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第9章 俺にしておけ

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オラース様の側で、スヤスヤと寝ていて、気が付くと朝になっていた。

「大変!朝の身支度に遅れてしまうわ。」

私は急いでオラース様を起こし、自分の服を着た。

「一日くらい遅れても、姉さんは何も言わないのに。」

「そんな事したら、私達の関係が、他の人に漏れます。」

「漏れてもいいのに。」

服を着ながらオラース様は、笑っていた。


「さあ、行こうか。」

庭の小屋のドアを閉めて、私達は庭の中を一気に駆け抜けた。

「ふう。朝から運動か。だとしたら違う運動もしたかったな。」

「もう!オラース様のH!」

オラース様の腕を軽く叩くと、彼は喜んでいる。

きっとこうして、二人の絆が強まっていくのね。


そしてコラリー様の身支度には、間に合ったのだけど。

「ねえ、オラースと何かあったでしょ。」

コラリー様は、私に耳打ちをしてきた。

「えっ……」

「誤魔化そうとしても無駄よ。今朝、庭に2人でいるのを、見ちゃったんだから。」


まさか!

一晩中、あの小屋にいるのを、知られた?

「朝、庭を散歩するなんて、昨日の夜、何かあったとしか思えないじゃない。」

コラリー様は、面白そうに私の顔を覗き込む。

「ねえ、教えて。アンジェ。私達、友人でしょ。」

どうしよう。

また、コラリー様の友人作戦に、負けてしまいそう。


「いいわ。アンジェが答えないのなら、オラースに聞くもん。」

「えっ!」

そんな事をしたら、昨日の夜の事、しゃべるかもしれない!

「わ、分かりました。実は……」

「実は?」

「……キスしました。」


私はちらっと、コラリー様を見た。

すると、コラリー様はウルウルと眼を輝かせている。

「きゃああ!素敵!二人は恋をしているのね。」

まるで、私とオラース様が恋人同士であることを、喜んでいるようだ。

「あれ?でも、アンジェには好きな人がいるんじゃ。」

「それが……オラース様です。」

「ええ!?じゃあ、アンジェの恋は実ったのね。」

「ははは……」

改めて言われると、照れてしまう。

「はぁー。私の付き人に来たアンジェが、その家のオラースと恋をする。なんて、素敵な物語なの。」

コラリー様は、ラブストーリーにご執心なのだろうか。

うっとりしている。


「ああ、でもオラースには、気を付けてね。気まぐれだから。」

「その事なんですが。」

この前もコラリー様は、そんな事を言っていた。

「それは、オラース様の性格もあると仰っていましたよね。どんな性格なんですか。」

「うーん……」

コラリー様は、途端に困った顔をして、悩み始めた。

「アンジェに言っていいのかしら。」

「教えて下さい。オラース様の事、もっと知りたいんです。」

「そうねぇ。」

コラリー様は、私をチラッと見た。

「……何を言っても、受け止められる?」

「はい。」

私はゴクンと、息を飲んだ。

「オラースはね。侍女ばかり、手を出すのよ。」

「侍女?」

「だから、この屋敷の侍女の3人に1人は、オラースの恋人だった人よ。」

「3人に1人……」


そんなに侍女に、手を出していたの?

「で、でもそれは、オラース様の結婚相手が決まっているからでは?」

「うーん。それが、侍女の中には『オラース様と結婚の約束をした。』と言ってくる人もいて、どこまでオラースは本気だったのか、私も分からないのよ。」


ー アンジェ ずっと一緒にいようね -


私もあの言葉、結婚するとばかり思っていた。

もしかして、違うの?

その前に、私を抱いたのは、私がコラリー様の侍女だから?

あー、分からない。


「それに、アンジェにはショックかもしれないけれど、侍女の中にはオラースの子供を妊娠した人もいるのよ。」

「妊娠!?」


ー アンジェ 僕の子供を産んで 二人で育てていこう -


もしかして、あのセリフも、他の人に言っていたの?

「その人はどうなったんですか?」

「勿論、説得して堕胎させたわ。でも、オラースと付き合った人の中で、突然辞めた人もいるから、もしかしたら隠し子とかいるかも。」

「か、隠し子……」

私は頭がフラッとして、近くの椅子に座った。

「なんか、こんな弟で悪いわね。でも、侍女達も侍女達なのよ。オラースが美男子だからって、きゃあきゃあ言い寄るし。」

「そうですか。」

決して言い寄った訳ではないけれど、私もオラース様の外見に、惚れてしまった1人だ。

がっかりだ。

オラース様が、そんな人だったなんて。


「ねえ、オラースはその事に、何て言っているの?」

私は涙が溢れてきた。

「今までの人は、恋をしていなかったと。私が心から好きになった初めての人だって。」

「ふーん。」

コラリー様は、頬に両手を当て、私の話を聞いている。

「あながち、間違っていないかもよ。」

「えっ?」

私は、笑顔になっているコラリー様を見た。

「今までのオラースは、恋人がいてもどこか楽しくなさそうだったけれど、最近やけに楽しそうだもの。アンジェの影響じゃない?」

「コラリー様……」

今までのオラース様とは違う?

本当に信じていいのかしら。

「一番は、アンジェがオラースを信じる事じゃない?」

「はい!」

そうだわ。私がオラース様を信じなくて、どうするの?

私は、涙を拭いた。

そして午後から、お茶の準備がある為、コラリー様のダンスレッスンから、外れて来た。

「さあて、今日のお茶はどうしようかな。」

茶葉を持ちながら、庭を見ると、オラース様達が剣術の稽古をしている。

ふと、オラース様と目が合うと、彼は手を振ってくれた。

私も手を振り返す。

なんて、幸せなんだろう。

自分の幸せを、噛み締めているその時だった。


「何で、オラース様なんだ。」

後ろからエリクの声が聞こえた。

「エリク……」

振り返ると、エリクが私の腕を掴んだ。

「どうして、オラース様なんだと、聞いている。」

「それは……」

「どうせ、オラース様の顔なんだろう。」

私は、ムッとした。

「違います。オラース様の人柄に惹かれたんです。」

「人柄?あんな、女ったらしのどこがだ。」

エリクは、近くにある椅子を蹴った。

「エリクは、オラース様の侍従でしょう?どうしてそんな事言うの?」

「好きな女を取られて、黙っていられるか。」

ええっ!?

私は目を大きく開けて驚いた。

「エリク?」

「アンジェ。」

呼びなれない名前にも驚いたけれど、もっと驚いたのは、エリクが私を抱きしめた事だ。

「俺は、身分が低いけれど、アンジェの事、誰よりも好きだ。」

「エ、エリク!」

「俺にしておけ。アンジェ。」

エリクが私を見つめる。

「待って!」

このままじゃあ、キスされちゃう!

私は、エリクの身体を引き離した。

「やっぱり、身分が大事か?」

「そういう事じゃないの!」

私は、オラース様の事が好きなのに。

「好きなの。オラース様の事が。」

「そんなの、直ぐに忘れさせてやる。」

エリクは、私を壁に追い詰める。

「報酬なら十分貰っている。アンジェとアンジェのご両親の面倒を見るくらいできる。」

「お金の問題でもないわよ。」

「じゃあ、どうすれば俺の方に向いてくれるんだ!」

エリクは私の身体を、ぎゅっと抱きしめる。

「好きなんだ、アンジェ。誰にも渡したくない。」

「エリク……」


そんな。エリクが私の事を好きだったなんて。

だって今まで、優しくされた事なんて、一度もなかったのに。

「エリク。待って。」

そう言うとエリクは、私から体を放した。

「エリクの気持ちは分かったけれど、その気持ちには応えられない。」

「アンジェ……」

エリクの顔が、苦痛に歪む。

「ごめんなさい。どうしても私、オラース様の側にいたいの。」

するとエリクは、クスッと笑った。

「分かった。一度口説いたぐらいで、自分の物になるくらいなら、俺は好きにならないから。」

「はあ?」

「俺の物になるまで、口説き続けたいけれどな。」

そう言った時だ。

エリクは、私の頬に手を当てた。

「好きだ、アンジェリク嬢。身分の差があるのも分かっている。でも、止められないんだ。」

ドキンとした。

その瞬間、エリクの顔が近づいてくる。


キ、キスされる!?

助けて、誰か!?

心の中で叫んだ。

でも、いつまで経っても、エリクの唇が来ない。

そーっと、エリクを見てみると、彼の肩に手があった。


「エリク。そこまでだ。」

「オラース様。いらっしゃったんですか。」

するとエリクは、オラース様と顔を合わせた。

「エリク、どういうつもりだ。アンジェには近づくなと言ったよな。」

「オラース様。あなたがアンジェリク嬢のお相手というなら、話は違います。」

2人は、尚一層顔を見合わせた。

「どうせ、僕にアンジェが遊ばれると思って、止めさせようとしているんだろう。」

「そんな軽い冗談のつもりで、アンジェリク嬢のお相手に、なろうとはしていません。」

ついに二人は、距離を縮めた。

「アンジェの事、本気で好きだと言うのか。エリク。」

「少なくても、あなたよりは本気です。」


私は、二人の間に割って入った。

「もう、止めて下さい!これ以上、私のせいで二人の仲が悪くなったら、私……」

そして、オラース様が私を抱き寄せてくれた。

「ごめんね、アンジェ。不安にさせて。君は何も考えず、僕の側にいればいいんだ。」

すると今度は、エリクが私を抱き寄せた。

「アンジェリク嬢、申し訳ありません。今、あなたを救いだしますよ。」

なぜか二人の間に、バチバチと火花が見える。

どうしよう。

私は二人の間で、身体が固まってしまった。
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