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第1話
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この世に、貴族として生まれたからには、必ずなさなければならない事がある。
それは、同じ貴族との政略結婚だ。
「アリーヌ。今度の週末、王太子殿下にお会いする事が決まった。」
「はい。」
「いいか、王太子殿下に気に入られるのだぞ。」
「はい。」
するとお父様は、ため息をついた。
「アリーヌは、何を言っても”はい”しか言わないな。」
「はい、申し訳ありません。」
だって、結婚の事を私がとやかく言えるはずがないもの。
全てお父様の思い通り。
お父様が決めた相手と、一生添い遂げるしかないんだから。
私はお父様の書斎を出た後、自分の部屋に戻った。
鏡台の前に座り、髪をとかす。
他のご令嬢達は、結婚が決まったらどうしているのだろう。
私には、何故か運命の人が、王太子殿下の他にいるような気がして、ならなかった。
それが誰かは分からない。
でも、会えばきっと分かると思う。
だって、運命の人なのだから。
私は鏡を見て、その瞳の奥に映る誰かを、見つめていた。
翌日、お父様と一緒に、王太子殿下が住んでいる、お城へと向かった。
馬車の中では、お父様は無言。
私は密かに、緊張していた。
「お父様。王太子殿下は、どのような方なのでしょう。」
「それを知る為に、今日会いに行くのだろう。」
少し、お人柄を教えてくれれば、参考になるのに。
私は気づかれないように、息を漏らし、外の景色を見つめた。
さすがは公爵家筆頭のわが家。
お城までの時間は、30分以内に着く。
馬車を降りると、そこには一人の執事が立っていた。
「お初にお目にかかります。王太子付きの執事、ジュスタンと申します。」
「アリーヌです。初めまして。」
挨拶を済ませると、ジュスタンは広間に案内してくれた。
「王太子殿下は、中にいらっしゃいます。」
「ありがとう。」
扉が開いて、お父様と一緒に、広間に入った。
王座には王陛下が座り、その傍に王太子殿下が立っていた。
「本日はお招き頂き、有難うございます。陛下。」
お父様が挨拶をする。
「こちらこそ、来て貰って光栄だ。アフネル公爵。」
「はい。」
お父様は一歩左にずれると、私を一歩前に出させた。
「ここにいるのが、当家の娘でアリーヌでございます。」
私は顔を下に向けながら、挨拶をした。
「美しい娘だな。」
「ありがとうございます。」
「イヴァンもそう思うだろう。」
「はい。」
私は、ハッとした。
この声。私の心臓は、ドキドキしてきた。
「アリーヌ嬢、どうか顔を上げて下さい。」
王太子殿下の言葉に、顔を上げると、私の考えは確信に変わった。
「王太子のイヴァン・ロンだ。」
軍服を着たその人に、私は涙が零れそうになった。
生きている。あの人が生きている!
「どうされた?アリーヌ嬢。」
泣きそうになっている私に、王太子殿下が話しかけてくれた。
「いえ、何でもありません。」
本当は何でもなかった。
また会えた。その思いが強かった。
私達は時を超えて、また巡り合えたのだ。
でも、何故私達はまた巡り会えたの?
その瞬間、前世での記憶が、スーッと頭を巡った。
そう、前世でも私達は、王族と貴族で。
私はあなたの妻だった。
私達は、政略結婚だったけれども、仲良く暮らしていた。
そして、ある日私が朝起きると、あなたの部屋の前が騒がしくなっていた。
腕にざわっと、鳥肌が立つ。
そうだ。私があなたの部屋に入ると……
あなたは大量の血を流して、倒れていた。
そこで、私の視界が途切れた。
「アリーヌ!しっかりしろ!」
「アリーヌ嬢!」
お父様と王太子殿下の声がする。
『王太子が、何者かに殺された!』
『暗殺だ!』
あなたは、前世で誰かに殺されていた。
その後の私は、あなたのいない世界に興味がなくて、呆然と生きていた。
ある日、庭を散歩していると、大きな池があった。
危ないからと普段、寄り付かない場所。
でもこの時は、ふらりと近づいてしまった。
『王太子殿下……』
池に顔を映すと、私の隣に王太子殿下が移った。
『殿下!』
映った顔に手を伸ばすと、私は池に落ちた。
そしてそのまま、私は抗う事なく、命を絶った。
殿下……
生まれ変わっても、もう一度あなたの妻になりたい。
「殿下……」
手を伸ばすと、温かい手が私の手を握った。
「アリーヌ嬢。私はここにいます。」
目をゆっくりと開けると、私の傍には王太子殿下が付き添っていた。
「殿下、ずっと側に?」
「ああ。お父上の許可は得ている。」
その時、私は自分でも王太子殿下を求めている事を知った。
「ここはどこ……」
「私の部屋です。」
「えっ⁉」
王太子殿下の部屋⁉じゃあ、ここは殿下のベッド⁉
私は起き上がった。
「まだ、寝ていた方がいい。」
「でも、殿下のベッドにこれ以上、いる訳には。」
「いいんだ。」
殿下は私を横にさせると、頬に手を当ててくれた。
「気分はどうかな。」
「はい、だいぶ落ち着きました。」
「よかった。謁見で私の顔を見た途端、倒れたのを見て、凄く心配したんだよ。」
「ありがとうございます。」
すると王太子殿下は、笑顔になった。
「不思議だな。遠い昔から、君を知っているような気がするよ。」
「殿下……」
もしかして、私を覚えて下さっている?
ああ、殿下。
私達、前世では夫婦だったのですよ。
優しい目線で王太子殿下を見ると、彼は無表情だった。
慌てて私も、笑顔を崩す。
王太子殿下が笑っていないのに、笑えるはずがない。
「殿下、また会って頂けますか?」
「どうして、そんな事を聞く?」
優しい口調の王太子殿下に、思わず頬が緩む。
「私はまだ、王太子殿下の婚約者ではないので。」
「お互い、話をするのが必要だね。」
まだ王太子殿下は、私の手を握って下さっている。
言葉では足りない温もりが、私に伝わってくる。
すると王太子殿下は、安心した表情をした。
「よかった。」
「えっ?」
「君は私が嫌だから、倒れたのではないかと思った。」
「そんなっ!」
私は王太子殿下の手を、ぎゅっと握りしめた。
「私は、王太子殿下の事を、ご尊敬申し上げております。」
「アリーヌ嬢……」
「嫌いだなんて、そんな……」
私達は、あんなに愛し合っていた。
政務の時以外は、片時も離れた事がなかった。
あなたを失った時も、生きている気がしなかった。
こんなにも、思い出せるくらいに、あなたの事が好き。
私は生まれ変わっても、同じ人を愛しているのだ。
「アリーヌ。これは、私の一つの意見として、聞いてくれ。」
「はい。」
王太子殿下は、両手で私の手を握ってくれた。
「君との結婚を聞いた時、私には他に結婚すべき相手がいるのではないかと、思っていた。」
私もです。王太子殿下。
「だが、今日初めて君を見て、ああ、この人こそ私の伴侶となるべき人だと感じた。」
「はい、私もそう思います。」
私が笑顔で頷くと、王太子殿下もうんと頷いた。
「だが、一つだけ気になる事がある。」
「はい。」
王太子殿下は、暗い顔をしている。
「何故だか私は、自分の人生が短いのではないかとも、考えている。」
「えっ……」
「すると君を未亡人にしてしまうような気がして、怖いんだ。」
まさか、まさかっ!
今世でも、暗殺の手が王太子殿下に、伸びている⁉
「だから、少し君との結婚を、考える時間が欲しいんだ。」
「はい。」
何て事だ。
王太子殿下に、暗殺の手が忍び寄っているのなら、阻止しないと!
前世のように、あなたを失ったりしない。
暗殺の手が回っているのなら、私はその手から、あなたを守る!
それは、同じ貴族との政略結婚だ。
「アリーヌ。今度の週末、王太子殿下にお会いする事が決まった。」
「はい。」
「いいか、王太子殿下に気に入られるのだぞ。」
「はい。」
するとお父様は、ため息をついた。
「アリーヌは、何を言っても”はい”しか言わないな。」
「はい、申し訳ありません。」
だって、結婚の事を私がとやかく言えるはずがないもの。
全てお父様の思い通り。
お父様が決めた相手と、一生添い遂げるしかないんだから。
私はお父様の書斎を出た後、自分の部屋に戻った。
鏡台の前に座り、髪をとかす。
他のご令嬢達は、結婚が決まったらどうしているのだろう。
私には、何故か運命の人が、王太子殿下の他にいるような気がして、ならなかった。
それが誰かは分からない。
でも、会えばきっと分かると思う。
だって、運命の人なのだから。
私は鏡を見て、その瞳の奥に映る誰かを、見つめていた。
翌日、お父様と一緒に、王太子殿下が住んでいる、お城へと向かった。
馬車の中では、お父様は無言。
私は密かに、緊張していた。
「お父様。王太子殿下は、どのような方なのでしょう。」
「それを知る為に、今日会いに行くのだろう。」
少し、お人柄を教えてくれれば、参考になるのに。
私は気づかれないように、息を漏らし、外の景色を見つめた。
さすがは公爵家筆頭のわが家。
お城までの時間は、30分以内に着く。
馬車を降りると、そこには一人の執事が立っていた。
「お初にお目にかかります。王太子付きの執事、ジュスタンと申します。」
「アリーヌです。初めまして。」
挨拶を済ませると、ジュスタンは広間に案内してくれた。
「王太子殿下は、中にいらっしゃいます。」
「ありがとう。」
扉が開いて、お父様と一緒に、広間に入った。
王座には王陛下が座り、その傍に王太子殿下が立っていた。
「本日はお招き頂き、有難うございます。陛下。」
お父様が挨拶をする。
「こちらこそ、来て貰って光栄だ。アフネル公爵。」
「はい。」
お父様は一歩左にずれると、私を一歩前に出させた。
「ここにいるのが、当家の娘でアリーヌでございます。」
私は顔を下に向けながら、挨拶をした。
「美しい娘だな。」
「ありがとうございます。」
「イヴァンもそう思うだろう。」
「はい。」
私は、ハッとした。
この声。私の心臓は、ドキドキしてきた。
「アリーヌ嬢、どうか顔を上げて下さい。」
王太子殿下の言葉に、顔を上げると、私の考えは確信に変わった。
「王太子のイヴァン・ロンだ。」
軍服を着たその人に、私は涙が零れそうになった。
生きている。あの人が生きている!
「どうされた?アリーヌ嬢。」
泣きそうになっている私に、王太子殿下が話しかけてくれた。
「いえ、何でもありません。」
本当は何でもなかった。
また会えた。その思いが強かった。
私達は時を超えて、また巡り合えたのだ。
でも、何故私達はまた巡り会えたの?
その瞬間、前世での記憶が、スーッと頭を巡った。
そう、前世でも私達は、王族と貴族で。
私はあなたの妻だった。
私達は、政略結婚だったけれども、仲良く暮らしていた。
そして、ある日私が朝起きると、あなたの部屋の前が騒がしくなっていた。
腕にざわっと、鳥肌が立つ。
そうだ。私があなたの部屋に入ると……
あなたは大量の血を流して、倒れていた。
そこで、私の視界が途切れた。
「アリーヌ!しっかりしろ!」
「アリーヌ嬢!」
お父様と王太子殿下の声がする。
『王太子が、何者かに殺された!』
『暗殺だ!』
あなたは、前世で誰かに殺されていた。
その後の私は、あなたのいない世界に興味がなくて、呆然と生きていた。
ある日、庭を散歩していると、大きな池があった。
危ないからと普段、寄り付かない場所。
でもこの時は、ふらりと近づいてしまった。
『王太子殿下……』
池に顔を映すと、私の隣に王太子殿下が移った。
『殿下!』
映った顔に手を伸ばすと、私は池に落ちた。
そしてそのまま、私は抗う事なく、命を絶った。
殿下……
生まれ変わっても、もう一度あなたの妻になりたい。
「殿下……」
手を伸ばすと、温かい手が私の手を握った。
「アリーヌ嬢。私はここにいます。」
目をゆっくりと開けると、私の傍には王太子殿下が付き添っていた。
「殿下、ずっと側に?」
「ああ。お父上の許可は得ている。」
その時、私は自分でも王太子殿下を求めている事を知った。
「ここはどこ……」
「私の部屋です。」
「えっ⁉」
王太子殿下の部屋⁉じゃあ、ここは殿下のベッド⁉
私は起き上がった。
「まだ、寝ていた方がいい。」
「でも、殿下のベッドにこれ以上、いる訳には。」
「いいんだ。」
殿下は私を横にさせると、頬に手を当ててくれた。
「気分はどうかな。」
「はい、だいぶ落ち着きました。」
「よかった。謁見で私の顔を見た途端、倒れたのを見て、凄く心配したんだよ。」
「ありがとうございます。」
すると王太子殿下は、笑顔になった。
「不思議だな。遠い昔から、君を知っているような気がするよ。」
「殿下……」
もしかして、私を覚えて下さっている?
ああ、殿下。
私達、前世では夫婦だったのですよ。
優しい目線で王太子殿下を見ると、彼は無表情だった。
慌てて私も、笑顔を崩す。
王太子殿下が笑っていないのに、笑えるはずがない。
「殿下、また会って頂けますか?」
「どうして、そんな事を聞く?」
優しい口調の王太子殿下に、思わず頬が緩む。
「私はまだ、王太子殿下の婚約者ではないので。」
「お互い、話をするのが必要だね。」
まだ王太子殿下は、私の手を握って下さっている。
言葉では足りない温もりが、私に伝わってくる。
すると王太子殿下は、安心した表情をした。
「よかった。」
「えっ?」
「君は私が嫌だから、倒れたのではないかと思った。」
「そんなっ!」
私は王太子殿下の手を、ぎゅっと握りしめた。
「私は、王太子殿下の事を、ご尊敬申し上げております。」
「アリーヌ嬢……」
「嫌いだなんて、そんな……」
私達は、あんなに愛し合っていた。
政務の時以外は、片時も離れた事がなかった。
あなたを失った時も、生きている気がしなかった。
こんなにも、思い出せるくらいに、あなたの事が好き。
私は生まれ変わっても、同じ人を愛しているのだ。
「アリーヌ。これは、私の一つの意見として、聞いてくれ。」
「はい。」
王太子殿下は、両手で私の手を握ってくれた。
「君との結婚を聞いた時、私には他に結婚すべき相手がいるのではないかと、思っていた。」
私もです。王太子殿下。
「だが、今日初めて君を見て、ああ、この人こそ私の伴侶となるべき人だと感じた。」
「はい、私もそう思います。」
私が笑顔で頷くと、王太子殿下もうんと頷いた。
「だが、一つだけ気になる事がある。」
「はい。」
王太子殿下は、暗い顔をしている。
「何故だか私は、自分の人生が短いのではないかとも、考えている。」
「えっ……」
「すると君を未亡人にしてしまうような気がして、怖いんだ。」
まさか、まさかっ!
今世でも、暗殺の手が王太子殿下に、伸びている⁉
「だから、少し君との結婚を、考える時間が欲しいんだ。」
「はい。」
何て事だ。
王太子殿下に、暗殺の手が忍び寄っているのなら、阻止しないと!
前世のように、あなたを失ったりしない。
暗殺の手が回っているのなら、私はその手から、あなたを守る!
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