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第8話 週末婚の真相

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「空が……空が……途中で目を覚ますんじゃないかと思うと……離れられなくて……」

五貴さんの体は、少し震えていた。


最初は別れた奥さんが面倒を見ていたって、言ってたけれども、もう疲れてしまったって。

それから、五貴さんがずっと面倒を見ているって……

一人で背負ってたの?

ずっと、一人で……


私はそっと、五貴さんを抱きしめた。

「私に何か、手伝える事はある?」

「つむぎ……」

「五貴さんの負担が減るように、私も頑張るから。そうだ。一緒に空君の看病するって言うのは?」

「いいよ、つむぎ。」

「よくないよ。毎日、簡易ベッドで寝るなんて。交代で空君の看病すれば……」

すると五貴さんは、私の両肩を掴んだ。

「いいって言ったらいいんだ。俺は、空の看病の為に、君と結婚した訳じゃない。」

胸がチクッとなった。


「ねえ、五貴さん。どうして空君の事、私に黙ってたの?」

「それは……」

こんなに困った顔をした五貴さんを見るのは、私は初めてだ。


もしかして私の存在が、五貴さんを苦しめてる?

五貴さんは、ずっと空君のところにいたいのに。

この結婚は、間違いだった?

答えだと思って選んだ週末婚でさえ、間違いだったのかな。


でも五貴さんが出した答えは、私の考えとは違っていた。

「つむぎが、苦しむと思って。」

私の頬に、涙が流れた。

「週末婚とか訳分からないモノも受け入れて、結婚してくれたって言うのに、その上空の事まで受け入れてくれだなんて、俺……」

私は何度も何度も、首を横に振った。

「そんな事ないよ、五貴さん。」

「つむぎ……」

「私、五貴さんが苦しんでいる姿なんて、見たくない。空君の事で週末婚になるんだったら、私、それでもいい。だって……」

私は、五貴さんの目を真っすぐに見た。


「私達、夫婦なんだから。」


すると五貴さんは、私を思いっきり抱きしめてくれた。

「ありがとう、つむぎ。でも俺も、つむぎが空の事で苦しむ姿も、見たくないんだ。」

「五貴さん?」

「だからつむぎは週末に、俺を笑顔で迎えてくれれば、それでいい。」

「……うん。」


今まで、夫婦って毎日一緒にいるのが当たり前で。

別れた夫婦に子供がいる時って、親権を持ってる方が、何でも面倒を見るものだって、思ってた。

でも、私達の場合は違う。

それでもいい。

それが、私達の夫婦の形なんだ。


「俺、つむぎと結婚して、本当によかった。」

「私も。」

私達は、体をゆっくりと離すと、今度は顔を少しずつ近づけ始めた。

「ゴホンッ。」

ずっと隅で聞いていたお父様が、咳ばらいをする。

「あっ……」

いつも余裕の五貴さんが、お父様の方を向いて、顔を赤くしている。

それが面白くて、私はクスクスと笑ってしまった。


「仲がいいのは、結構。だが、周りをよく見る事だな。」

「すみません。」

謝った五貴さんは、私の顔を見ながらバツの悪そうな顔をしていた。


「まあ、そんな仲のいい二人に、一つ提案なんだが。」

「父さん?」

お父様は、私達の目の前にやってきた。

「どうだろう。私も、空の面倒を見る事に、加わると言うのは。」

「えっ!?」

私と五貴さんは、飛び上がる程驚いた。


だって、院長だよ?

そんな暇ないでしょう!


「なんだ、そのデキる訳ないだろうと言う顔は。」

私と五貴さんは、顔を合わせた。

「私だって、空のおじい様だぞ?孫の面倒くらい見させてくれたっていいじゃないか。」

「いや、それはそうだけど、状況が違いますよ、父さん。」

「同じだ、五貴。そうだ、一日置きと言うのはどうだ?それなら、つむぎさんのところにも、一日置きに帰れるだろう?」

五貴さんは、笑顔でうんと頷いた。


「ありがとう、父さん。」

家以外で、五貴さんのほっとした顔、久しぶりに見たかもしれない。

「そうと決まれば、今日から私が泊ってもいいかな。」

「急に?」

それにも五貴さんは、すごく驚いていた。

「善は急げと言うだろう。さあさあ、二人は家に帰った帰った。」

お父様に病室を追い出された私達は、しばらく廊下で茫然としていた。


「おいおい、本当なのか?」

「最初っから、お父様一人で大丈夫なのかしら。」

私達が難しい顔で、うんうん唸っていると、急に病室のドアを開いた。

「なんだ、まだいたのか。さっさと、家に帰らないか。」

「はいはい。」

五貴さんは、不貞腐れたように返事をした。


「五貴さん、なんだか子供みたい。」

「そりゃあ、あの人から見たら俺は、まだまだ子供だからね。」

そして私達がエレベーターの前まで歩いてくると、五貴さんは私に手を差し出した。

「帰ろうか、つむぎ。俺達の家に。」

「うん。」

そして私達は手を繋ぎながら、エレベーターの中に乗った。

五貴さんは、エレベーターの窓から外を眺めていた。

ぼうっとしていて、一言も口を利かない。

きっと、疲れているんだろう。

私はそっと五貴さんと、手を繋いだ。


「ああ、ごめん。」

「ううん。」

五貴さんは、それっきりまた、黙り込んでしまった。

結婚する前は、そんな沈黙も不安の対象になるけれど、今はそういう気分なんだろうって、放っておくことができる。

やっぱり、1日でも2日でも、一緒に暮らすと分かる事があるんだよね。

私は、一人でうんうんと、頷いていた。


「つむぎ、一人で何やってんの?」

そんな私を、五貴さんは白い目で見ている。

「何でもない。」

「何でもないって。何もなくて頷いているのって、変態じゃない?」

「なっ!変態!?」

こっちは、黙って立っていても、疲れているんだろうなぁって、そのままにしてあげてるのに!


そんな私を、五貴さんは笑い飛ばしている。

「あーあ、おかしいなぁ。」

余程面白かったのか、五貴さんは笑って出た涙を拭いている。

「おかしいついでに、もう一つ。俺、ここ4年間、平日自分の家に帰る事ってなかったから、今おかしな気分。」

「五貴さん……」

ここは、無表情でいた方がいいのかな。

私は、下を向いた。


「笑え、つむぎ。笑え。」

でも五貴さんは、なんだか楽し気にしているみたい。

「今日は、何をしようかな。」

ワクワクしながら、これからの事を考えている。

そうだ。

五貴さんにとっては、久しぶりの我が家。

空君の事が心配でも、私の為に楽しい振りをしてくれているんだよね。

ここで私が楽しい振りをしなかったら、何の為にお父様に代わって貰ったのか、分からないじゃない。


「久しぶりにゆっくりと、二人でテレビ観たいな。」

「いいね。」

「それで、二人でお風呂入りたい。」

「いいね、いいね。」

私達がそんな風に話している間に、エレベーターは1階まで戻った。

病院の正面玄関には、運転手の林さんが待っていてくれて、私と五貴さんは、例のリムジンで家に帰って来た。


「あー!久しぶりの我が家!」

五貴さんは、ソファにジャンプするように、体を放り投げた。

「五貴さん、夕食できてるよ。」

「あっ、そうか。平日だから林が、作ってくれているんだっけ。」

急に起き上がった五貴さんに、私は苦笑い。

「はははっ!週末は、つむぎの手料理、待ってるよ。」

五貴さんは誤魔化すように、私の額に、キスをした。

林さんがいてくれて、夕食を作ってくれているのは、とても助かるんだけど、それを楽しみにされるのは、妻として辛いよね~。


「うん。美味い。」

実際に、林さんの料理は美味しく、五貴さんの箸が次から次へと進んでいく。

「いつも、何を食べているの?夕食は。」

「うん。コンビニ弁当かな。」

会社の社長が、それよりもお金持ちの御曹司の夕食が、コンビニのお弁当だなんて。

私は急に、五貴さんが可哀そうになってきた。

「今度の週末、私が夕食を作るね。」

「うん、楽しみにしてる。」

「何がいい?」

「うーん、そうだな。週末まで考えておくよ。」

美味しそうに、林さんが作ってくれた夕食を食べる五貴さんを見て、やっと腑に落ちた私がいた。

これが、私達の生活なんだって。


それから、夕食の片づけを一緒にして、私達は一緒にテレビを観た。

五貴さんは意外にも、お笑いが好きみたいで、そういう番組はかかさずに観ているらしい。

逆に映画は嫌いみたい。

外国の映画を、日本語吹き替えにされる事が、感覚的に嫌らしいのだ。


テレビを観終わった後は、一緒にお風呂に入った。

「はぁぁぁ。何だか落ち着く。」

そう言って、私は後ろから抱きしめ、胸をずっと揉んでいた。

この触り心地が、一番いいらしい。

そして、夜。

久しぶりに一緒に寝ると思って、ドキドキしてベッドに近づいたら、五貴さんはもう寝息を立てて、眠っていた。

「う~ん。」

結婚したら、毎日にようにHするんだと思っていた私は、さすがにショックだった。

「なんで?この体型のせい?」

私はパジャマをつまんで、中を覗いた。

自分でも落ち込むような、お子様体型。

「で、でも!お風呂では、これがいいって五貴さん、言ってたもんね。」

そう自分に言い聞かせて、私は五貴さんの隣に、寝転んだ。


今日一日で、五貴さんの、いろんな事を知った。

お父様にも会ったし、空君にも会えた。

五貴さんの苦しみや、悲しみにも触れられたし。

うん。

五貴さんの事、いろいろ知っていくのは、楽しいと思う。

これからもいろんな五貴さんを知りたいと思いながら、その日は眠りについた。
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