アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒

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第6章 夫婦になるには

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「家に……帰った?」

「ああ。林は、平日5日泊まり込み勤務だからね。今頃家で奥さんと、のんびり過ごしているんじゃないかな。」


ええっ!?

林さんって、結婚してたの!?

しかも、平日この家に泊まり込み?

ん?確か、そんな事言っていたような、言ってないような。

って、待ってよ。

林さんも、週末婚じゃん。


「まさか週末婚は、林さんの影響?」

「ん?何か言った?」

のんびりしている五貴さんを見て、何故だかお腹が空いてきた。

「……朝ご飯。作ろうか。」

思わず言ってしまったのが、悪かった。

「おっ、奥さんの手料理。いいね。」

期待されると、新妻の本領、発揮したくなるよね。

「ちょっと、待っててね。」


私は勇んで、冷蔵庫の扉を開けた。

ところが、中身はほとんど空っぽ。

水しかなかった。


「どうした?つむぎ。」

「……空っぽ。」

「空っぽ?」

「食料がない。」

それを聞いた五貴さんは、お腹を抱えて笑っていた。

「そう言えば林って、計画的に買い物するから、週末には食材、跡形もなく無くなるんだっけ。忘れてた。」

そう言って、ケラケラと笑っている。

「忘れてたじゃないわよ。どうするの?朝ご飯。」

「じゃあ、買ってくる?」


休日の朝ご飯を、外で買ってくるなんて、ちょっとお金持ちっぽい。

私は目を輝かせながら、大きく頷いた。


「何がいい?」

改めて聞かれると、答えが出て来ない。

「うーん。ここら辺でお洒落なお店とか、ない?」

「残念。あるけど、お持ち帰りできない。」

そんな会話自体が、楽しくて仕方がない。

「あーあ。独身時代だったら、朝マックとか行ってんだけどな。」

「朝マック!!」

私は、目を同じように輝かせている五貴さんに、目が点になった。

「なに?マックには、朝メニューもあるの?すごいじゃん!」

「いや……すごくない……」

社長夫人になったって言うのに、なぜそんな悲しいメニューになるの?

まあ、でも……

「いいね、いいね。買いに行こう、つむぎ。」

五貴さんが喜んでいるから、いいか。

そして私達は、朝ご飯をマックで済ませ、その後に映画を観たり、公園を散歩したり、夕食の買い物をしたりして、結局帰って来たのは夜になってしまった。


「つむぎ。今日は、俺が夕食作るね。」

「ええ?五貴さん、料理できるの?」

「今時料理とかできなければ、男はモテないでしょ。」

そう言って五貴さんは、包丁片手に、材料を切り始めた。


おおっと。

私よりも料理上手だったら、どうしよう。

平日、林さんに料理でも、習おうかな。


そんな時、沸騰していないお湯に、材料を入れる五貴さんを見た。

「あれ?お湯、沸騰してないのに、もう入れちゃう?」

「あわわわ!」

慌てて五貴さんが、お玉で具材を掬い出している。

どうやら、五貴さんの料理の腕前は、私と同じ位のようだ。

「ふふふっ。」

「へ?」

思わず噴き出した私に、五貴さんが笑う。

「ううん。何でもない。今日は、何を作ってくれるの?」

五貴さんが笑ってくれる事に嬉しくなって、私は頬杖をつきながら、尋ねた。

「シチューにしようかなって。この前、林に作り方、聞いたんだ。」

「楽しみ。」

シチューって聞くと、小学生の時にお母さんと一緒に作った事、思い出すな。


「えっと……確か具材を柔らかくなるまで煮込んだ後、水、牛乳、コンソメ、薄力粉と……」

「薄……力……粉……?」

聞いた事もないような材料に、頭が真っ白になる私。

「えっ……シチューのルーは?」

「ルー?ははん、つむぎは俺の料理の腕前を、馬鹿にしてるね。今回は、ルー無しで作るよ。」

「わー、すごい……」


って、私の料理の腕と、全然違うじゃないの!

私の料理の辞書に、薄力粉って言う文字はない!

ショックを受けている間に、五貴さん特製のシチューが出来上がったらしい。

「つむぎ、たくさん食べてね。」

「うん。」

一口食べると、これまた牛乳の味が濃くて、美味しい!

「うーん。病みつきになりそう。」

「そう?よかった。」

私が五貴さんの作ったシチューに満足していると、突然彼は、スプーンを置いた。


「つむぎ。俺、君に謝らなきゃいけない事がある。」

「えっ?」

あまりの突然の告知に、私もスプーンを置く。

「つむぎは、なぜ週末婚なのか、なぜ平日は一緒にいられないのか、とても気になっているんだってね。」

「どうして、それを?」

「林から聞いた。」


林さあああん。

あの人、私の悩みを全部、五貴さんに伝えてしまうのね。


「俺も、説明不足だったと思う。実は俺、バツイチで子供が一人、いるんだ。」

呼吸が一瞬、止まった。

「バツイチ……子供が一人?」

待って。

バツイチって言う事は、前に結婚していた事があって、前の奥さんとの間に、子供が一人……子供が一人……子供が……子供が……

「だけど……って、つむぎ!?」

あまりのショックに、私は白目を向いて、後ろに倒れ込んでいたらしい。


気が付いた時には、ベッドに横になっていた。

「ハッ!」

起き上がろうとすると、隣にはうたた寝する五貴さんがいた。

「五貴さん……」

私はそっと、五貴さんの頬に触れた。


偶然、この人に出会って、好きになって。

最初は、週末婚とか言われて戸惑ったけれど、結婚しようって言われて、嬉しかった。

それくらい、好きな人なのに。

前にも奥さんがいて、その人との間に、子供がいたなんて。


「はぁ……」

好きでいれば好きでいる程、嫉妬する。

何で、私が最初の奥さんじゃないんだろう。

何で、私との間の、子供じゃないんだろうって。


「ん……」

五貴さんが目を覚まして、私は布団の中に入って、寝ている振りをした。

「つむぎ?」

目を擦って、私と同じようにため息をついている。

「……騙すつもりはなかったんだ。年甲斐もなく、君を好きになって。好きになれば好きになる程、言えなかったんだ。つむぎに……嫌われたくなくて……」


五貴さんのその言葉を聞いて、胸が締め付けられた。

私が嫉妬する以前に、私に伝えるかどうか、苦しんでいたなんて。

「つむぎ。俺がバツイチで、子供がいるって知っても、一緒にいてくれるよな。」

弱々しい言葉。

きっと、私が側にいるか、不安なんだ。

私はそっと、五貴さんの手を握った。


「えっ?つむぎ?」

私は、ゆっくりと目を開けた。

「……一緒にいるに、決まってるじゃない。私は、五貴さんが好きなんだから。」

「つむぎ!」

五貴さんは、横たわっている私を、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「ああ、つむぎ!俺も、君の事が好きだ!」

好きな人に好きって言われて、幸せな私は、五貴さんと同じように抱きしめた。

すると、私の唇に五貴さんの唇が、重なった。

「ん……」

舌が絡まり合って、唇を貪るようなキスに変わる。


「あぁ……五貴さん……」

それがスイッチになって、五貴さんは私の服を、脱がし始めた。

「い、五貴さん!?」

「どうして驚くの?俺達、夫婦だよ?」

その言葉に私は身を委ねて、五貴さんさんの手で、私は身も心も裸にされた。

「あまり、見ないで。」

「恥ずかしがらなくてもいい。とても、綺麗だよ。」

今まで自分の体の線に、自信なんてなかったのに。

五貴さんにそう囁かれると、体がうずいてくる。


それからは私の全身に、五貴さんはキスの嵐。

「ああ……」

気持ち良すぎて、キスされているところに、神経が集中する。

「すごい、感じているね。」

「だって、好きな人に触れられたら、気持ち良すぎて……」

「ああ、つむぎ……」

五貴さんに両足を開かれると、私達は一つになった。

「すごい濡れてる。すぐ入ったよ。」

「五貴さん……」

ゆっくりと五貴さんが動き始めて、その度に私の全身に、電気が走った。

「ああっ……あっ、あっ、五貴……さんっ!」

シーツを握りしめて我慢しようとしても、五貴さんの動きがどんどん激しくなって、気持ちいい波が、耐えず押し寄せてくる。


「つむぎ。俺から、離れないで。」

「うん、離れない。」

「ずっと、一緒にいよう。」

「うん……」

汗ばむ二人の体が、ぴったりと重なる。

「愛してる、つむぎ……」

「私も……」


今まで付き合った人なんて、そんなにいないけれど、こんなにも私を愛してくれる人は、五貴さんしかいない。

「五貴さん!」

「ああぁ……」

そして私の体が、一番激しく突かれた後、五貴さんの体がブルッと震えた。

「はぁ……」

気持ち良さそうに、荒い息遣いをして、五貴さんは私の体に倒れ込んだ。

「気持ちよかった?」

「当たり前でしょ。つむぎは?」

「えっ……」

カァーっと顔が赤くなって、私は横を向いた。


「えって。恥ずかしいの?あんなに大胆なのに。」

「いやあああ!言わないで!」

私は両手で顔を隠したけれど、すぐ五貴さんにはぎとられた。

「言って。」

「……気持ち……よかった……です。」

すると五貴さんは、顔を赤くした私をぎゅっと抱きしめてくれて、頬にキスしてくれた。

汗で冷んやりした体が、心地いい。


そのまま私の横に倒れ込んで、スース―ッと寝息を立てる五貴さんを見ると、私達はやっと夫婦になれたんだと感じた。

「ん?待って。バツイチで子供がいる事が、週末婚とどう関係してるの?」

もう寝てしまった五貴さんを見ながら、私は額にシワを寄せるのだった。
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