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生意気なあいつ
⑥
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「恭香さんが、仕事と家庭両立できるように、支えますから。」
「住前君……」
こんなプロポーズ、聞いた事ない。
呆然としている間に、住前君の唇が近づいて重なる。
柔らかい。温かなキス。まるで包まれているような。
顔を離した住前君は、顔が若干赤くなっていた。
「……ありがとう。」
何だか胸までジーンと温かくなってきた。
「恭香さん。」
「住前君の言葉、温かくて胸が……」
そう言って胸に手を当てると、彼が私を抱きしめてくれた。
「……ホテル行く?」
私は体が打ち震えた。
まだ30にもなっていない男性に、キスされてホテルに誘われるなんて!
もう、この先の人生!ないかもしれない!
「うん。」
私達は腕を組みながら、ホテル街に入って行った。
「どこがいい?」
住前君に聞かれ、見上げたらそこはラブホ街だった。
「ええっと……」
あれ?私達、今結婚決めたんじゃなかった?
なのに、初めてのセックスがラブホ?
「あっ、ここ安いよ。2時間2980円だって。」
……2時間。なにその、セックスだけしよう的な時間の配分。
「さあ。恭香。」
でも、私の王子様が手を差し伸べてくれている。
私がその手を掴もうとした時だ。
「待て。」
結城が住前君の手を下に下げた。
「住前。年上の女で遊ぶのは止めろ。」
「いや、遊びじゃないですよ。」
「そう言えば、女はみんなホテルに連れ込めると思ったか?」
住前君は結城を見て、うーんと頷く。
「結城課長、もしかして恭香さんの事、好きなんですか?」
「馬鹿な事を言ってないで。さっさと帰れ。」
「はーい。」
住前君は返事をして、手を挙げた。
「じゃあ、恭香さん。今日は帰りましょ。」
住前君が私の肩を抱く。
「いやだから、こいつは俺が引き取るから。」
結城が私の肩から、住前君の腕を外した。
「ふーん。」
何かを悟ったかのように、住前君は私に手を合わせた。
「浅見課長。さっきの話は一旦、なかった事に。」
「えっ!」
私は息が止まった。
「では、お疲れ様です。」
住前君はお辞儀をすると、一人足を弾ませながら帰って行った。
「このっ、バカっ!」
そして私は結城に、頭ごなしに怒鳴られた。
「飲んだ帰りに部下とホテルに行く上司が、どこにいるんだよ!」
「部下って言うか……同じ課長職だけど。」
「この前なったばかりだろ!」
私は、惨めになった。
「そりゃあ、相手が部下でもホテルに行く時だってあるわよ。」
「ああ?」
結城が珍しく不機嫌だ。
「……プロポーズされたのよ。」
「プロポーズ⁉」
そうよ。俺を選んでって。仕事と家庭両立できるようにって。支えますからって、言ってたのに。
「結婚しようとでも、言われたのか?」
「そうよ。」
「現実見ろよ。何でおまえと結婚しようとしてる奴が、こんなっ!2時間2980円のラブホを選ぶんだよ!」
「値段じゃないわよ!」
目から涙が零れた。
「気持ちだよ。」
悔しい。私だって悔しい。本当は、高級レストランでひざまづいてプロポーズしてほしかった。
指輪だって、貰いたかったし。
その後、有名ホテルで一晩中イチャイチャしたかった。
この人とこれからの人生、生きていくんだって。
私を選んでくれたんだって、思いたかった!
「ううっ……」
年甲斐もなく、涙がボロボロ零れてきた。
「泣くなよ。」
「だって……人生初めてのプロポーズだったのに……っ……なかった事にしてって……」
なかった事って!何なの⁉
その場のノリだったって事⁉
すると結城が私を片手で抱きしめた。
「俺なら、そんな事しない。」
その時、ふわっといい香りが漂った。
あの原田君のように、安いボディミストじゃなくて。
高級な大人の香り。
「これだって思った女のプロポーズを、こんな場所でしない。」
「結城……」
「ホテルの一番高い部屋取って、一晩中抱く。」
私の事じゃないのに。私に言っているみたいで、心が落ち着いてくる。
「しっかりしろよ。おまえは、こんな安い女じゃないだろ。」
「うわーっ!」
私は結城の胸を借りて、思い切り泣いた。
いい女じゃなくていい。
価値のある女じゃなくてもいい。
誰でもいい。
だから、私を必要としてくれる人が欲しい。
お願いだから。私だって、愛されたい。一人の女として。
帰りは結城がタクシーで送ってくれた。
「ねえ、あんたさ。何で私の事そんなに買ってくれるの?」
「うーん。」
「同期だから?」
タクシーの窓に、結城が映る。
「……それだけじゃねえよ。」
だったら、何ですか?
私の事、女として見てるんですか?
しばらくして、結城の小指が私の小指に触れた。
「ごめ……」
離そうとしたら、結城の指が追いかけてくる。
そのたった数mmの密着が、一番安心した。
「住前君……」
こんなプロポーズ、聞いた事ない。
呆然としている間に、住前君の唇が近づいて重なる。
柔らかい。温かなキス。まるで包まれているような。
顔を離した住前君は、顔が若干赤くなっていた。
「……ありがとう。」
何だか胸までジーンと温かくなってきた。
「恭香さん。」
「住前君の言葉、温かくて胸が……」
そう言って胸に手を当てると、彼が私を抱きしめてくれた。
「……ホテル行く?」
私は体が打ち震えた。
まだ30にもなっていない男性に、キスされてホテルに誘われるなんて!
もう、この先の人生!ないかもしれない!
「うん。」
私達は腕を組みながら、ホテル街に入って行った。
「どこがいい?」
住前君に聞かれ、見上げたらそこはラブホ街だった。
「ええっと……」
あれ?私達、今結婚決めたんじゃなかった?
なのに、初めてのセックスがラブホ?
「あっ、ここ安いよ。2時間2980円だって。」
……2時間。なにその、セックスだけしよう的な時間の配分。
「さあ。恭香。」
でも、私の王子様が手を差し伸べてくれている。
私がその手を掴もうとした時だ。
「待て。」
結城が住前君の手を下に下げた。
「住前。年上の女で遊ぶのは止めろ。」
「いや、遊びじゃないですよ。」
「そう言えば、女はみんなホテルに連れ込めると思ったか?」
住前君は結城を見て、うーんと頷く。
「結城課長、もしかして恭香さんの事、好きなんですか?」
「馬鹿な事を言ってないで。さっさと帰れ。」
「はーい。」
住前君は返事をして、手を挙げた。
「じゃあ、恭香さん。今日は帰りましょ。」
住前君が私の肩を抱く。
「いやだから、こいつは俺が引き取るから。」
結城が私の肩から、住前君の腕を外した。
「ふーん。」
何かを悟ったかのように、住前君は私に手を合わせた。
「浅見課長。さっきの話は一旦、なかった事に。」
「えっ!」
私は息が止まった。
「では、お疲れ様です。」
住前君はお辞儀をすると、一人足を弾ませながら帰って行った。
「このっ、バカっ!」
そして私は結城に、頭ごなしに怒鳴られた。
「飲んだ帰りに部下とホテルに行く上司が、どこにいるんだよ!」
「部下って言うか……同じ課長職だけど。」
「この前なったばかりだろ!」
私は、惨めになった。
「そりゃあ、相手が部下でもホテルに行く時だってあるわよ。」
「ああ?」
結城が珍しく不機嫌だ。
「……プロポーズされたのよ。」
「プロポーズ⁉」
そうよ。俺を選んでって。仕事と家庭両立できるようにって。支えますからって、言ってたのに。
「結婚しようとでも、言われたのか?」
「そうよ。」
「現実見ろよ。何でおまえと結婚しようとしてる奴が、こんなっ!2時間2980円のラブホを選ぶんだよ!」
「値段じゃないわよ!」
目から涙が零れた。
「気持ちだよ。」
悔しい。私だって悔しい。本当は、高級レストランでひざまづいてプロポーズしてほしかった。
指輪だって、貰いたかったし。
その後、有名ホテルで一晩中イチャイチャしたかった。
この人とこれからの人生、生きていくんだって。
私を選んでくれたんだって、思いたかった!
「ううっ……」
年甲斐もなく、涙がボロボロ零れてきた。
「泣くなよ。」
「だって……人生初めてのプロポーズだったのに……っ……なかった事にしてって……」
なかった事って!何なの⁉
その場のノリだったって事⁉
すると結城が私を片手で抱きしめた。
「俺なら、そんな事しない。」
その時、ふわっといい香りが漂った。
あの原田君のように、安いボディミストじゃなくて。
高級な大人の香り。
「これだって思った女のプロポーズを、こんな場所でしない。」
「結城……」
「ホテルの一番高い部屋取って、一晩中抱く。」
私の事じゃないのに。私に言っているみたいで、心が落ち着いてくる。
「しっかりしろよ。おまえは、こんな安い女じゃないだろ。」
「うわーっ!」
私は結城の胸を借りて、思い切り泣いた。
いい女じゃなくていい。
価値のある女じゃなくてもいい。
誰でもいい。
だから、私を必要としてくれる人が欲しい。
お願いだから。私だって、愛されたい。一人の女として。
帰りは結城がタクシーで送ってくれた。
「ねえ、あんたさ。何で私の事そんなに買ってくれるの?」
「うーん。」
「同期だから?」
タクシーの窓に、結城が映る。
「……それだけじゃねえよ。」
だったら、何ですか?
私の事、女として見てるんですか?
しばらくして、結城の小指が私の小指に触れた。
「ごめ……」
離そうとしたら、結城の指が追いかけてくる。
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2021.08.13
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