上 下
9 / 18
幸せとは

しおりを挟む
「じゃあ、ご馳走様でした。」

3人は、ご飯をたらふく食べて、帰って行った。

その中の一人、佐藤さんは私をちらっと見て、目が合うとわざとふいっと、視線を反らした。

嫌われた?

あんなにご飯、食べさせたのに?


「一条さん、お休みなさい。」

「ああ、お休み。」

頭を下げて玄関を閉めた3人。

「はあー。参った参った。」

圭也さんは、疲れたように背伸びをした。

「圭也さんは、ただあの3人と、話をしていただけでしょう。」

「そうだな。紗良の方が疲れているな。」

圭也さんは、私の背中を摩ってくれた。


「ビール、まだ残ってる?」

「残っていない。」

「じゃあ、買いに行くか。」

一瞬、キュンとしたけれど、こんな遅い時間に外歩くのも、面倒だし。

疲れているし。

あの3人と出くわすのは、気が進まない。

「ううん。今日はいい。」

玄関からテーブルの場所に来て、片づけを始めた。

すると、圭也さんも一緒に手伝ってくれた。

「お疲れさん、ありがとうな。」

圭也さんは、おでこをくっつけてくれた。

ふふふと笑うと、圭也さんも微笑んでくれた。


恐らく、私よりも圭也さんの事を好きでいる期間が長い佐藤さんには、悪いけれど。

一緒に微笑む事ができる。

これが、夫婦の特権だと思う。


「俺が洗うよ。」

「じゃあ、私はお皿を拭くね。」

家事を一緒にやるなんて、いつもの日々じゃあ、味わえない。

そう思うと、あの3人には有難うと言いたい。


「ねえ、あの3人の中に、一人女の子交じっていたじゃない。」

「佐藤な。」

「その佐藤さん、どういう子なの?」

「どういうって……何かあった?」

「ん?ううん、何でもないけど。」

まさか、好きだって話を聞いたなんて、言えない。

「そうだな。真面目な子だよ。」

「真面目か。彼氏とかいるの?」

「いないんじゃないか?ずっと仕事ばっかだから。」

でしょうね。

だって、圭也さんの事が好きなんだもの。


「何か、言われた事ある?」

「何かって?」

ここは確信をついた方がいい?

「……私の事。」

「紗良の事?ああ!」

圭也さんは、思い出したように、大きな声を出した。

「奥さんに会わせて下さいって、言われた事があるよ。」

なにいいい!

私に会いたいと⁉

それって、宣戦布告⁉

今日来たのも、私を偵察する為⁉


「あいつ、俺が結婚した時、おめでとうじゃなくて、文句言ってきたんだ。」

「文句?どんな?」

「あはっ!私をおいて、どんな人と結婚したんですか!って。」

笑ってるけれど、大問題だよ!!

そしてここだ!真意を聞くには、ここしかない!

「それって、佐藤さんが圭也さんを好きって事なのでは?」

すると圭也さんは、振り返った。

「違うと思うけど?」


……鈍感なの?

だから、今まで独身だったの?


「いや、だって好きじゃなかったら、そんな事言わないでしょ。」

「俺のファンはファンだけどな。」

ファン⁉佐藤さんの好意には、気づいてるんじゃないか!

「でも、そんな男女の仲ではないよ。あいつは、俺の事からかってるだけ。」


罪だ。

一人の女の気持ちに気づかないなんて、なんて罪なんだろ。

逆に、佐藤さんが気の毒に思えてきた。


「ところで、皿洗いは終わったけど?」

「ん?うん。」

そう言うと圭也さんは、私を後ろから抱きしめた。

「久しぶりだな。紗良とゆっくり過ごすのも。」

「そうだな。」

私は圭也さんの手を握りしめた。

「今日、あいつらに夕食を作っている紗良を見て、結婚してよかったと思ったよ。」

「それは、どうも。」

言ってる意味は分かる。

部下にご馳走もできない妻なんて、結婚しなきゃよかったって、思うもんね。


「紗良、愛おしいよ。」

圭也さんは、私の頬を自分に向かせると、キスしてくれた。

私も久しぶりのシチュエーションに、圭也さんに捕まる。

そのまま、二人でリビングに行って、ソファーに倒れ込んだ。


「いい?このまま抱いて。」

「待って、ベッドに行ってから……」

「待てないから。」

そう言うと、圭也さんは私の服を脱がし始めた。

欲情を抱いた表情。

佐藤さんの好意も、ただのファンだと言っている圭也さんは。

恐らく、私にしかそんな顔は見せないだろう。


「紗良、紗良……」

耳元で繰り返される甘い声。

「愛しているのは、紗良だけだよ。」

そんな言葉に、酔いしれる夜だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世間知らずな彼女とヤキモチ焼きの元上司のお話

真矢すみれ
恋愛
一回り以上年の離れた彼と彼女。 元上司と元部下の2人。 ほんの少しだけヤキモチ焼きで、ほんの少しだけ意地悪で、そしてとっても彼女の事を愛してる修一。 ほんの少しだけ世間知らずで、ほんの少しだけうぶで、そして彼の事を大好きなさくら。 婚約時代のほんのちょっぴり甘~い2人の会話。 軽い気持ちで覗き見て下さい♪ ※ベリーズカフェ、小説家になろうにも掲載中。

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

処理中です...