転生勇者は連まない。

sorasoudou

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3 人助けは勇者の十八番

第8話 また巻き込まれ

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 何かをごちゃごちゃと、言い争う声がした。

 街道から外れた山道だ。山の麓の街には行かず、このまま目当ての山村へ向かうつもりでいたのだが、獣が通るだけのような道なき道で人の声を聴くとは思わなかった。


「ああ、もう、どうするんだよ! こんなことになっちまって!」

「あの若いやつ、見たのはいねえのか!」

「わかんないよ! ばらばらに逃げろって言ったから、そうしたんだよ!」


 言い争う三人の男は冒険者というやつらしい。

 冒険者は旅人や行商人と違って、盾や武器で装備を固めている。見た目だけなら隊商や乗合馬車の護衛と同じようにも思えるが、そもそもの仕事内容が違う。仲間を募り、魔物の討伐や希少な素材の採取などを目的に野山をめぐっている者たちだ。
 人里離れた自然の中に入れば魔物だけでなく、動物の上位種と位置付けられているという、魔獣と出くわすこともある。それらと戦う知識や腕前がなくてはやっていけない職業であるそうだ。

 その冒険者がうろたえていた。山中とはいえ、そんなに人里からは離れていない場所だ。魔物討伐の依頼でもあったのだろうか。仕事の途中で予期せぬ何かが起こり、仲間とはぐれたようだ。


「うあああ! あ、なんだ、人間かあ。まじでビビった……」

「脅かすなよ! 気配消して近付かないでくれ!」

「お前さんも冒険者か? いい所へ来てくれた!」


 三者三葉、やぶから出てきたこちらへ声をかけてくる。
 犬に似た獣の耳をした長剣の戦士と、細身で軽装、短剣を腰の両脇に下げた優男。銀髪を頭の上でまとめ、背は低いながらもがっちりとした体を部分鎧で包んだ、洋弓銃クロスボウのおじさん。
 三人からすれば、鞄の下に剣を下げた姿は冒険者寄りに映るようだ。

 勇者って、冒険者の上位種みたいなものなのだろうか?

 とりあえずの人違い勇者でも冒険者の端くれにいそうな者としては、困っている先輩方を放って置くわけにはいかないだろう。怪しまれないようにしたいし、どうせこの先に進むつもりだったし、巻き込まれるなら事件は小さなうちに解決しておいた方がいい。

 昨日の追いはぎの件は、自分で首を突っ込んだ挙句、騒ぎを大きくしてしまった気もするが。

 あれこれと話しながら先輩方が自然と歩み出す。急な同行者にも気取らず威張らない気さくな冒険者たちに続いて、山道を進んだ。








「え、王様が、ご病気か。心配だな、それは」


 洋弓銃を構えたままのおじさんは、ここまで仕事続きだったとかで山を下りることがなく、最近の情報を知らなかったらしい。後から出発地の集落に着いた優男がこちらとの会話で口にした祝典中止の話題が出たら、その理由の方を気にしていた。
 世間がどういうものか、そこで揉まれて生きてきたこのぐらいの歳の人にとっては、寝っぱなしの勇者よりも王様の方が頼りになっていたのだろうと思う。

 おじさんは分かれ道に来ると身を屈めて、湿った枯葉の積もる地面を見つめた。


「どうだ、何か気配を感じないか?」


 小柄なおじさんと一緒に体を低くし、辺りをうかがっていた獣耳の青年が首を振る。


「わかんないな。匂い嗅ぐのは犬に負けるし」

「気配察知とか魔術師じゃないんだから、コイツには無理だって」


 優男の言葉に獣耳がすかさず反応し、反論する。


「族長とかなら簡単にできる人もいるの! オレがダメな、ただの亜人なだけなの!」

「それ、ただの人間に言うか? 体力がバカみたいにあるくせに」


 冷たそうな言葉はかけるが、亜人の能力や仲間である二人の実力は認めているようだ。短剣使いの自称ただの人間は、信頼する仕事仲間に提案した。


「やっぱり、上に戻った方がいいかもな」


 おじさんが賛同する。


「うむ。こっちへ下らずに、慌てて尾根の向こう側へ行っちまったのかもしれん。一度戻ってみるしかない。で、お前さんは、どう思うね?」


 なんにも考えてなかった。人探しを手伝う気でいたし、人手は多い方が良さそうなので、ただうなずく。


「よし、じゃあ行くか。悪いが、お前さんも手を貸してくれ」


 三人の後ろを付いて再び歩き出す。
 冒険者たちはこうやって出くわすと、同じような内容の依頼の時などに現場で即席の仲間を募ることも多いという。だからか。藪から突然現れたのを自然と同行させてくれたのは。
 二手に分かれた山道のか細い方をたどり、山中を少し早い足取りで登りながら、彼らの事情を聞かせてもらう。

 彼らは近くの集落の依頼で、魔物の定期調査をしていたそうだ。

 山仕事をしている者も多い集落では、魔物が現れては山に入れず稼ぎにならない。少しでも安全に仕事をするために周囲の山に魔物が出ないか、冒険者に依頼して出現場所や生息範囲を調べている。

 その仕事に今回、冒険者になって間もない青年を連れて来たという。


「結構、安全ちゃ安全だし、初心者には勉強にもなる良い仕事だからなあ。新人だからこそ、短期間でもいいから同行させてくれって頼まれると断らないようにはしてたんだ」


 銀髪のお団子頭に落ちてきた葉っぱを払いつつ、おじさんは周囲を見回す。自分が同行を許可した新人がその辺りにでも倒れていないか、目を配っているのだろう。


「お前さんは、一人で仕事するくちかい?」


 ジグドと名乗った洋弓銃のおじさんが、こちらを見上げて聞く。


「いや、まあ、そんな感じです」

「お前さんは落ち着いてそうだからいいが、そうやって独りで素材集めやってたりすると事故ったり遭難することもあるからな。気い付けるんだぜ」


 冒険者は普段から仲間と行動するそうだ。人里離れた危険な場所におもむくのだから危機を乗り越えるため協力は欠かせないし、万が一の時に救援を求めたり、依頼主に報告をする者がいる。
 ジグドと他の二人、獣耳のカムルに優男のスタウは、何度か一緒に冒険をしてきた仲だった。


「もう四度目くらいになるかな」

「いや、七度目だよ。ジグド、忘れっぽくなったな」

「えー、そうだっけ? もっといっぱい一緒にいる気がするけど」

「カムルとは、それぞれ別に二人で何度も仕事したりしてるからだろ」


 人の会話を聞き、そこに混ざりながら歩くのは初めてだ。急に話しかけられると慣れなくて返事に戸惑う。二、三言返した後は気配を消して、三人の話を聞く方に徹した。


「アンタ、両利きか?」


 振り返ったスタウの突然の問いかけに面食らう。そういえば、勇者の器が右利きか左利きかなんて考えたこともなかった。

 スタウの目が、こちらの背後でぶらぶらしている神剣に向かっていることに気付き、視線を落とした。
 じゃばらの筒になっている革製の鞘の中には、真っ白で目立つ神剣が収めてあった。鞄と一緒に肩から下げているだけなので、右に左にと柄が移動する。

 スタウの短剣やカムルの剣の鞘には上と下へそれぞれ細い革の帯が付いていて、それを腰帯に通したり、太ももに結んだりして、体へ固定するようにしてある。
 彼らはどちらも右利きで、カムルは体の左側に得物を付けていた。スタウに限っては両手に短剣を握るようで、大きく重そうな方が右の腰に下げられている。両利きは彼もだろう。


「いや、まあ、そんな感じです……どっちからも抜けるようにはしてます」


 先ほどとまったく同じ返答をした己の回答力の無さに驚きつつ、間に合わせの革帯ベルトで吊った、間に合わせの鞘を手にした。
 これが本当は照明の傘ランプシェードだとか、気付かれたら、なんと言い訳すればいいんだ。


「いいことだ。利き手に何かあった時にも戦えるようにしとかなきゃな」


 ジグドの洋弓銃も左右関係なく扱えるものだと思う。どちらかがあるとしたら、視力か。左右どちらに置いた方が狙いが付けやすいかで、持つ方が決まるのかもしれない。矢をつがえるのに楽な方も配慮するのだろうか。


「しっ! そろそろだよ。と遭ったの」


 カムルの警告に武器を構えたジグドがうなずき、スタウは短剣を抜く。
 抜いたのが左だけなのはたぶん、小さい方が投てき用の短剣だからだろう。冒険者たちは、相手の間合いに入ると危ないものの出現を警戒しているようだった。







 
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