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第二章 騎士となるために

天軍の動き

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 三ヶ月が経過していた。ナガハマ前線基地では臨時の新兵が配備されており、着々と戦力強化に努めている。

「川瀬少将、お時間よろしいですか?」
 名簿を眺める川瀬に声をかけたのは彼の部下である山崎大尉だ。浮かない表情の彼を見れば、吉報ではないと分かる。

「どうした?」
 ある程度は予想していたけれど、川瀬は続きを促す。情報は適切に共有しないと間違いの元であるのだと。

「斥候が戻ったのですが、タテヤマ連峰の向かい側にオークが集結しているらしいのです。それも今までの規模を遥かに超えるもの。昨年度にあったオークエンペラーの侵攻よりも、ずっと巨大な軍勢という話です」
 その報告には、はぁっと長い息を吐く。これまでも数多の侵攻を食い止めてきたけれど、規模はいずれも大規模とはいえず、退けるのは容易であった。しかし、この度は強大な軍勢となっているらしい。タテヤマ連峰の麓にあるナガハマ基地はその脅威に晒される運命にあった。

「軍勢を指揮する天主の姿も確認されております……」
「いよいよ本気の侵攻となるのだな。やはり進路は不明か?」
 何としてでも食い止めなければならない。連峰の南側に天軍の基地ができてしまえば、共和国は地の利を失う。トウカイ王国の二の舞を避けるためにも、ここで殲滅しておかねばならなかった。

「前回の軍勢と同じく道なき道を進軍するでしょう。我らに気付かれることなく連峰を越えてくるものと思われます」
 既にある程度の予測はできていた。オークエンペラーの進攻を共和国はまるで気付けなかったのだ。トウカイ王国へと続く街道は今回も使われないのだと予想される。

 報告を受けた川瀬はスッと立ち上がった。もう話すことなどないといった風に。
「どこへ行かれるのです?」
 作戦を煮詰めるのかと思いきや、席を立った川瀬に山崎が聞く。気分転換といった感じでもないだろうにと。

「キョウトに連絡を入れる。恐らく次が正念場だ。敗戦だけは許されない。人族がこのあとも隆盛を極めるのであれば……」
 まずはキョウト支部へと連絡をし、本部への確認となる。川瀬は一刻を争う事態であると考えているようだ。作戦会議などあとからでも十分だと言いたげである。

 川瀬が静かに司令室を出て行く。部下に任せることなく自ら通信するようだ。やや前屈みに歩くその背中は、まるで人族の未来を憂えているかのよう。
 意気消沈したような彼はいつもより小さく見えていた……。
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