情熱的に愛して

日下奈緒

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第7章 本当の

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その週の週末、お母さんが我が家にやってきた。

「どうしたの?突然。」

「いいえ、どうしてるかなぁって思ってね。」

お母さんは、実家から食べ物を持って来てくれた。

「ありがとう、お母さん。」

「どういたしまして。」


その時、遅れて起きてきた門馬が、お母さんに気づいた。

「えっ?お母さん?」

「あら、雪人さん。おはよう。突然、ごめんなさいね。」

パジャマ姿の門馬は、急いで部屋に戻って行った。

「もうお母さん。来る時は来るって、連絡よこしてよ。もう、一人で住んでる訳じゃないんだから。」

「あはっ。そうね。」

お母さんは、のん気に笑って見せた。

最近私は、人の笑顔に癒されている。


そしてお母さんは、ある言葉を私にかけた。

「どう?新婚生活、上手くいってる?」

その言葉に、私は涙を目に貯めた。


「どうやら、上場とはいかないようね。」

私は涙を拭いた。

その時、洋服に着替えた門馬が、リビングにやってきた。

今の状況を見られると困る。

私は、財布からお金を出した。

「ねえ。お母さん、お昼ご飯食べていくから、料理の材料買って来てくれない?」

「ああ、いいよ。」

門馬はそう返事をして、家を出て行った。


後には、私とお母さんだけが残った。

二人共ソファに座って、お母さんは私の手を握ってくれた。

「何か、あったの?雪人さんと。」

そしてまた、私の目には涙が零れた。


「ねえ、お母さん。」

「なあに?」

「聞いて驚かないでね。」

私は、お母さんの手を握り返した。

「私達、偽装結婚なの。本当は入籍していないの。」

お母さんは、”えっ!”と、小さく驚いた。

「黙ってて、ごめんなさい。」

お母さんは、何度も頷いてくれた。


「どうして、そんな事をしたの?」

「私、おじいちゃんと約束したの。すごい人と結婚して、おじいちゃんを安心させるって。」

お母さんは、目をぱちくりさせている。

「……あのおじいちゃんと?」

「そう。あのおじいちゃんと。」

今は元気だから、なんでそんな約束したのか、分からないけれど。

「そうしたら、門馬が協力してくれるって。」

「そう……」

お母さんは、辺りを見回した。

「それで?」

「それで……私の方が、門馬を好きになってしまったって言うか。」

その時、涙が止めどなく溢れて来た。

「でも門馬には、忘れられない元カノがいるの。それが辛くて辛くて。」

お母さんは、私を抱きしてくれた。


「お母さんね、どうしてあなた達の結婚を、すぐに許したと思う?」

「……分からない。」

お母さんは、私の髪を撫でてくれた。

「夏海がね、雪人さんの事を好きだって、分かったからよ。」

「あの時から?」

「そうよ。あなたはまだ、気づいていなかったけれどね。」

私は、目を閉じた。


私の実家に挨拶に来た門馬は、誰が見てもカッコよかった。
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