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第二章 騎士となるために

広域実習

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 入学から五ヶ月が経過し、本日は広域実習の試験日となっている。随時、AクラスとBクラスの入れ替えが行われていたけれど、一八たち一班は今も同じメンバーであった。

 試験は通常の実習よりも広い範囲が指定されている。従ってまだ日が昇る前からの出発であった。
 一八はあれからずっと火球の撃ちだしを練習しているが、今のところ目の前に火球が生まれるだけ。西大寺が話していたように簡単なことではないようだ。

 Aクラスの全員が集められ、西大寺が試験の概要を説明し始める。
「この試験をクリアした者は来月の混成試験へと進む。過度に戦闘を回避した者や魔力切れを起こそうものなら、即時落第となるので注意しろ。また魔力切れを出した班は全員が減点対象となるからな……」
 どうやら魔力切れは相当に重い処罰が待っているようだ。昨年度の試験で落第した莉子は唇を噛みながらも頷いている。

「早速始めよう。エリアは一班がミノウ山地西部。二班はミノウ山地東部……」
 淡々と説明されていく。一班は入学間もない頃と同じミノウ山地の担当となった。だが、以前は中腹までの探査であったけれど、今回は頂上までが範囲となっている。

 西大寺の説明が終わると、直ぐさま班行動となった。即時、移動する班もあったけれど、例によって例のごとく一班は伸吾が全員を集めている。
「もうパートナーにも慣れただろうし、今さら変更する必要もないと思う。ペア割りは先週のイコマ山と同じでいい?」
 伸吾の話に全員が頷いていた。イコマ山はミノウ山地と同じく魔物の出現率が高い場所だ。そこでさえ難なくクリアした六人は自信を深めている。

「エリアワンは奥田君と金剛さん。エリアツーは僕と岸野さん。エリアスリーは生駒君と今里君。異論はある?」
 四ヶ月に亘って組んだペアだ。属性や戦闘スタイルも最適だと全員が考えている。よって不満など誰も口にしなかった。

「それじゃあ出発しよう」
 今回のエリアは入学当初にあった広域実習とは異なり、ミノウ山地の西部である。以前は魔道科が担当していたエリアに他ならない。

 出発をして一時間が経過し、地平線の向こうに太陽が昇り始めた。東雲の空に映し出される朝焼けは、何だか少しばかり候補生たちに落ち着きを与えている。
「何かあったら通信すること。できれば事後報告は避けて欲しい」
 伸吾が言った。広大なエリアを担当するのだ。ここからは三組に別れ、各々に目的地へと飛んでいかねばならない。

 伸吾の指示を受けて、全員のエアパレットが勢いを増す。もう既に立派な魔道剣士だ。当初は怖がっていた生駒や今里も自信満々に森へと入っていく。

 伸吾と玲奈はエリアツーへと進んでいた。森に差し掛かるや魔物が現れていたけれど、群れでもない限りエアパレットは止めない。単発の弱い魔物はスルーして通り過ぎていくだけだ。
「伸吾よ、どうして私たちが山頂じゃないのだ? てっきりエリアワンだと考えていたのだが……」
 エリアワンから順に山を下りていく感じである。エリアワンの目的地が頂上であるのに対し、エリアツーは中腹までだった。以前ならば伸吾は一番危険なエリアを自ら選んだはずで、玲奈は今回もそうなることを疑っていなかったのだ。

「登頂ルートは一番厳しいからね。金剛さんが新しい剣でどれだけ戦えるのか見たかったんだ。もう魔力切れなんてことにはならないはず……」
「これは試験なのだぞ? 貴様の指示を私は信頼しているが、あとのない莉子を試すようにするな」
「確かにそうだけど、問題ないよ。奥田君が一緒なら心配無用だ……」
 玲奈は呆れた顔をして横目で伸吾を見ていた。しかしながら、同意もしている。最近の一八は異様な成長を見せていたのだ。座学で教わった全てを実戦に取り入れている。細やかな魔力調節は魔力の温存に役立ったし、斬る瞬間にだけ強い魔力を流すことも可能となっていた。

「確かに一八は初級魔法ならデバイスを介すことなく詠唱できるようになっているし、圧倒的な戦力に違いない。未だ私が首席と扱われていることが不思議なくらいに……」
 目覚ましい進歩を遂げた一八だが、Aクラスの首席はまだ玲奈であった。一八はずっと次席を守っており、上位者の順位は入学当初から変わっていない。

「それは君に落ち度がないからさ。的確適切という意味合いも強い。岸野さんは決して無茶をしないし、確実に任務を遂行する力がある。それだけならまだしも、今の君は明らかに決定力が増しているからね。戦う度に僕は君の成長を見ている。奥田君ほどではないにしても、単騎でBランクの魔物と戦える候補生は学校中を探しても二人しかいないのだから……」
 一八だけでなく伸吾は玲奈の成長も言葉にした。意味もなく彼女が首席ではないこと。地道な成長は一八と比較すれば見劣りするけれど、元の完成度が岸野玲奈に勝る者など一人として存在しない。よって現状でも首席に他ならないのだと。

「貴様に褒められると背筋が凍るようだ。ま、それは良いとして、先週貸したセラガトのボックスセットは見終えたか?」
 目的地はまだ先である。伸吾の褒め言葉がむず痒かったのか、玲奈は話題を一変させた。無理矢理に押し付けたアニメのボックスセットの鑑賞をしたかどうかと。

「本気なの? 部屋に奥田君の再生機はあるんだけど、聞いたこともないアニメだし……」
「馬鹿者! 誰もが知ってるアニメだぞ!? 魔道についてもよく考察されている。騎士ならば一見の価値ありだ!」
 苦笑いでやり過ごそうとする伸吾を直ちに察知した玲奈。眉間にしわを寄せながらも続ける。

「貴様でもこの台詞くらいは聞いたことがあるだろう? セーラー服とガトリング砲第一期における山場。主人公モモコと相方のシュンが敵に追い詰められ、頼みの綱であったモモコのガトリング砲も魔力切れが迫っており、撃ち続けることが難しくなっていたのだ。足を引っ張っていることに気付いたシュンがモモコに言った台詞……」
 どうしても鑑賞して欲しかった玲奈は作品におけるお気に入りパートを声に出して言う。その場面であれば聞いたことがあるだろうと……。

「モモコ、僕を蜂の巣にして!――――」

 予想外の台詞に伸吾は思わず吹き出してしまう。確かにガトリング砲をその身に浴びれば蜂の巣は確定であるが、流石に狂気を覚えずにはいられない。

「そんな台詞いうかなぁ?」
「楽に逝ける方法がそれしかなかったのだ! 貴様も見てみたら分かる! 絶対に面白いから一八と一緒に見ておけよ!?」
 正直なところ興味が湧いていた。どうもアニメの舞台は自分たちの状況とよく似ている。良い仲間に恵まれた伸吾は仲間のために命を落とそうとする心情を理解できたのだ。

「うん、今度の休みに見てみようかな……」
「必ずだぞ!? 感想を聞くからな!」
 聞けば既に莉子もそのアニメを見たようだ。強制的であったにせよ、彼女は最後まで付き合ったらしい。

 ようやくと試験エリアに二人は到着した。雑談をやめて集中を高めている。
 万が一にもアニメのような危機的状況に陥ってはならないのだと……。
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