年下皇帝の甘い誘惑

日下奈緒

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第8話 初めての夜

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カイの甘いキスで、翌日は二日酔いにならなくて済んだ。

「はぁ~。」

でも、あの熱に酔わされて、なかなか寝付けなかったのは、意外だった。


そんな経験、日本ではなかった。

ただ相手の欲求に、身体を任せていただけ。

そこに、気持ちはなかった。


「涼花。今日は、二日酔いじゃないのね。」

レーナはいつも、朝から元気だ。

「あのね、レーナ。私だっていつも二日酔いとは、限らないのよ。」

「そう?涼花がルシッカに来てから、二日酔いじゃない日、見た事がない。」

さすが、レーナ。

私の事を、よく見ている!

「そうだ、パウリ!今日のご飯、多めにしておいてね。」

レーナがそう言うと、パウリは手を上げた。

「涼花には、いつものお粥、用意しておくよ。」

そしてパウリも、私を気遣ってくれる。


パウリには、カイの事は断ると言っておきながら、私はカイと一緒にいる事を、楽しんでいる。

付き合ってもいないのに、一緒にいるなんて、周りはどう思うのかな。


「ねえ、涼花。皇帝陛下の事、本当に断ったの?」

レーナが心配して、私に小声で聞いてきた。

「うん。」

「もったいない。」

「えっ。」

「私だったら、絶対OKする。」

途端にレーナは、身体をくねらせた。

「だって、皇帝陛下よ?一生、お金持ち。約束される。」

「そうね。」

私達庶民は、いつ職を失って、貧乏になるか分からない。

元カレの暴力から逃げていた時も、そうだった。

私の職場も知っていたから、仕事も止めて、家も出てきた。

あの時は本当に、死ぬかと思った。

でも、その時にアルッティさんに、声掛けてもらったんだよね。

あーあ、人の縁って不思議。


「じゃあ、皇帝陛下は、涼花が皇帝陛下を好きな事、知らないの?」

今度は、ウルウル目で私を見て来たレーナ。

「えっと……それは……」

「かわいそう、皇帝陛下。本当は愛し合っているのに。」

涙も流していないのに、目を拭くレーナ。

そんなに、ロマンティックが欲しいか!

「……好きだとは、言った。」

「えっ!?本当!?」

「うん。それで、キスされた。」

「はあ~~‼」

レーナが、万歳している。


「よかった。これで晴れて、恋人同士ね。」

「でも、付き合うのは、断ったのよ?」

「付き合う?何を元にそう言うの?二人が愛し合っているのなら、恋人同士じゃない?」

私はドキッとした。

カイと恋人同士?

なってもいいの?この私が?

「お互いの気持ちが、一番大事でしょ?」

ウィンクしたレーナに、元気を貰った。

「……そうね。」

「よし!じゃあ、セクシーランジェリー必要だね。」

レーナは、私の肩を叩いた。


その日の夜、仕事が終わってから、私とレーナは街に買い物に来ていた。

「意外とセクシーランジェリー、お店にあるよ。」

レーナに連れて行ってもらったお店は、こっちが恥ずかしくなるような、セクシーな下着がいっぱい売っていた。

「ルシッカの人って、積極的なのね。」

「服があまり、セクシーなモノないでしょ。だからランジェリーで、セクシーを演じるのよ。」

「ふーん。」

日本でもこんなの着けた事がなかった。

もちろん、上下セットの下着は着けていたけど。

「あっ、これがいい。」

レーナが持っている下着は、黒のスケスケの下着だった。

「これ、涼花に買ってあげる。」

「ええっ!?いらないよ!」

「きっと皇帝陛下も気に入る!」

そう言ってレーナは私のサイズを確認すると、さっさとお会計に行ってしまった。


「あー、すっきりした。」

レーナは額を拭き、一人満足気な顔をしていた。

「これでいつ皇帝陛下に誘われても、いいね。」

そう言われると、臆病になる。

「そんな日、来るかな。」

「来るよ!皇帝陛下も男だから!気持ち通じ合っているのなら、Loveな時来る!」

「うーん……」

思い出すのは、乱暴にされてきた事。

私は一つも、気持ちいい事なんてなかった。


カイとそんな日が来たら、私、上手に愛せるかな。

そんな事を思いながら、夜は過ぎて行った。


そして、その日は意外と早くやってきた。

「涼花。皇帝陛下から言付けです。」

「はい?」

アルッティさんが、私を廊下の隅に呼んだ。

「今夜、皇帝陛下は涼花を、ディナーに誘いました。いいですね。」

「ディナーって……」

「皇帝陛下と食事をするのです。ドレスはこちらで用意します。」

「ええっ!?」

突然のお誘い。

しかもドレス着るって!


「あの、アルッティさん。」

「何です?」

「正直、アルッティさんは、どう思っているんですか?陛下が私をディナーに誘うって。」

するとアルッティさんは、私の肩に手を置いた。

「先の事は考えないで。今は、皇帝陛下の意のままに。」


それだけを言って、アルッティさんは行ってしまった。


先の事は考えないで。

結婚の事は、考えないでって事なのかな。

カイが恋愛に盛り上がっているなら、それもまた良しと思っているのだろうか。


そして夕方、私の元にドレスが届いた。

青色の綺麗なドレス。

これを着て、カイの元に行くのね。

「時間は18時。遅れないように。いいですね、涼花。」

「はい。」

私はドレスを持って、一旦家に戻った。

昨日、レーナに買って貰った、セクシーな下着。

それを身に着けて、青色のドレスを着た。

ああ、緊張する。

私にこのドレス、似合っているのかな。

そして私は、髪をアップにすると、家を出てお城に向かった。


「ああ、涼花。来ましたね。」

アルッティさんが、迎えに来てくれた。


「ほう。さすが日本人のベージュの肌には、青色が似合う。」

「ありがとう、ございます。」

なんだか照れくさい。

そして時間は18時近くになって、アルッティさんに部屋に連れて行かれた。

「あれ?ここって、夕食の間じゃないですよね。」

「ええ。皇帝陛下の私室です。」

「えっ?」

カイの部屋で、夕食を食べるの?

それって、もろプライベートじゃん!


「よく来たね、涼花。」

カイもスーツに着替えている。

「そのドレス、似合うね。」

「ああ、アルッティさんが、選んでくれたの。」

「アルッティが?」

カイがアルッティさんを見ると、既にアルッティさんは、姿を消していた。

全く、ルシッカの人は、気が利き過ぎ。

「さあ、席に座って。」

カイはそう言うと、自ら椅子を引いた。

「そんな!カイがそんな事するなんて!」

「どうして?男性が女性をエスコートするのは、当たり前でしょ。」

「でも……」

「ほら、いいから。」

カイは私を席に座らせると、手を叩いた。

するとドアが開いて、料理人達が入ってきた。

その中には、レーナもいた。

「レーナ!」

「素敵よ。涼花。」

レーナは、感激して泣いている。

思えば、私達がお互い愛し合っているって知っているのは、レーナだけなんだよね。

「では、ディナーを始めます。」

料理長のテームさんがそう言うと、前菜が運ばれた。

「皇帝陛下、飲み物は如何しますか?」

「ワインを。」

「かしこまりました。」

その瞬間、私は唾を吐きそうになった。

「陛下、ワインはまだ早いのでは……」


「せっかく涼花とディナーを楽しめるんだ。ワインくらいいいだろう。」

いや、カッコいい顔で言っても、あなたお酒弱いから。

ビールでも1杯で酔ってしまうのに、ワインなんて飲んだら。

なーんて、私も明日は二日酔い、決定だわ。


「気にしないで。今夜は二人で楽しもう。」

カイが私の手を握る。

周りには、給仕の人がいるんですけど!

そして次々と運ばれてくる料理。

私のいない間に、こんな料理作ってたの?

テームさんを見ると、親指をグッとあげている。

いやいや、テームさんもカイの回し者?

私はカイの言う通り、このディナーを楽しむしかなかった。


「あー。満足した。」

カイがそう言うと、皆いそいそとカイの部屋を去って行く。

「涼花は?お腹いっぱい?」

「えっ!ああ、うん……」

まさかこの後の事が気になって、控えていたなんて言ったら、どう思うだろう。

「そうだ。僕のベッドルームから、綺麗なモノが見えるよ。」

そう言うとカイは、私の腕を掴んで、隣の部屋に移動した。

その途端に、大きなベッドが目に入る。

うっ!

あからさまなベッドが、緊張を誘う。

「ほら、涼花。見て。」

そう言われて外を見ると、花火がぱぁーっと上がった。

「うわぁ……」

「アルッティに言って、上げさせた。君だけの為の花火だよ。」

胸がドキドキ言っている。

私だけに、花火を上げてくれるだなんて。


「嬉しい……ありがとう、カイ。」

「涼花。」

そして私達は、窓際でキスをした。

この前とは違う、舌を絡めるキス。

「はぁっ……」

カイの優しいキスに、もうとろけそうになる。

「涼花、もう我慢できないよ。」

そう言うとカイは、私の背中に手を回して、ドレスを一瞬で脱がしてしまった。

「涼花……」

ハッと我に返った。

そう言えば私、セクシーな下着見つけていたんだっけ。

恥ずかしくなって、下着を隠した。

「すごくいいよ。綺麗だ。」

私の腰に手を回し、私の事を見下ろすカイ。

カイだったら、恋に臆病になっている私を、受け入れてくれるのかな。


「今日、涼花の事抱いてもいい?」

「えっ……」

私はお決まりにように、固まってしまった。

「……日本語間違えた?」

「ううん。抱き締めるって事よね。」

私は背中を向けた。

その瞬間、カイが私を抱きかかえて、ベッドに押し倒した。


「……愛し合うって事。」

カイの舌が、首筋を這う。

「あっ……」

そして私の下着を脱がせて、胸やお腹、足までカイは、口付けをした。

「待って……」

襲って来るあの、乱暴にされた日々。

「震えている。怖いの?」

カイが私を見降ろす。

小刻みに震える身体に、自分でも驚く。

「大丈夫だよ。ただ愛し合うだけ。」

そう言うとカイは、裸になった。


程よい筋肉がついていて、体の線が細い。

まだ若いのだと、身体が教えている。

「僕に任せて。優しくするから。」

カイはそう言うと、絶妙な舌の動きで、私の身体を愛撫し始めた。

「はぁぁん……」

「涼花、気持ちいい?」

「気持ちいい……」

何でだろう。

怖い気持ちは、一切無くなって、カイの舌の動きに、身体が反応するようになった。


「涼花、一つになるよ。」

私は、小さく頷いた。

「ああ、涼花。」

一つになるとまるで境界線がないように、私達の身体はとろけ合った。

「カイ……カイ……」

「涼花、愛しているよ。」

そんな言葉は飛び交う。

少しだけ目を開けると、カイは気持ち良さそうに私の身体に、しがみついている。

「カイは、初めてなの?」

聞くと、カイは首を横に振った。

「……王族は18歳になると、夫と別れた女の人と、関係を持つんだ。僕もそうだった。ただ快楽に溺れて。でも今は、そんな自分が惨めに思う。」

「そんな……」

「いや、言わせてくれ。涼花。君を抱いて分かったんだ。愛し合うって事が、本当はどういう事なのか。」

カイの笑顔に、私は心が満たされた。

「ありがとう、涼花。僕と出会ってくれて、僕を愛してくれて。」

「私もよ……カイ……」

気が付くと私達は、朝が来るのも忘れて、何度も抱き合っていた。


「う…ん……」

朝になって目が覚めたら、隣にカイが寝ていた。

スヤスヤと寝息を立てて、可愛い。

「ん?起きたの?涼花。」

「うん。」

眠い目を擦って、またウトウトしようとしている。

仕方ないわよね。昨日の夜、寝ないでHしてたんだから。


「さあてと。仕事に行かないと。」

「仕事?今日は休みだって、言ってあるよ。」

「ええっ?」

そんな話、聞いてない。

「だから涼花。もう一度、愛し合おう。」

カイが、私の身体に覆いかぶさる。

でも、眠いみたいですぐ、目を閉じてしまった。


まだ23歳か。

恋愛に溺れる歳ね。

私はカイを抱きしめながら、こう思った。


この関係は、いつまで許されるんだろう、と。
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