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第3章 嫉妬じゃない、悔しいのよ
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「でもね。尚太は、そんな私の事、分かってくれている。だから、尚太の為にも、前を向いて歩かなきゃって、思うんだ。」
「頑張れ、環奈。」
心は、そんな私を励ましてくれた。
「うん、ありがとう。心。」
やがて朝礼が始まって、私は自分の席に戻った。
私は、尚太の事が好きで、尚太には好きな人がいる。
部長は心が好きで、心には彼氏がいる。
そして、私と部長を繋ぎとめるモノは……
私はため息をついて、考えるのを止めた。
子供じゃあるまいし、そんな時もあると自分に言い聞かせた。
言い聞かせた反動で、私は尚太に会いたくなった。
私にだって、気持ちで繋がっている人がいると、思いたかったのだろう。
「尚太、久しぶり。」
私を見た尚太は、全身固まっていた。
さしずめ、いつでも来ていいよと言ったのが、また来たのかよと言う感じなんだろうか。
「カウンター、いい?」
「……ああ。」
私はいつだって、尚太の前が好き。
そこに座ると、気持ちが落ち着く。
「今日は何にする?」
「尚太が決めて。」
尚太は、大きく深呼吸すると、こう答えた。
「じゃあ、ジンライムは?」
「いいわね。」
尚太は、私の前でジンライムを作り始めた。
尚太が決めたカクテルを、そのまま飲み干すが好き。
体の中を、その人でいっぱいにするようだからだ。
「はい。」
「ありがとう、尚太。」
尚太にとっては、私はお客の一人であって、作るカクテルは、何百種類の中の、一つかもしれない。
でも、それがいい。
それが、私の心を満たしてくれる。
案の定、飲みやすい口当たり。
私は、ジンライムを飲み干すと、目を瞑ってしばらく、”尚太が決めてくれたカクテル”を、楽しんだ。
その時だった。
奥のドアから、よく知った顔が、出てきた。
「えっ?心?」
私の疑問を聞いた尚太は、ハッとして私の視界を遮った。
「気のせいだよ。」
「そんな訳ないじゃない。私が心を見間違える事ない。」
尚太の左右を、交互に見て、やっぱり心だと確信した。
「心!」
私は、思い切って心に声を掛けた。
「環奈……」
心は私に気づいたのに、後ろへ下がっていく。
えっ? 何で?
何か、私に見つかってまずい事でもあるの?
「どうしたの?心。一人で来たの?」
「う、うん……」
心は動揺しているのか、目が泳いでいる。
私はそれがなぜだか、分からなかった。
「こっち来て、一緒に飲もうよ。」
私は、手招きをした。
そして、心はゆっくりとこっちに来た。
不思議な事に、近くに来ても、ただぼうっと立っているだけだ。
「隣に座ったら?」
「うん。じゃあ、お言葉に甘えて……」
心は、私の横に座った。
「どうしたの?今日。心、この店来た事ないって、言ってなかった?」
私は、心の顔を覗いた。
「心?」
もう一度呼びかけると、心は頷いた。
なんだか、いつもの心とは違うような気がする。
心は大人しいけれど、言う事は言う子なのに。
「ああ、一度部長に連れて来て貰った事があって……」
やっと口を開いたけれど、そんなに大した事ない言葉。
「そうなんだ。このバーテンは、知ってる?」
私は尚太を指さすと、心は尚太をちらっと見た。
「うん……宮島……尚太君でしょ?」
「そう。」
なんだ、知ってるんじゃん。
私の好きだった人、この人なんだよね。
無意識に、舌をペロッと出した。
「イイ男でしょ?」
「……うん。」
なんだか優越感。
彼氏ではないけれど、こんな素敵な人に、恋をしていた自分?が誇らしかった。
「と、言っても惚れちゃダメだよ。ねえ、尚太。」
尚太は、好きな人がいるんだもの。
心が尚太を好きになったって、振り向くはずがないもんね。
でも、尚太は黙ったままだ。
いつもだったら、受け流すのに。
「えっ?何?心はいいの?」
私は胸騒ぎがして、二人を交互に見た。
「どういう事?尚太。」
何?この同じ空気流れてます的な、この雰囲気。
そして尚太が、何かを言おうとした時だ。
「待って、尚太君。」
心が、尚太を止めた。
「私が、直接言うから。」
そして大きく息を吸った心は、私の方を向いた。
「なに?」
何、これ?
私はこれから起こる事に、少しだけ体を引いた。
「実は私達、付き合ってるんだ。」
「えっ……」
「黙っていて、ごめん。」
気づいたら、目の前にあったカクテルを、心の頭の上にかけていた。
「何やってんだよ!」
尚太に叫ぶと、心の為にタオルを持って来て、心の頭を拭いてあげている。
「大丈夫?心。」
怒りが、こみ上げてきて、私はカクテルグラスを、勢いよくカウンターに置いた。
「頑張れ、環奈。」
心は、そんな私を励ましてくれた。
「うん、ありがとう。心。」
やがて朝礼が始まって、私は自分の席に戻った。
私は、尚太の事が好きで、尚太には好きな人がいる。
部長は心が好きで、心には彼氏がいる。
そして、私と部長を繋ぎとめるモノは……
私はため息をついて、考えるのを止めた。
子供じゃあるまいし、そんな時もあると自分に言い聞かせた。
言い聞かせた反動で、私は尚太に会いたくなった。
私にだって、気持ちで繋がっている人がいると、思いたかったのだろう。
「尚太、久しぶり。」
私を見た尚太は、全身固まっていた。
さしずめ、いつでも来ていいよと言ったのが、また来たのかよと言う感じなんだろうか。
「カウンター、いい?」
「……ああ。」
私はいつだって、尚太の前が好き。
そこに座ると、気持ちが落ち着く。
「今日は何にする?」
「尚太が決めて。」
尚太は、大きく深呼吸すると、こう答えた。
「じゃあ、ジンライムは?」
「いいわね。」
尚太は、私の前でジンライムを作り始めた。
尚太が決めたカクテルを、そのまま飲み干すが好き。
体の中を、その人でいっぱいにするようだからだ。
「はい。」
「ありがとう、尚太。」
尚太にとっては、私はお客の一人であって、作るカクテルは、何百種類の中の、一つかもしれない。
でも、それがいい。
それが、私の心を満たしてくれる。
案の定、飲みやすい口当たり。
私は、ジンライムを飲み干すと、目を瞑ってしばらく、”尚太が決めてくれたカクテル”を、楽しんだ。
その時だった。
奥のドアから、よく知った顔が、出てきた。
「えっ?心?」
私の疑問を聞いた尚太は、ハッとして私の視界を遮った。
「気のせいだよ。」
「そんな訳ないじゃない。私が心を見間違える事ない。」
尚太の左右を、交互に見て、やっぱり心だと確信した。
「心!」
私は、思い切って心に声を掛けた。
「環奈……」
心は私に気づいたのに、後ろへ下がっていく。
えっ? 何で?
何か、私に見つかってまずい事でもあるの?
「どうしたの?心。一人で来たの?」
「う、うん……」
心は動揺しているのか、目が泳いでいる。
私はそれがなぜだか、分からなかった。
「こっち来て、一緒に飲もうよ。」
私は、手招きをした。
そして、心はゆっくりとこっちに来た。
不思議な事に、近くに来ても、ただぼうっと立っているだけだ。
「隣に座ったら?」
「うん。じゃあ、お言葉に甘えて……」
心は、私の横に座った。
「どうしたの?今日。心、この店来た事ないって、言ってなかった?」
私は、心の顔を覗いた。
「心?」
もう一度呼びかけると、心は頷いた。
なんだか、いつもの心とは違うような気がする。
心は大人しいけれど、言う事は言う子なのに。
「ああ、一度部長に連れて来て貰った事があって……」
やっと口を開いたけれど、そんなに大した事ない言葉。
「そうなんだ。このバーテンは、知ってる?」
私は尚太を指さすと、心は尚太をちらっと見た。
「うん……宮島……尚太君でしょ?」
「そう。」
なんだ、知ってるんじゃん。
私の好きだった人、この人なんだよね。
無意識に、舌をペロッと出した。
「イイ男でしょ?」
「……うん。」
なんだか優越感。
彼氏ではないけれど、こんな素敵な人に、恋をしていた自分?が誇らしかった。
「と、言っても惚れちゃダメだよ。ねえ、尚太。」
尚太は、好きな人がいるんだもの。
心が尚太を好きになったって、振り向くはずがないもんね。
でも、尚太は黙ったままだ。
いつもだったら、受け流すのに。
「えっ?何?心はいいの?」
私は胸騒ぎがして、二人を交互に見た。
「どういう事?尚太。」
何?この同じ空気流れてます的な、この雰囲気。
そして尚太が、何かを言おうとした時だ。
「待って、尚太君。」
心が、尚太を止めた。
「私が、直接言うから。」
そして大きく息を吸った心は、私の方を向いた。
「なに?」
何、これ?
私はこれから起こる事に、少しだけ体を引いた。
「実は私達、付き合ってるんだ。」
「えっ……」
「黙っていて、ごめん。」
気づいたら、目の前にあったカクテルを、心の頭の上にかけていた。
「何やってんだよ!」
尚太に叫ぶと、心の為にタオルを持って来て、心の頭を拭いてあげている。
「大丈夫?心。」
怒りが、こみ上げてきて、私はカクテルグラスを、勢いよくカウンターに置いた。
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