上 下
17 / 34
今更あいつと

しおりを挟む

翌日は有給で休んだ。

― 俺が結婚するから -

結城のあの言葉を思い出す度に、体に微熱がこもる。

「こんな状態で、どうやって仕事するのよ。」

私は微熱を持て余して、ベットで何度も寝返りを打った。


池崎さんからの連絡は、途絶えた。

たぶん相手も、私とでは体の相性が合わないのを、知っているのだと思う。

あんなに意気投合したのに、結果はこんなものだ。


「どうしよう。映画でも見に行こうかな。」

今日平日だし、午後早い時間だったら、映画一人で行ってもおかしくないかも。

その時、スマホが鳴った。

「えっ?結城から?」

昨日の今日で、あいつと会話するなんて。

結局電話に出れないまま、コール音は終わってしまった。

すると、今度はメールがきた。

【寝てるか。】

短い文章。そう言えば私が休みって事は、あいつが2課も見ているのだろうか。

あいつには、また迷惑かけた。

このまま無視するのは、失礼な気がした。

【寝てない。それこそ、今日は休んでごめん。】

返事は電話でやってきた。

「結城?」

「浅見。仕事なら気にするな。ゆっくり休め。」

「うん。」

あっ、この間。心地いいな。

「今からは何してるんだ?」

「ああ、申し訳ないけれど……映画でも見に行こうと思って。」

「映画?ちょっと待ってろ。俺も行くから。」

そこで電話は切れた。

「えっ?」

どういう事?俺も行くから?待ってろと言われても、あなた、今仕事中だよね。

頭の中にクエスチョンマークが飛ぶ。

何が何だか分からない。いつまで待てばいいのだろう。

そして15分後。

家のインターフォンが鳴った。

「誰だろう。」

ボタンを押すと、スーツ姿の結城が映し出された。

「結城……」

ドキドキしながら、玄関のドアを開けた。

「待たせてごめん。」

「いや、そんな15分くらいしか経ってないし。」

結城は家に入ると、リビングで上着を脱いだ。

「仕事はどうしたの?」

「午後、半休貰った。」

ネクタイを外して、ソファーに座る結城を見ると、彼が恋人なのではと錯覚に陥る。

「結城は、お昼食べた?」

「ああ、食べてないな。」

「簡単な物でいいなら、作るけど。」

「頼む。」

何気ない会話が、却って緊張を促す。

とは言っても、料理あまりしないから、ご飯を解凍してチャーハンを作った。

「はい、できたよ。」

チャーハンを二人分、テーブルに置く。

「頂きます。」

床にあぐらをかいて、スプーンを持ち、豪快にチャーハンを食べる。

シャツのボタンを一つ外した結城は、色気さえ漂っていた。

「うん、美味い。」

「ありがとう。」

男性に料理を作るのは、いつ振りだろう。

思わず食べてる姿を見てしまう私に、結城が気付く。

「ん?」

「ううん。チャーハンでよかった?」

「うん。俺、米好きだし。」

確かにチャーハン、美味しそうに食べている。

「あー、食った食った。ご馳走様でした。」

結城はちょこっと、頭を下げた。

その姿が微笑ましくて、首の後ろがこそばゆくなった。


「そう言えば、映画見るんだろう。」

「ああ……」

そんな話、してたもんね。

「何見る?今、何やってるのかな。映画。」

まるで前から付き合ってるような話しぶり。

「私、これ観たいな。」

それは、ちょっと昔の映画で。リバイバルで上映しているものだった。

同じく恋愛や仕事に悩んでいる主人公。

泣き笑いながら、本当の恋を見つけていく。

「いいね。じゃあ、行こうか。」

「先に行ってて。私、着替えて行くから。」

「ああ。」

結城が上着とカバンを持って、リビングから姿を消すと、私はスカートに履き替えて、ほんのり化粧をした。

結城相手に、スカートだなんて。

少し前の私なら、絶対考えない事だ。

バッグを持って家を出ると、鍵をかけ結城の車に向かった。

駐車場に行くと、結城は車の外で待っててくれた。

「結城。」

振り返った結城は、私の姿を見て表情を変えた。

「なに?」

「……いや、そのスカート。かわいいなと思って。」

「似合わない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

森でオッサンに拾って貰いました。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。 ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

社長はお隣の幼馴染を溺愛している

椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13 【初出】2020.9.17 倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。 そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。 大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。 その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。 要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。 志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。 けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。 社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され――― ★宮ノ入シリーズ第4弾

とろける程の甘美な溺愛に心乱されて~契約結婚でつむぐ本当の愛~

けいこ
恋愛
「絶対に後悔させない。今夜だけは俺に全てを委ねて」 燃えるような一夜に、私は、身も心も蕩けてしまった。 だけど、大学を卒業した記念に『最後の思い出』を作ろうなんて、あなたにとって、相手は誰でも良かったんだよね? 私には、大好きな人との最初で最後の一夜だったのに… そして、あなたは海の向こうへと旅立った。 それから3年の時が過ぎ、私は再びあなたに出会う。 忘れたくても忘れられなかった人と。 持ちかけられた契約結婚に戸惑いながらも、私はあなたにどんどん甘やかされてゆく… 姉や友人とぶつかりながらも、本当の愛がどこにあるのかを見つけたいと願う。 自分に全く自信の無いこんな私にも、幸せは待っていてくれますか? ホテル リベルテ 鳳条グループ 御曹司 鳳条 龍聖 25歳 × 外車販売「AYAI」受付 桜木 琴音 25歳

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

処理中です...