転生勇者は連まない。

sorasoudou

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1 目覚めし勇者と中の人

第3話 身代わり救世主

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 目覚めの予兆を神官長たちから報告され、王はこの日のためにと、集めていた優秀な従者たちの中から一人、自身の代わりに覚醒を見守る立会人を選んだ。
 それへ選ばれただけでもセオ・センゾーリオには栄誉なことだったが、さらに身に余る光栄な役目を授かった。
 勇者の魂御自らが、目覚めし後の世話役として指名してくれた。それに驚いた神官長たちが神殿での役職も与えねばと、主席神官長補佐官に任命した。

 役職など正直に言えば、セオにはどうでもよかった。何よりも、幼い時から夢見ていた救世主様の目覚めに立ち会えることが喜びだった。

 王国を支える貴族の父母は息子を救世主様に仕える一人にすることが使命だと信じていたし、そうして育てた我が子が、その役目を自ら望み目標としたことを心底喜んだものだ。
 二人の墓前に報告に出かけた時は誇らしかった。家族を失って孤独になった自分がどうにか一人前になれた気がして、セオは純粋に嬉しかった。
 前途は晴れ渡り、空気は澄み渡って、この先も追い風が背を押してくれるものだとセオ・センゾーリオは信じていた。まだ魔王が倒されていなくても、明るい未来は約束されたようなものだ。


 だが、覚醒の兆しがあった日から今日まで、ずっと勇者と思ってあがめてきた御方とは違う誰かを呼び出してしまった。


 何が起こったのかは、まだ分からない。
 勇者の方で何かの不都合があったのか、こちらの契約が足りなかったのか、失敗の要因はつかめない。専門家でない若造ならなおさらのこと、原因なんて思い当たらなかった。
 けれども間違えてしまったのは覆しようもない事実なのだ。召喚や覚醒の儀式で、ただの従者であるセオが何ひとつ手を下したことなどないとしても、世話役をおおせつかった以上、自身の非を詫びるしかない。

 そう決心して立ち上がり、頭を下げたまま話し始めたその声は、ひどく上ずった。


「申し訳ありません! 私の説明が悪かったのです。訳も分からずこのような所へと降臨された上、救世という役目を引き受けてくださるという心優しい勇者様が、このように非力な我々を頼りなく思われるのは当然かと思います。ですが! お独りでというのはなりません! 我らが別の方と誓った契約のことは差し置いても、貴方様は確かに、我らが勇者様であるのです。人違いでありながら役目を果たそうとおっしゃってくださった尊い方を独りで困難に立ち向かわせては、それを見守るだけの我々は無責任過ぎます。この事態を引き起こしただけでも、死をもって詫びねばならない所業なのです! 我々の危機を、抱えきれぬ重荷を、これでもかと背負わせた挙句、泥舟に乗せ、船底に穴をあけて大海に押し出すも同じことなのですから! ですから、独りでなどとおっしゃらないで下さい! わたくしを! 私めをお連れ下さいっ!」


 懇願の声が一層上ずり、セオの淡い緑の瞳が、勇者の濃い金の目をまっすぐに見つめる。だが、これでもかと熱いそのまなざしは、受け止めた人の冷えた言葉にさえぎられた。


「付いて来る気か?」


「ほんとにまじで勘弁してくれ」という小さなつぶやきは、つぶやいた当人の大きな嘆息にかき消された。
「まあ、落ち着いて座れよ」と、勇者は世話役に椅子をすすめる。セオが背筋を伸ばして浅く椅子に腰かけたのを見届けてから、勇者バイロは口を開いた。


「君、だまされてるぞ。何を吹き込まれて育ったら、こうなる?」


「は?」


 今回は疑問符を口にせずにはおれなかった。セオは従者修行で、神にも同じな御方への間抜けな返答も万死に値すると教わっていたが、今はそんなところまで考えが及ばない。
 騙されているとはなんでしょうかとセオが続けなくても、さすが勇者様はお見通しのようで、疑問に答えた。


「この国では勇者は王どころか、神に次いで偉いんだったね。それは別に良いよ。みんなの自由だし、信じるといい。けどさ、信じる対象の中身は、よく見たほうがいい」


 勇者その人は中身が違うのにも関わらず、セオに世話役をしないかと誘った見えざる者を見てきたように語った。


「まだ復活の前、声だけの存在だったそいつは自分が入る勇者の体、勇者の器だったか。それを通じて、立会人の君や神官長たち、そして王様に告げた。自分が勇者だと、復活する魔王の脅威から世界を救ってもいいと」


 そこで身代わり勇者の眉間に、しわが寄った。
 臭いものを嗅いだ顔だ。我らが勇者様がそのような顔をする日が来るとは思いもしなかったが、セオが実際目にしたその顔は命が通っていて、人形のように横たわっていた時よりも美しかった。
 思わず見惚れて返事をおこたっていたセオに構わず、勇者は続ける。


「その見返りに……そう言ったそれこそが、そいつは勇者なんかじゃないってことだとは、思わなかったのか?」







 
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