけで、一八たち一班は混成試験の当日を迎えていた。
これより始まるのは実戦と大差がない演習である。前期の集大成ともいえるこの試験は正規部隊となんら変わりない。剣士だけでなく魔道士と支援士が勢揃いをし、与えられた任務を全うするだけだ。
「代表して剣術科主任の西大寺から説明させてもらう。諸君らは栄えあるAクラスの候補生だ。実力に応じてエリアを分けているが、知っての通りロッコウ山系は魔物が異様に多く生息している。それは年に一度しか大規模な駆除をしていないからだ。コウベに常駐する騎士たちがその都度対応に当たっているけれど、彼らは街への被害を防ぐ役割しかもっていない。よって、できる限り試験にて数を減らす必要がある」
まずは試験の主旨から。騎士として採用されるかどうかの見極めであったけれど、近年の意味合いはコウベ市の魔物被害を軽減することが大部分を占める。キョウト然りコウベもまた少人数での守護となっていたのだから。
「今から魔道車にて二時間かけて移動し、そこに本部を構える。何かあれば私か菜畑教官まで連絡を入れるように。支給品の魔力回復薬は班に利用権限がある。魔力切れの恐れがあるならば気にせず飲むと良い。安全第一とし、危険と判断したならば撤退しても構わん。評価は総合的に判断されるけれど、撤退理由が明確であれば減点とはならない。各々に力量を把握し、困難な魔物が現れた場合は速やかに撤退すべし」
続けられたのは意外にも撤退についてである。明らかに敵わぬ相手であれば、迷わず撤退するようにとのこと。候補生たちが無理をしないようにとの話であった。
「ルートはデバイスに指定した通り。Cランク以上が現れた場合は即座に連絡しろ。また数が多すぎる場合も迷わず連絡するように」
以上だと西大寺。やはり混成試験の意味合いは魔物駆除という側面がメインのよう。というのも、各科での広域実習試験こそが卒業の目安となっており、総合的なこの試験は配備時に困惑しないための実習であるのだから。
かといって大半が後期も学校に残ることになる。彼らは実力者から学び、次に続けられるようにしなければならない。
西大寺と菜畑の運転にてAクラスは現場へと向かう。ただし、候補生たちはトラックの荷台である。四十五人ずつが荷物のように詰め込まれていた。
一応は試験である。よって候補生たちは乗り心地の悪い荷台でも無言を貫く。それこそ正規配備された折りには頻繁にあるシチュエーションに違いない。
二時間が経過し、Aクラスの候補生たちを乗せたトラックがロッコウ山系へと到着していた。地平線の彼方にはコウベ市の街壁が見える。かつて一帯を支配していたハリマ王国のお膝元。その中心地であるコウベ市は遠目からでもその繁栄を確認できた。
トラックが停車するや、直ぐさま班行動となる。これより先はエアパレットにて進み、各々が担当エリアを探索していく。
一八たち一班は最も危険度の高いエリア。険しい山脈の山頂が最終目的地だ。
玲奈を先頭にして一列縦隊で走行する。ただし、二番目は小乃美であった。一八を最後尾に配置し、後方からの不意打ちを避ける編隊を選択している。
「玲奈さん、道中の魔物は誰が担当するのですか?」
小乃美が聞いた。持ち場以外の掃討は任務に含まれていない。山系に入らない四班と五班の担当であったからだ。
「進行方向は私が引き受ける。魔道科の二人は左右で分かれて欲しい。このみんが向かって右側。恵美里が左側だ」
「了解しました。小乃美さん、飛距離のあるシュートライフルを装備しておきましょう」
「はい! 狙撃は大得意です!」
話を聞く限り、一八の出番はなさそうである。進行方向に現れる魔物を玲奈が討ち漏らすはずもないし、左右に現れる魔物は剣士である一八の任務外だ。いち早く持ち場へと着くことこそが求められることであるのだから。
しばらくは単体での魔物が現れるだけ。よって一八の出番はなかった。約一時間もの間に亘って一八は追従しているだけである。
「目的地に到着した。各員、エアパレットを収納!」
エアパレットは左足を魔力で固定している。玲奈の指示に五人は魔力伝達を止め、エアパレットを外していた。
「ようやく出番か……」
言って一八が斜陽を抜く。あまりの長さに支援科の二人が感嘆の声を上げた。
「奥田君の刀すごいね! 玲奈ちゃんのより長くない?」
「そりゃ業物ってやつよ! ねぇ、奥田君!」
支援科の二人が声をかけると、一八は顔を赤らめている。莉子が相手では緊張などしなかったというのに、妙に大人びた感じの二人の顔はまともに見ることができなかった。
「奥田君って本当にウブだねぇ?」
「キングオブチキン!」
最終的にはからかわれている。その体躯から一八は親しくなるまで敬遠されがちなのだが、玲奈のおかげか二人は彼を恐れていない。それどころか親しげに接してくれる。
「一八、鼻の下を伸ばすな! それに早久良と静華も大人しくしろ! 探索を始めるぞ」
ピクニック気分の二人に釘を刺し、玲奈もまた零月を抜いた。
前衛士二人の影。一八の身体が大きかっただけでなく、異様な二つの大太刀が威圧的に映る。後衛士の二人は表現しようのない安心感を覚えていた。
二人がオークエンペラーと戦ったことを知っている。また、それだけではない。騎士学校でも二人は飛竜退治をしたメンバーなのだ。今更ながらに早久良と静華は恵まれすぎた班に組み込まれたのだと理解していた。
「来たぞ! 通常対処だ!」
玲奈が魔物を察知した。通常対処とは支援科の魔力を温存する作戦である。故に弱い魔物か単独での出現時に多く使用された。
全員が安堵したものの、次の瞬間には絶句している。想像と明確に異なったのだ。森の向こうから現れたのは二体のオーガであったのだから。
「ちょちょちょ、玲奈ちゃん! 通常対処って!?」
堪らず声を張る早久良。それはそのはずオーガはCランクに相当する魔物である。危険度Cランクが二体も現れたのだから、彼女の反応は正しいといえた。
「早久良、問題ない。直ぐに終わる……」
慌てて防御バフのロッドを取り出した早久良を玲奈は左手で制した。彼女は口にした指示通りに通常対処で戦うらしい。
「一八は右手のオーガを……」
「了解。そっちは任せていいんだな?」
「誰に言っている?」
どうにも緊張していた支援科の二人。というのも彼女たちは初めての実戦なのだ。落ち着き払った魔道科とは異なり、魔物生態学で教わった危険度に怯んでさえいる。
一八たちは小さく笑い合ったあと、各々に動き出す。それは目で追うのも困難な速度。戦闘経験に乏しい支援科の二人にはとても追い切れない。
早久良と静華はただ呆然としている。つい先ほど戦闘が始まったのは理解したけれど、現状が戦闘の終わりを意味するのかどうか分からないままだ……。
眼前では二体のオーガが真っ二つに斬り裂かれていたというのに。
「お二人とも、流石です!」
「やっぱり凄いなぁ!」
恵美里と小乃美の声かけは一定の結果にしか結びつかない。ここでようやく早久良たちは理解する。戦闘が終わったことと、考えていたよりも剣術科の二人が強者であることを。
「今のはお二人とも魔力放出なしですよね?」
「魔力を感じませんでしたが、やはり素で斬っただけなんですね!?」
手放しで喜ぶ魔道科の二人。完全に出遅れた格好の早久良と静華だが、何とか状況を把握し歓喜の輪に加わっていく。
ところが、玲奈は浮かぬ顔。彼女は楽勝であったというのに、何かを危惧しているようだ。
「全員聞いて欲しい。この先は恐らく想像よりも酷い状況だ。このような麓にオーガが複数いるなんて考えられん。頂上付近には強大な魔物が巣くっている可能性がある」
言われて気付く。それは魔物生態学で教わった内容だ。強大な魔物は時としてテリトリーから弱者を追い払う。追い立てられた弱い魔物は逃げるようにエリアを離れるしかなかった。
「玲奈ちゃん、それってオーガが山を下りてきたってこと? オーガよりも強い魔物がこの先にいるの?」
「確証はないが、可能性は高いと考えている。山地では往々にして序列が明確になるのだ。強者は高いところに。追い立てられた魔物は低い場所に。なぜなら戦闘となった場合に高所にいる方が有利だからだ。登るよりも下る方が攻撃に勢いが付く。加えて高所は見通しも良くなる。魔物は本能的に高所を目指すもの。不意打ちを食らわないためにもな」
玲奈としては可能性を述べただけだ。しかし、それらは生態学により明らかとなっている。強者が高所より下るときは狩り以外にないのだと。
「玲奈さん、ならば推測可能でしょうか? この先にいる強者が何かを……」
ここで恵美里が聞いた。一定の結論に至ったような玲奈に。彼女が行き着いたはずの結末は何だろうかと。
「昨年度の混成試験でこのエリアは撤退となっている。その理由はBランク相当のケンタウロスの群れが現れたからだと記載してあった。しかもそこは中腹にすら達していない場所。ケンタウロスの総合的危険度はAランクとされている」
玲奈が語り出す。彼女がこの先を危惧している理由。気を引き締めるに十分な原因について。
ケンタウロスは半人半獣の魔物だ。上半身は人族そのものであったけれど、下半身にあたる部分は完全に馬である。
「ケンタウロスは知能が高い。攻撃意志を見せなければ無益な戦いは避けられるだろう。また彼らは知性に劣らぬ自尊心を持っている。その彼らが中復以下に住まう理由は明らかだ。普通の山ならば頂上にいて然るべき存在であるというのに……」
考えるよりも状況は良くないと玲奈は付け加えた。また彼女は予想される魔物のあらましを口にしている。
「頂上にはSランクがいる――――」
これより始まるのは実戦と大差がない演習である。前期の集大成ともいえるこの試験は正規部隊となんら変わりない。剣士だけでなく魔道士と支援士が勢揃いをし、与えられた任務を全うするだけだ。
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まずは試験の主旨から。騎士として採用されるかどうかの見極めであったけれど、近年の意味合いはコウベ市の魔物被害を軽減することが大部分を占める。キョウト然りコウベもまた少人数での守護となっていたのだから。
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続けられたのは意外にも撤退についてである。明らかに敵わぬ相手であれば、迷わず撤退するようにとのこと。候補生たちが無理をしないようにとの話であった。
「ルートはデバイスに指定した通り。Cランク以上が現れた場合は即座に連絡しろ。また数が多すぎる場合も迷わず連絡するように」
以上だと西大寺。やはり混成試験の意味合いは魔物駆除という側面がメインのよう。というのも、各科での広域実習試験こそが卒業の目安となっており、総合的なこの試験は配備時に困惑しないための実習であるのだから。
かといって大半が後期も学校に残ることになる。彼らは実力者から学び、次に続けられるようにしなければならない。
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一応は試験である。よって候補生たちは乗り心地の悪い荷台でも無言を貫く。それこそ正規配備された折りには頻繁にあるシチュエーションに違いない。
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一八たち一班は最も危険度の高いエリア。険しい山脈の山頂が最終目的地だ。
玲奈を先頭にして一列縦隊で走行する。ただし、二番目は小乃美であった。一八を最後尾に配置し、後方からの不意打ちを避ける編隊を選択している。
「玲奈さん、道中の魔物は誰が担当するのですか?」
小乃美が聞いた。持ち場以外の掃討は任務に含まれていない。山系に入らない四班と五班の担当であったからだ。
「進行方向は私が引き受ける。魔道科の二人は左右で分かれて欲しい。このみんが向かって右側。恵美里が左側だ」
「了解しました。小乃美さん、飛距離のあるシュートライフルを装備しておきましょう」
「はい! 狙撃は大得意です!」
話を聞く限り、一八の出番はなさそうである。進行方向に現れる魔物を玲奈が討ち漏らすはずもないし、左右に現れる魔物は剣士である一八の任務外だ。いち早く持ち場へと着くことこそが求められることであるのだから。
しばらくは単体での魔物が現れるだけ。よって一八の出番はなかった。約一時間もの間に亘って一八は追従しているだけである。
「目的地に到着した。各員、エアパレットを収納!」
エアパレットは左足を魔力で固定している。玲奈の指示に五人は魔力伝達を止め、エアパレットを外していた。
「ようやく出番か……」
言って一八が斜陽を抜く。あまりの長さに支援科の二人が感嘆の声を上げた。
「奥田君の刀すごいね! 玲奈ちゃんのより長くない?」
「そりゃ業物ってやつよ! ねぇ、奥田君!」
支援科の二人が声をかけると、一八は顔を赤らめている。莉子が相手では緊張などしなかったというのに、妙に大人びた感じの二人の顔はまともに見ることができなかった。
「奥田君って本当にウブだねぇ?」
「キングオブチキン!」
最終的にはからかわれている。その体躯から一八は親しくなるまで敬遠されがちなのだが、玲奈のおかげか二人は彼を恐れていない。それどころか親しげに接してくれる。
「一八、鼻の下を伸ばすな! それに早久良と静華も大人しくしろ! 探索を始めるぞ」
ピクニック気分の二人に釘を刺し、玲奈もまた零月を抜いた。
前衛士二人の影。一八の身体が大きかっただけでなく、異様な二つの大太刀が威圧的に映る。後衛士の二人は表現しようのない安心感を覚えていた。
二人がオークエンペラーと戦ったことを知っている。また、それだけではない。騎士学校でも二人は飛竜退治をしたメンバーなのだ。今更ながらに早久良と静華は恵まれすぎた班に組み込まれたのだと理解していた。
「来たぞ! 通常対処だ!」
玲奈が魔物を察知した。通常対処とは支援科の魔力を温存する作戦である。故に弱い魔物か単独での出現時に多く使用された。
全員が安堵したものの、次の瞬間には絶句している。想像と明確に異なったのだ。森の向こうから現れたのは二体のオーガであったのだから。
「ちょちょちょ、玲奈ちゃん! 通常対処って!?」
堪らず声を張る早久良。それはそのはずオーガはCランクに相当する魔物である。危険度Cランクが二体も現れたのだから、彼女の反応は正しいといえた。
「早久良、問題ない。直ぐに終わる……」
慌てて防御バフのロッドを取り出した早久良を玲奈は左手で制した。彼女は口にした指示通りに通常対処で戦うらしい。
「一八は右手のオーガを……」
「了解。そっちは任せていいんだな?」
「誰に言っている?」
どうにも緊張していた支援科の二人。というのも彼女たちは初めての実戦なのだ。落ち着き払った魔道科とは異なり、魔物生態学で教わった危険度に怯んでさえいる。
一八たちは小さく笑い合ったあと、各々に動き出す。それは目で追うのも困難な速度。戦闘経験に乏しい支援科の二人にはとても追い切れない。
早久良と静華はただ呆然としている。つい先ほど戦闘が始まったのは理解したけれど、現状が戦闘の終わりを意味するのかどうか分からないままだ……。
眼前では二体のオーガが真っ二つに斬り裂かれていたというのに。
「お二人とも、流石です!」
「やっぱり凄いなぁ!」
恵美里と小乃美の声かけは一定の結果にしか結びつかない。ここでようやく早久良たちは理解する。戦闘が終わったことと、考えていたよりも剣術科の二人が強者であることを。
「今のはお二人とも魔力放出なしですよね?」
「魔力を感じませんでしたが、やはり素で斬っただけなんですね!?」
手放しで喜ぶ魔道科の二人。完全に出遅れた格好の早久良と静華だが、何とか状況を把握し歓喜の輪に加わっていく。
ところが、玲奈は浮かぬ顔。彼女は楽勝であったというのに、何かを危惧しているようだ。
「全員聞いて欲しい。この先は恐らく想像よりも酷い状況だ。このような麓にオーガが複数いるなんて考えられん。頂上付近には強大な魔物が巣くっている可能性がある」
言われて気付く。それは魔物生態学で教わった内容だ。強大な魔物は時としてテリトリーから弱者を追い払う。追い立てられた弱い魔物は逃げるようにエリアを離れるしかなかった。
「玲奈ちゃん、それってオーガが山を下りてきたってこと? オーガよりも強い魔物がこの先にいるの?」
「確証はないが、可能性は高いと考えている。山地では往々にして序列が明確になるのだ。強者は高いところに。追い立てられた魔物は低い場所に。なぜなら戦闘となった場合に高所にいる方が有利だからだ。登るよりも下る方が攻撃に勢いが付く。加えて高所は見通しも良くなる。魔物は本能的に高所を目指すもの。不意打ちを食らわないためにもな」
玲奈としては可能性を述べただけだ。しかし、それらは生態学により明らかとなっている。強者が高所より下るときは狩り以外にないのだと。
「玲奈さん、ならば推測可能でしょうか? この先にいる強者が何かを……」
ここで恵美里が聞いた。一定の結論に至ったような玲奈に。彼女が行き着いたはずの結末は何だろうかと。
「昨年度の混成試験でこのエリアは撤退となっている。その理由はBランク相当のケンタウロスの群れが現れたからだと記載してあった。しかもそこは中腹にすら達していない場所。ケンタウロスの総合的危険度はAランクとされている」
玲奈が語り出す。彼女がこの先を危惧している理由。気を引き締めるに十分な原因について。
ケンタウロスは半人半獣の魔物だ。上半身は人族そのものであったけれど、下半身にあたる部分は完全に馬である。
「ケンタウロスは知能が高い。攻撃意志を見せなければ無益な戦いは避けられるだろう。また彼らは知性に劣らぬ自尊心を持っている。その彼らが中復以下に住まう理由は明らかだ。普通の山ならば頂上にいて然るべき存在であるというのに……」
考えるよりも状況は良くないと玲奈は付け加えた。また彼女は予想される魔物のあらましを口にしている。
「頂上にはSランクがいる――――」
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