私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした

日下奈緒

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こうして、半ば社長と企画部部長の公認の仲になった私と柊真。

ある日の事だった。

「恭香。俺、企画部の部長になれるかもしれない。」

「えっ……」

部長に⁉それは、昇進ではないか!

「また一歩、社長に近づいたわね。」

「ああ。」

御曹司って言っても、柊真は御曹司扱いされるのが、ものすごく嫌だった。


― 結城君って、何もしなくても社長になれるんでしょ。いいね。-

同期の仲間は、そう言って御曹司である柊真を冷やかした。

― 俺たちは、君の手足になって働くだけだよ。 -

そんな同期を前に柊真は、はっきりと言った。

「悔しかったら、俺の代わりに社長になってみろよ。俺は実力で社長になる。」

思い出すな。それで今の部長に、付いて回ったんだよね。

柊真、自ら。

「ふふふ。」

思い出したら、笑っちゃった。

「何だよ。」

「ううん。昔の事思い出したら、おかしくて。」

「何?何を思い出したんだよ。」

柊真は、私に顔を近づけた。

「ん?何だか、実力で社長になってやるって、言ってた事。」

「ああ、その事?俺もまさかここまで、実力主義だと思ってなかった。」

「ははは!自分で望んだ事じゃん!」

おかしくて笑ったら、柊真が微笑んでいた。

「柊真?」

「俺、長い間おまえに片思いしてたから、こんなふうに傍で笑ってくれてるおまえを見ると、頑張っててよかったと思うよ。」

「そんな大げさな。」

私なんか、柊真にそんなそこまで言われる女じゃないのに。

「本当だよ。」

柊真は両手で抱き寄せてくれて、キスをくれた。

いつもキスしてくれる柊真は、きっとキス魔だと思う。

「……ところで、柊真が部長になったら、今の部長はどうなるの?」

「ああ、部長は取締役になるらしい。」

「ええっ⁉」

あの部長が、取締役になるの⁉

「じゃあ、柊真が社長になる時って、あの部長が承認しなきゃいけないの?」

「そうなるね。」

「へえ。」

なんであの柊真にペコペコしてる部長が、取締役となるんだろう。

あっ、そんな事言ったら、部長に失礼か。

「まあ、今度の取締役会議で、承認されたらの話だけどね。」

「そっか。」


そんな話もあり、私の部長を見る目が変わった。

「どうしたの?浅見課長?」

「えっ?」

「さっきから俺を見つめて。もしかして、結城課長から鞍替え?」

「そんな訳ないじゃないですか。」

せっかく私を溺愛してくれる人に出会ったのに、簡単に手ばしてたまるか。

「ところで、二人はいつ結婚するの?」

「えっ……まだ、日取りは決まってませんけど。」

「と言う事は、結婚することは決まってるんだね。」

「え、ええ。」

よく考えれば私まだ、プロポーズされてない?

確かに結婚してくれとは、言われてるけれど。

「ああ、思い出すな。御曹司が俺の周りをちょこちょこ動き回っていた時の事。」

「はははっ!」

そう言えば、部長。逆に柊真に気を遣っていたもんね。

「俺、コピーとか書類作成から、教えたんだよ。あの御曹司に。」

「それ、何気に自慢ですね。」

「そうだよ。今となったら、優秀な一課の課長で、俺の出番ないけど。」

「ふふふ。」

笑える。入社当時の柊真って、メモ帳持って部長の一言一言、書いてたんだよね。

だが、事態は別の方向に動いた。

「えっ⁉部長が支社に転勤⁉」

まさか取締役会議で、承認されなかった⁉

「そうなんだよ。でも副支社長だから、栄転と言えば栄転だけど。」

副支社長って、かなり偉いじゃん。

「なかなか本社にも戻って来れなくなるね。」

部長、寂しそうだな。

「そう言えば、俺の後は御曹司を推しておいたよ。」

「ありがとうございます!」

柊真、嬉しそうだ。

よかったね。

「それで一課の課長なんだけど。」

うんうんと私と柊真は、うなづいた。

「浅見ちゃん、やってみない?」

「えっ?私ですか?」

一課と二課の違いは、扱う予算の違い。

二課は、何十万とか何百万とか、比較的小さな規模を扱うけれど、一課は1000万単位で仕事が動く。
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